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ちゃと・まっし~ぐ~ら~!

台湾・高雄「雨の龍虎塔」

高雄空港を出ようとした時、外は大降りの雨だった。
私は、会社の後輩の女性たちを20人くらい連れて4日間の添乗研修を行なっている最中だった。
高雄市内にはいるまで、ずっとその雨の中を観光することになる。
雨の澄清湖を見学し、高雄圓山大飯店で食事をした後、蓮花潭の龍虎塔の入り口に来た。
一人のおじさんが傘をさし、上下の合羽を着込んで、大きいが決して新しくは見えないカバンに絵葉書とフィルムを入れ、ポラロイドカメラで観光客を撮って生業としていた。
もとより大降りで、訪ねる人も少なそうで、おじさんの商売は決して繁盛しているとはとても思えなかった。
私たちのグループにも、本当に上手な日本語で「ポラロイドで300円!」と呼びかけてくる。
グループは私以外は25~6歳と若い女性ばかりだったこともあり、そんなおじさんにほとんど眼を合わせないかのように、塔の中に入って行く。
なんとなく怪しいと思ってしまって、係わり合いを避けるのだろう。
それはそれで仕方ない。
みんなが龍虎塔にはいってしまい、私はしばし一人で塔の写真を撮った。
その時、おじさんが近づいてきて、私の写真を撮ってくれるという。
おじさんは私の使い捨てカメラを受け取る。
立つ位置を決め、髪を直して、傘を少々高く持ち上げたところでおじさんはシャッターを切った。
「あなた、ガイド?会社の人?」とおじさんが私にきく。
その後ぽつりと「みんな若いから、誰も買ってくれないね。」と少し微笑しながら、少しあきらめながらおじさんが言う。
「ありがとう。」私はそれだけ言った。
本当は私自身も、写真を撮ってもらったことでいくらか取られてしまうのだろうかと思っていたのに、おじさんはそのまま私をやり過ごし、私は塔に入って行った。

塔内の見学が終わり、まだおじさんがいて「絵葉書、100円!」と次に来たグループに声をかけていた。
「フィルムあるよ。」とも言っていた。
やっぱり、誰も買っていなかった。
私はもう一度おじさんに近づいて行き「おじさん、風邪ひかないでね。」と言うと、おじさんは黙ってうなずいた。

また次のグループのお客さんを探すために、大きなカバンをもう一度持ち直し、傘をさしておじさんは立ち上がった。
おじさんの絵葉書や、フィルムや、ポラロイドの写真がどのくらい売れるのかを、龍虎塔からバスに戻る小道で考えていた。
その日、雨は一日止まなかった。
1993年7月11日のことだったと思う。




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