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2006.05.10
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カテゴリ:自作の小説
あの娘の住む「アパート」が見えて来た。
人間の言葉は長老グレーから習う。
あの二階建ての外にドアがたくさん付いて、それぞれのドアに
別の人が住んでいるらしい家は「アパート」と呼ぶんだ。



でも、ここは変わっていて、同じような人間の女たちが住んでいる。
女たちが、まとめて暮らしている「アパート」らしい。
あの娘の部屋は、二階の奥の隅っこだ。



僕は、初めてこの「アパート」へ来た時、興味本位に一軒一軒たずねてみたんだ。
どの家でも、何か僕に食べ物をくれたけど、かつおぶしの家が、多かったな。
でも、のどに、かつおぶしが貼りついて、僕が、カーーーッなんて言って
むせようものなら、皆、笑うんだ。
ひどい話さ。かわいい、かわいいなんて言っておいて、苦しみ出したら
笑うんだから。



あれっ、僕はまた、愚痴ったか。そんなはずない。。。
こんなこと、野良にとっては日常茶飯事なんだ。
今更、誰かに聞いてもらう程のことでも無いしさ。
聞いてくれる奴なんてどうせいないだろうし。
何だか今日の僕はおかしい。
雲一つない、昼間の照りつける太陽のせいで、
頭がボーッとなっているんだ。



「にゃーー、にゃーー。」ガリガリガリ...。



あの娘のドアに、前足を立ててみる。
部屋の中から、かすかに物音がする。
きっと、いる。



前に来た時は、買い物帰りの彼女の足元から、
するりと部屋の中に入ったんだ。



彼女は、「キャー、何?」と驚いていたけれど、



「黒猫って、そんなに嫌いじゃないのよね。」なんて言いながら、
生肉をくれた。買い物袋から、そのまま、バリバリ出してくれたんだ。
その時、僕はラッキーだった。
調度いい具合に、肉にありつけたのさ。



         (三)



「あれっ、猫ちゃん、目の色違うね。さっきと。
猫ってやっぱり、生肉好きなのか。。。
動物園で見た、山猫みたいな顔になったよ。」



なんだ。うるさいな。山猫って。また長老グレーに聞く言葉が
増えたなんて、あの時は思っていた。
グレーによると、えらく大きい猫らしい。
でも、グレーも会ったことはないと言っていた。




それからは、時々その娘の家に遊びに行くようになった。
そうしたら、港で、親父から餌を貰っている僕に、
自転車に乗って港を走っていた彼女が遭遇して、
彼女のほうから親父に話しかけて来たのさ。



なんだ。僕は、もうすでに、キューピッドだ。




あの娘が部屋のドアを開けた。
「アレッ、クロちゃんだ。どうしたの。」
彼女は嬉しそうな声を出したが、すぐに僕の首のリボンに気づいて
しゃがみ込んで来た。
ああ、ようやく、この首の違和感から解放される。



彼女は封筒を開いて、読んで、少し顔を赤らめたが、すぐに顔を曇らせて
長い溜息をついた。



「クロちゃん。わたしね。就職するんだ。もうじき卒業なの。
もっと大きな町でね。ここよりも、もっと都会に働きに行くの。
ここも、お引越しして。会えなくなっちゃうよ。無理だよ。」



言葉に詰まっていた。僕は待っていた。
「クロちゃんとも、お別れだ。だから、今日は奮発するね。
牛肉あるよ。和牛だよ。すごいでしょう。」



知らないよ。でも、美味しいなら、早くくれ。
えっ、青いリボン。
嫌だよ。何でまた、巻きつけんの。



「この青いリボンの裏に、新しいアパートの住所、書いといたから。
斎藤さんなら、このリボン取って、いつか見てくれるよね。
すごく遠いから、会えるとは思えないけど。」



斎藤さん。ナンだ、それ。親父の名前か。
じゃあ、あんたは。
君の名前は、何ていうの。



「にゃあ、にゃあ...。」



「何?もう外に出たいの。つれないなあ。
もう会えないかもしれないのに。
はい。バイバイ。元気でね。クロちゃん。」



パタン。



ドアが閉まった。
お腹がいっぱいだ。でも、なんか胸がもやもやする。



ちょっと、あの公園に寄って、子供たちと遊んでみるか。
命がけだが。
それにしても、人間から話を聞くばかりなのも悔しい。
何とか、こっちの気持ちも知らせてみたいもんだ。
あれっ。またおかしな事を、今日は良く考える。



太陽が更に傾いて、僕の目がどんどん冴えてきた。
あのガキ共との命がけのゲームも、簡単にクリア出来そうだ。
あいつら、いるかな。




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最終更新日  2006.12.27 14:27:05
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