『駅弁小説』弁当に架ける箸・第1話
空は曇り、すっきりしない天気だ。そんな朝、俺は起きる気もなくただ目を閉じていた。まるで現実を見たくないかのような状態に陥っていた。ふと目を開けると、あるチラシを見つけた。そこには「駅弁フェア」なる文字か書かれていた。駅弁…、俺はあの3年前の嫌なことを思い出さずにはいられなかった。 あれは3年前のある日の事だ。俺は唯一の親族である妹と一緒に歩いていた。その時正体不明の集団に襲われた。俺は地面にうずくまっていた。気づくと妹の姿はない。俺の口の中にはうますぎる風味が占拠していた。そう、まるで鋭気を吸い取ってしまうかのように。その後俺を襲ったのは暗黒の駅弁集団「ダース・ベントー」である事を知った。妹は連れ去られてしまったのだろうか…。今となってはわかるはずもない。 あの時から俺は駅弁のことは思わないようにした。あのつらい過去を思い出してしまうからだ。しかし、こいつらが庶民に襲いかかっているということが事実である事も知っていた。やはりこの呪縛から解けられないのだろうか。気がつくと俺はその会場へと向かっていた。 「駅弁フェア」、買い物客はこれとばかりに何を買うか迷っている。俺も買うつもりはないという素振りを見せながらも弁当を一つずつ見ていた。すると、一つの弁当を見つけた。「小倉駅のかしわめし」なる物体。もしかしたらあの時こいつもいたのか?なぜかそんな気がしてならなかった。奴は「どうだ!俺と勝負してみねぇか」と言わんばかりの風体。とにかくここで立ち止まるわけにはいかないようだ。俺はこのかしわめしに勝負を挑む事にした。 パッケージの鶏がにやついているようにも見える。ついにあの時の屈辱を晴らす時が来たのか!?とにかくふたを開ける。 なんとも色とりどりだ。まさに「食えるものなら食ってみろ」と言っているかのようだ。すると、かしわめしはいきなりウグイス豆を発砲し始めた。あっけにとられる俺の口にウグイス豆が打ち込まれる。なんという甘さだ。この甘さが舌の中でじっとりと溶けるようだ。あまりのうまさに言葉が出ない。すると、ついにかしわめしが俺の口の中へ攻撃を始めた。炊き込みごはんにかしわのベストマッチング。これほどまでに強力タッグを見せられた事はなかった。さらに錦糸卵が飛び込み舌に絡み着く。こうなってしまうと俺は動けない。かしわめしに翻弄されるがままである。容赦ない「うまい攻撃」が俺を襲う。おかずのきんぴら、レンコン、ウズラなどが俺の体を叩きつける。これほどまでの美味があっただろうか。何もかもがうますぎる。ついには俺の脳には「うますぎる」という言葉しか浮かばなくなっていた。 このままではやられてしまう…。その時、俺のポケットの中に箸が入っていた。そうだ!この箸は妹とそろいの箸…、これさえあれば。その瞬間俺の体の中に恐ろしいぐらいのパワーが宿った。直後、俺はかしわめしに箸を入れていた。その後はただがむしゃらにかしわめしをかきこんだ。しかし奴も黙ってはいない。俺にさらなる攻撃を仕掛けてくる。が、俺は受け流しつつ奴にダメージを与えていった。そして、ボロボロになりながらも完食し勝利を修めた。かしわめしは最後俺にこう言った。「あんた、とてもケッコーな奴だぜ。だが、ダース・ベントー様に勝つにはまだまだだぜ…」この言葉を残し、かしわめしは消え去った。やはり、ダース・ベントーに絡んでいたのか。そうとわかれば現実を見つめなければいけないようだ。この箸とともに俺は戦う。そしていつの日かあの幸せを取り戻してみせる。いつになるかはわからないがきっと…。 (つづく)※これは「弁当を買って食べた」と言う所以外は絶対にフィクションです。間違っても本気にしないように。