10koの徒然日記

「あなたが、蝶子さん・・・」　御前の表情に戸惑いが浮かんだ。

「あちきは…ススキノさまや萩に育てられました。ここを捨てて行くことはできません」

「アンタを必要としている人達がいると知ってて、それを言ってるの？」

御前の表情はくもった。「育てられた恩は、返さねばなりません」。

「なにばか言ってんのよ。現実をみなさい。アンタは萩や、そのススキノの生きる贄餌なんだよ。

アンタは、男たちの精気を吸いつくして、それを糧にしている古狐のエネルギーとして生きな

がらえている、中継人形なんだ。アンタが吸いつくした男の精気を餌として、そこの古狐は生

きながらへ、力を蓄える。アンタの身体をそんな風に作り変えたのは、アンタの後ろにいるス

スキノ様だ」

きつい現実をつきつける。「それでも！」御前は叫んだ。そしてうつむく。

「それでも育ててくれたのには・・・変わりはないわ・・・」

なんだろう。御前の心情風景が流れてくる。低学年の御前がランドセル背負って歩いている。

他の子供たちが嫌な言葉を叫びながら石を投げてくる。当たって、血が出た。

家に帰って、母親の情夫が来ていて中には入られないから、外にしゃがんでる。母からも邪険

にされて、独りで山で遊んでた。そのころにはすでに男を惹きつける素養があったのだろう。

　ある日のこと、学校から帰ってきたら家の中で、母の情夫たちがいた。

母親の情夫たちが児童ポルノを撮ろうと彼女を標的に襲ってきたのだ。母親は「金になるな

ら」と何もしなかった。かえって煙草を吸いながら、笑って見ていた。抗って逃げたが母親が

足を出して彼女を転ばせた。大人は皆笑っていた。撮影している男以外、大の大人達が彼女

の服を実況中継しながら破りとり、泣きながら彼女は丸裸にされた。１人の男が彼女にのしか

かろうとした時に、事は起こった。

　「おおおおおおおおお・・・・」

男が苦痛の声が響き渡る。泣きながらも、男の顔の変化を御前は見ていた。

それなりに若かった男の顔に、段々しわができ、細くなり、まるで枯木のようになってから、

彼女の上に倒れた。

彼女は驚いて上半身を起こした。全身に不思議な潤いのようなエネルギーを感じていた。

「ママ・・・　」　彼女は裸で立ち上がって母親の所へ歩み出した。自分でも何が起こったか

わからない不安から、母親に抱きしめて欲しかったのだ。

「ひぃいぃいいいい！　ばけもの！」　母親は叫んだ。

”ばけもの”。それ、あちきのこと？　

呆然とする彼女に背を向けて、大人たちは背を向けて走って逃げだした。その時、ストーブを

倒して出火した。炎の中で彼女は「ママ～」と叫んで泣いていた。だれもいなかった。

燃え盛っていく炎を見つめていたが、気がついたら逃げ出していた。

　家は全焼した。母も情夫達とどこかへ逃げてしまった。彼女は裸のまま山へ逃げた。独りだった。

しゃがんで泣いている時、カサと音がした。狐の萩とススキノだった。

「お前、儂らとくるか？」　ススキノの声に泣きながらうなづいてついていった。

　ススキノ達にも情がない訳ではない。彼女を育てるのにも餌がいる。自分達にもエネルギー

が必要だ。ススキノは御前の能力を完全に引き出した。そうして彼女と狐達の共同生活が始まった。

それは決して獣的なものではなく、むしろ御前にとって人間らしい生活だった。萩もススキノ

も人の形態をとり、女世帯として古民家に住みついた。

それから、村の男狩りがひそかに始まったのである・・・。萩が男を誘い、家につれてくる。

そして、御前がエネルギーを吸いつくす。ただそれは生き残るだけのエネルギーはのこしてい

たので、若い男は老人のようになってしまうのであった。御前は吸いつくしたエネルギーは、

萩とススキノに分け与えた。それは御前の人間に対するたしかな復讐だったのかもしれない・・・。

　ここでアタシははっとする。そうだ、風間くん！すっかり忘れていた。もう、遅いかな…。

干からびていたら捨てて行こう・なんてブラックな事を考えた時、ススキノが言葉を発した。

「御前、お前は最近自分を迎えに来る夢を繰り返し見ていたと言っておったな？」「はい」

「・・・もう、お前は人の世界に戻るべき時なのかもしれない」


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