贅沢な昼寝

2008/11/11(火)21:58

ひと関連(30)

Oct,26,2006 黒猫を埋めた裏庭に今年もツツジが赤い花を咲かせた。猫の埋葬以外にこの庭で私が唯一やった事はツツジの剪定で、思い切って刈り込むときまってたくさんの花をつけた。 39年前にこの家に越して来た。黒猫を埋めた場所は最初砂場になった。ブランコも置かれた。幼い姉妹が砂遊びをしなくなると楓が植えられた。隣にはガクアジサイ。ツツジはまだ小さな鉢に入っていた。 猫の額ほどの庭はすっかり低木と花の咲く植木で埋められた。それは父の庭だった。夏になれば朝顔の種を縁側に沿って一列に撒き、丈竿に蔓をはわせていた。濃い紫色の花が咲く朝、ラジオ体操に出かけた。 まだ30代だった父と母は少し幸せそうだった。母は髪を長く伸ばしていたのに、私たち姉妹は短く切られていて、その事を不満に思っていた。「お母さんの子どもの頃に顔が似ている」そう父が言ったとき、馬鹿にされたような気がして涙が出た。母の子どもの頃の顔は、真っ黒に日焼けし少年のようだったから、自分でもそれが似ていると思ったからだ。 夜中トイレに行きたくなると、きまって寝床から母を呼んだ。隣室に休む母が起き出して、廊下の突き当たりにあるトイレまで一緒に行く。暗闇が怖かったからなのか、父から母を離したかったからなのか。 ある晩、何度呼んでも母はこない。しばらくすると上半身裸の父が来て、私をトイレに連れて行った。翌朝、隣室を覗くと母はまだ横になっており、私に気づくとシーツを引き上げて裸身に巻き付けた。 黒猫を埋めた裏庭は、ツツジ以外はすっかり変わり、枯らした木も少なくない。日がな一日庭を眺めていた晩年の父は、それなりの手入れをしていたのだ。いなくなってみると、そのことがわかる。 朝顔は年々花が小さくなり、紫から青へと色を変えた。父が最初に撒いた種から毎年出来る種を取り、翌年撒くのは花の仕事になっている。

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