カテゴリ:ホテル業・観光産業
「利用客の目線で」ということでは評価が高いはずのホテル業界だが、それでも「業界の常識」「ホテル屋のこだわり」のために利用者目線から離れてしまっている例も多い。
ホテルは欧州や米国から入ってきた業態だから、バスルームはバスとトイレが一体になっているのが「常識」だ。高級ホテルだと、これに「シャワーブース」が加わることも多い。欧米の人にとってはトイレも風呂も「汚いものを流す」場所だから、それらが一体であっても何も違和感がない(欧州の古い石造りの建物に、後から水洗トイレや家庭用の風呂を設置するに当たってはそれが効率がよかったという物理的な事情が、そのまま文化になっている)。 しかし我々日本人にとっては、トイレは「穢れの場」であり、風呂は「清めの場」である。それが同一の空間に同居するのは本能的にどうも居心地がよくない。最近、高級ホテルを中心に「個室トイレ」と「洗い場付きバスルーム」が多くなってきたが、「ホテルは欧米のもの」という常識を離れ、実際の利用者である日本人(つまり、私達一人ひとり)の視点に立ってみれば、当然の結果である。だが、日本のホテルがそんな当たり前のことに気付くまで、初めて日本にホテルが建設されてから一体何十年かかっただろうか。 もっとも、バスルームの改装はコストが極めて高い。新設のビジネスホテルでは、最上階に大浴場を設置することでトータルのコストを抑えているが、古いビジネスホテルの改装ではそれさえも難しく、ますます競争が激化する中、既存のホテルの苦労は想像に余りある。 そんな中、客室そのものを全く新発想で改装した一つの答えが、岡山ビューホテルの床に座ってくつろぐ部屋や靴を脱いでくつろぐ部屋であろう。これだと狭い客室面積をいじらずとも、またバスルーム改装ほどのコストをかけずとも、他とは大きく差別化でき、かつ利用者が本能的に望む「くつろぎ感」を提供できると言えるだろう(ちなみに、私自身、ホテル勤務時代に畳敷きのスイートを提案した覚えがある)。 ほとんどコストをかけない例で言えば、ツインルームには白と青の二色のタオルを設置したAPAホテルも秀逸だ。特に団体旅行(社員旅行など)で男二人でツインに泊まったときなど、どっちが使ったタオルかはっきり分かったほうがいいに決まっている。だがホテルの常識として「タオル類は純白」という思い込みがある。洗濯後のチェックの際に毛髪等が残存していれば見つけやすいという理由はあるものの、「純白のタオルこそホテルの伝統」というような思い込みが、利用者の本当の願望を見えなくさせていたのだろう。 わずか数年の歴史しかない高速ツアーバス業界でさえ、既に、よく言えば「業界のこだわり」に時々出会うことがある。現場のこだわりが品質を高め、かつスタッフの誇りにつながることはホテル勤務時代からよくよく承知しているが、最終的にそれを評価するのは利用客である。それらのこだわりが「業界だけの常識」「独りよがりの思い込み」になっていないか、常に自分達を律していきたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.04.03 19:44:02
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