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カテゴリ:NOVEL
どんなに六法全書を常に持ち歩いていても、よく分からないことは世の中には多々ある。
その内の一つが、ゴドーさん。この人のことを考えていると、いつの間にか日は傾いでいる。 私が成歩堂さんの弁護士事務所で働きだしてから、検事で敵である(と成歩堂さんから聞いたことがある)彼はしばしば此処を訪れる。 必ずと言って良い程、「アンタに会いに来た」と、私を口実にして。 「アンタの漆黒の闇のようなその瞳は、まるでミルクも全く入れない純粋なコーヒーのようで素敵だぜ」だの何だのと、あれやこれやと訳のわからない口説き文句を引っ提げてくる彼は、ある意味凄い人だと思う。 しかも、更に不思議なのは、そういう意味の分からぬクサい台詞が、彼には異様に似合ってしまうのだ。 検事の筈なのにわざわざ弁護士の事務所に来てそんな話をする彼は、やっぱり私にとっては不思議な存在で、とても気になる人だ。 ××××××××××××××××××××××××××××××××× 「なぁ、コネコちゃん。」 「はぁ。」 「今日のアンタの瞳も、まるで…」 言いかけたゴドー検事の口に、そっと手に持っていた六法全書を当てる。すると、奇妙な形容をしかけた口は漸く沈黙した。 「クッ…口説き文句は不要、か。」 「えぇ。」 気の無い返事をして、私は成歩堂さんのデスクの整頓をする。 ×××××××××××××××××××××××××××××××××× 今日は彼と真宵ちゃんは、先日の裁判で彼らが見事に無罪に導くことが出来た元・依頼人と共に祝勝会(という名のささやかなパーティー)をしに出かけている。 私も誘われたのだけれど、「実に依頼人を無罪に導いたのは成歩堂さんと真宵ちゃんで、自分は何も関与していないから。」と断らせてもらった。 いつもならきちんと彼らのお手伝いもしているのだけれど、今回はその裁判の下準備の頃から裁判の終了日まで、私は重い風邪で寝込んでいたのだ。 だから、全くと言って良い程に、その裁判と私とは無関係だったのである。 そんな訳で、することが無い中で必死に仕事を見つけてあれこれしている内に、気付いたら私だけしか居ない筈の事務所に 「精が出るな、コネコちゃん。」 と、白髪交じりで褐色の肌の持ち主の声が響いていたのだった。 ××××××××××××××××××××××××××× 「コネコちゃん。」 「はぁ。」 気の無い返事を維持しつつ、無気力に背後の彼へと振り向く。 依頼人が来た時のために成歩堂さんが購入した革のソファに、ゴドーさんがその長身を滑らせていた。 きっと今、彼がワインを片手に「君の瞳に乾杯!」なんてやったら似合うんだろうな、と勝手に想像してしまい、思わず軽く微笑んでしまった。 「雑用、ご苦労なこったな。」 「これも、事務所の大切なお仕事なので、気にしてません。」 「クッ…そりゃそうか…。」 “それもそうだ。”と付け加えて、ゴドーさんはニヤリと笑う。 そして続けざまに「お疲れなアンタに、ゴドー・ブレンドを奢っちゃうぜ。」と優しい声で言ってくれた。 「…他意は無いんですよね?」 「…さぁ、な。」 困ったような表情で私の問いに曖昧な答えを返すと、彼は事務所には置いていない様々な器具を取り出し始めた。それは、きっと彼オリジナルのコーヒーを作るのに必要不可欠な物なのだろう。 「さて、アンタはそこで座ってな。」 そう言われ、彼が今まで座っていたソファを借りる。僅かに温いそのソファに、軽く身を寄せて、ゴドーさんの背中を見つめる。 ××××××××××××××××××××××××××××××××× 「…さぁ、出来た。ゴドー・ブレンド118号だぜ。」 目の前に立ち上る蒸気に、コクリと軽く喉を鳴らすと、彼の手からマグカップを受け取る。そして、いっきに飲み干した。 「…苦いです、とても。」 「誰もが目を覆いたくなる程の苦さの中にだって、安らぎは潜んでるものだぜ?」 よく見てみるといいさ、と言って、ゴドーさんは唐突に事務所を出ていった。 ×××××××××××××××××××××××××××××××× 微妙に書き足りない。後半は寝ながら消し音ながら着ける感じで。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.01.30 00:30:21
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