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つららの戯言

つららの戯言

見てみたら「吉原御免状」東京千秋楽

吉原御免状 青山劇場 10月5日 東京千秋楽

 S席との境のA席センターブロック。全体を見渡せるA席としてはかなりの上席。
 
 双眼鏡の用意をして舞台を見ると 舞台の中央 右手から差し込む青白い
薄ぼんやりとしたすっぽと。右にある薄の辺りが影をつくって逆さの薄の影が中央に浮かんでいる。そこを切り裂くように左手から1本の細い白いライト。
 照明さんのミスでどこかの明かりが漏れていたのか、それともこれも床照明の演出の一つなのか。前回2階席で見たときにはなかったような気がする。
2階席の人しか見られない綺麗な光景だった。

 今回の吉原御免状、「大人の新感線」と名打っているだけあって、千秋楽だからといって芝居がぐずぐずになるほどの崩しやアドリブ等は一切なし。唯一その路線を継承していたのは地獄の女たち、その中でも中谷だけだったような(笑)
 
 天下の堤真一、天子様の前で襦袢の前をべろ~んと開けるのは中谷@紅梅
だけだろうて(爆)いや、あまりの潔さに目を丸くして爆笑。わざわざもっている七輪を床に置いてまでの身を呈してのギャク。
 その中谷の暴挙に反応したのか、おひょいさん@幻斎までもが体当たりのギャク返し。毒アザミ(本当の名前はアザミノ)がいった偽りの年齢に気絶して、腰掛けていた椅子ごと横にコテンとずっこけた!
 それに慌てたのは地獄の面々。だっていつもふらふらしている藤村さん。
もしや上演中に!と思ったのか、アザミノさん本気でびっくりしていた。
 それにしても地獄組の面々は本当に可愛らしい。生きてく上でのつらいこと、哀しいこと、そこらへんを全部ぐるっと丸めて笑い飛ばせる強さ、優しさ。それが女の逞しさ、大らかさ。
 どんどんと辛く切なくなる芝居だけに彼女たちがこの芝居の一服の清涼剤。

 そんなギャクまでも飛び出せるほど、調子の良かった幻斎くん。
台詞は完璧、まあそれが役者としては当たり前なのかもしれませんが(笑)
忘れてしまった、かんでしまった台詞があるとその言葉をうやむやにして
しまうことが多かったけれど、今回はちゃんと言い直していらっしゃいましたし。
 今までは間なのか、それとも台詞が出てこないのか微妙な綱渡りだったけれども今日はちゃんと「溜め」としての空白もきっちり見せてもらいました。
 今まで「修羅」となり、傀儡の長として、傀儡を吉原を守ってきた男が
やっと自分の跡目を継がせる男が出てきてくれた嬉しさと、自分の最期を
感じながら、その男に託そうとする思いみたいな深さが現れていましたね。
「修羅」になる辛さも承知の上で、次に託すわけですからねぇ、受け取る方だって生半可な気持ちで受け取れない。天主様の子だからと血筋だけで選ばれたのではムリだって誠一郎様は思うわけだし。
 ただ今回の幻斎くんは本当におじいちゃんなので、夢の幻斎くんとの違いが多すぎて繋がり、歴史みたいなのがなかなか感じられないのが残念だ。もうちょっと動けるとね、「年を取る」ということが繋がると思うんだけど。

 
 今回の私なりのキーワード「色気、蓄積、躍動感」のうちの「蓄積」が
この幻斎くんから感じられる「今まで生きてきた、戦ってきた重み」です。
義仙が劇中にいう「人を斬るたびに溜まるどす黒いもの」、幻斎だって
吉原を、傀儡を守るためにたくさんの人を殺めてきたはず。いまのひょうひょうとしたたたずまいからは想像できないほど思い業を背負っている。

 「蓄積」は劇中の人物だけじゃなくて、芝居全体にいえることで、スタッフさんの技術レベルの蓄積は半端じゃなくなっている。
いのうえさんをのび太君とし、スタッフさんがドラえもんだと例えることが
多いが、もうそういうレベルじゃなくなっているような。
 各自それぞれが、それぞれの世界での高レベルの技術や能力を持ち寄って
1本の芝居を作り上げる。いのうえひでのりという人間の脳の中で出来上がっている現象を具現化するために、音を作り、明かりをあて、セットをくみ上げ、殺陣をつけ、衣装、小道具を用意する。
 信頼関係という生ぬるいものではないスタッフワークを感じる。

 キーワードの最初の「色気」に戻ろう。

 女優人の脱ぎっぷりばかりが注目されて、女性週刊誌や写真誌では
松雪@勝山のまたぐらに顔を突っ込んでいる映像ばかりが取り立たされているがあのシーン以上に「色気」漂うシーンがたくさんあるではないか。
柔肌見せればいいのか!?って思ったりもするが写真では伝わらない色香が
劇場にはたっぷりと漂っていました。

 女優で一番色っぽいのが脱がない勝山だっていうのが凄いっちゃ凄い(笑)白い襦袢のそそる事・・・。女優さんは基本痩せすぎなんで重い太夫の着物を着物を脱いじゃうと色っぽさってなかなかでない。京野さんとかも脱いじゃうと細くって魅力半減でしたものねぇ・・・。あれじゃ脱ぎ損か・・・(汗)
その点、脱がない勝山は乱れる着物から見える白いおみあしや、首元がとっても色っぽい
 女優人の「色気」よりも私がクラクラしてしまうのはやはり男性人の「色気」
 
 眼鏡なし低音ボイスの粟根さんや、傘差し掛ける美声の川原さん、
男の生き様が裏表のじゅんさん@宗冬、善さん@水野のそれぞれ、さまざまな色香にフラフラ。水野さんはいいなぁ、いいっすよ。夢のシーンでジュウザとして幻斎の友をしているだけはある。生まれてくる時代を間違えた男、そうね、きっと。その反面、宗冬は懸命に時代に合わせようともがいている男か。

 今回は背中で見せる芝居が増えているような気がする。誠一郎の町を去る場面や義仙が兄宗冬に談判する場面など、完全に客に背中を向けて演技をしている。
 背中だけじゃなくて、表情の見えにくい角度にたたせることも多々あり。
義仙が勝山を失ったあと怒り狂う誠一郎と対面する場面、前の方に座っていてもなんとか顔を見れるぐらいの角度で待ち構えている裏柳生の総帥。その表情は怒りに狂う誠一郎をあざ笑うようで、冷たい笑いを浮かべている。
 「顔の表情に頼らなくても観客に伝えられる演技」ができるっていうことを分かった上ではないとできない演出。それに見事に応じている役者。立派で御座います。

 
  最後のキーワード「躍動感」

 大人芝居」のはずなのに、いつも以上に舞台の上を走り回っております。
 生き急ぐようにたくさんの人々が町の中を、守るもののため、守りたい人のために懸命に走ります。その走る姿に胸がぎゅっと締め付けれられるほどに。

 特に惨たらしい姿で磔になっている勝山の元へと走る誠一郎さま、サントラの「さだめ」の曲が泣かせます。最後は柳生の女ではなく吉原の女として
郭言葉に戻る勝山。過去を捨てた最後の言葉。
「ぬしさんに・・・ほれんした」
彼女が誠一郎に出会えたことが幸せだったのか・・・、知らなければ死ぬことは
なかったかもしれないのに、見つかるかもと危険を覚悟しての逢瀬。最後に逢えただけでも彼女には幸せだったのかも知れない・・・・。
「夢は儚い・・・・・。」おばばさまの言葉はツラク、オモイ。

 
 なんか本当にいい芝居になってしまって、初日が及第点とか言っていた
自分が情けない。

 惜しむらくは、あとちょっとの京野ことみ@高尾太夫。せっかくいのうえさんに最後の演出を変えてもらって、誠一郎の悲しみも辛さも全部引き受けるっていう感じになったのだけれども今ひとつ託せない。
他の女で傷ついた男、丸ごと許せる包容力、母の愛に似た無限大の包容力を
彼女の中に見ることはまだできない。あれじゃその後に続くあしゃぶちゃんにぜ~んぶ持っていかれてしまいます(笑)

 大阪でどんな風に化けるのか・・・・。おひょいさんの台詞のリセットが押されないことを切に切に望みます。
  


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