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夢の世界へ

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負け犬

産まれてくる赤ちゃんは
大概はみんな元気に産まれてくるものだと
勝手に思いこんでいた。

佑汰の産まれてきた意味って何だろう
という疑問が日増しに強くなった。

ある日
本屋である本を見つけた。
それは、ある男の子がお姉ちゃんと喧嘩をして
『死んだら絶対恨んでやる』と捨てぜりふを叫んで
家を飛び出して、本当に交通事故で死んでしまった。
救急車で運ばれる中、この世で最後に姉の泣きじゃくるのを見て
なんでお姉ちゃんにあんな事を言ってしまったのだろうと
後悔しながらあの世に行ってしまう。
あの世は不思議な空間で
みんな一様にどこかを目指して歩いているのである。
歩いているうちに生前の記憶がだんだん無くなり
ふと気づくとこの世に産まれ戻るキーワードが見つかるのである。
という物語の始まりである。
そこまで読んだら胸がいっぱいになってしまって
それ以上はどうしようもなくなってしまった。

ある日
テレビを見ていたら
8つ児を出産したドキュメンタリーの事をやっていた。
タケシのアンビリーバブルだったかな?
私など比にならないくらいの
8人の小さな赤ちゃん達の命のリレーである。
結局は8人全て亡くなってしまったのだが
その頃を回想しながら話す、もう年老いてしまったご夫婦の
『8人の子供達は結局は亡くなってしまったが
彼らは私たち夫婦の自慢のベビーだった。
小さいながらも懸命に死と戦った我が子を誇りに思います』
というコメントに
声を上げて泣いてしまった。

産まれてくるのに意味なんていらない。
生きていることに意味なんていらない。
私は、こんな単純な事が分からず鬱々していたんだ。

それでも当初こんな私を見て
旦那は『また産めばいいじゃないか』と
慰めているらしかった。
私は佑汰は佑汰なんだから
代わりなんていらない。と思った。

その考えが変わった瞬間をよく覚えている。
それは佑汰を産んだ産婦人科に
産後の経過と佑汰の手術結果と
おっぱいを止める薬を貰いに行った時の事だった。

診察の順番を待合室で
他の妊婦のお母さんの中で待っている時
私は途中、看護婦さんに呼ばれ
別室に通された。
診察の為に出はなく
たぶん、病院側の気遣いからだろうと思う。
明るく日の当たる、静かで綺麗な部屋。
そこで独りでポツンと待っていると
世話をするベビーの手元にいない先日の入院生活を思い出す。
そして今は無事を祈る佑汰もいない。
なんか無性に負け犬になった気がして
佑汰だって悔しい思いをしている気がして
こんな終わり方をしてはいけない。と思った。

リベンジ・新しい命

私は旦那に一つの提案をした。

『あと8ヶ月で私の39歳の誕生日だから
それまでに妊娠が確認できれば子供を産む』

妊娠してから2~3ヶ月しなければ妊娠を確認出来ないので
実質的には5ヶ月である。
その間にもし出来たのなら産もうと思った。
希薄な賭である。
旦那は仕事であまり家にいない。
お兄ちゃん・お姉ちゃんは年が大きいので遅くまで起きている。
姑も夜型で遅くまで起きている。
私の体調もまだ本格的ではない。
この状況の中、妊娠できたら奇跡的である。
もし妊娠したら、亡くなった佑汰が応援してくれている気がする。
そう思った。

妊娠がはっきり分かったのは
4ヶ月後のことである。
出産予定日は平成14年9月28日。
今のチビがお腹に入った。



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