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続「とりかへばや物語」時々「源氏」

橘中納言友雅の語れる

 中宮様はあかねだ。
 気づいたのはいつ頃だったか……。帝の御前に伺候していたとき、中宮様が同席されておいでの折りがあって。席を外されようとなさったところへ、帝がお声をかけられて、お返事をなさった。
 あかねの声だ。間違いない。あの話し方、私が教えた。男言葉が長かったから。間違えようがないよ。
 私の前から急に消えて……。どれほどさがしたか。でも、なぜ、どのように、中宮様になられたのだろう?
……では、やはり、そうだったのだね。あかねが女だと思ったとき、きっと、そうだと思ったのだよ。永泉の姫は実は男で、大納言になられた永泉の君。あかねの姫は、私の元を去ってから、永泉の姫の代わりに東宮御所に入られたのだね。そのとき知っていれば……。予感通り、帝に見つけられて、ご寵愛を一身に集める身になってしまわれた。もう、手の届かぬ、高みにのぼってしまわれた。もう、私の手には戻ってこないのだろうか……。
 いや、何か方法があるはずだ。たとえ謀反と言われようと、あかねは私のもの。取り返すは無理としても、お逢いすることはできるはず。なんとか、中宮様にまみえる機会はないものだろうか。



侍所頭領源頼久の語れる

 友雅殿の動きがおかしい。
 中宮様の御殿は警固が厳しくて、ろくに恋人も来させられないと御達がこぼすほどであるのは有名な話。何人もの若い公達が果敢に警固に挑戦しては、誰何されてすごすごと引き返すのを何度も目にしている。
 友雅殿ほどの身分のお方がそんなことをするわけがないと思ったのだが……。
 中宮様の御達の一人に文を通わせているらしい。それもかなりお側に近い……。その御達が目的か? それとも、姫様に気づいたのか?
 気づいたとすれば、ゆゆしきことだ。御所ではさすがに無茶だから、中宮様のお宿下がりの時が危険だ。
 侍所の訓練を強化しよう。 それから、お宿下がりの情報が外に漏れないように。
 大刀自の女房殿にも、お話ししてこよう……



籐治部鷹通卿の語れる

 友雅殿には、おやめになるようにと、ずいぶんお停めしたのです。
 中宮様の御所は警固が厳重です。ましてや、今の中宮様は、帝の寵愛をその一身に集めるお方。特に厳重になるのは当たり前です。
 今までにもいろいろ無茶な恋愛をなさっていましたが、今回は、殊にひどすぎます。
 中宮様に懸想ですって? いったい、何を考えておいでなのか……。
 
 友雅殿の若君の母上は、中宮様?
 それは……真実ですか?
 友雅殿は、その姫君をずっと捜しておられたと?
 中宮様は、以前は、東宮の内侍として宮仕えしておられた。
 確かにそのころ、ご病気で長くお里下がりをなさった時期はありました。
 そのとき、ですか?

 ああ、それならわかりました。
 友雅殿は、人が変わられたように、何かをさがしておられた。
 物事に執着なさらないのが信条の方だったのに、一体どうしたのだろうと、いぶかしく思っておりました。ようやく、見つけられたのですね。それはよかった、と言うべきでしょうか?
 やはり、中宮様ではね、無茶ですよ。
 男として、友雅殿のお気持ちは理解できますよ。私も以前、東宮の内侍に恋していました。が、私は家柄がないですから、権門の姫君は高嶺の花とあきらめましたよ。そっくりの兄君の顔を見て、慰められながらね。 。
 理解はできますが、やはり、とめなければ。これは、謀反です。命をかけて中宮様にお逢いしようなど、愚の骨頂というものです。友人として、とめる義務を感じます。


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