私の古巣のホテルが沖縄に進出することが発表された。「関西の迎賓館」として80年近い歴史を持つこの老舗ホテル企業は、高度経済成長、土地の右肩上がり神話の中で長い間「いい時代」を過ごしてきた。その勢いでバブル期には全国展開を図り続々と新規ホテルを開業させたばかりか、「関西発の世界チェーン」を目指してニューヨークなど海外にも積極進出した。ただ、残念ながらその多くは営業的に失敗に終わり、外資系投資ファンドや新興ホテルチェーンに売却された。銀行からの出向組を中心に売却にたずさわったメンバーは苦しい交渉が続いただろうが、そこで得た現金が会社の危機を救った。完全復活とはまだまだ言えない状況だが、新規ホテルは嬉しいニュースだ。
私としては、一度は新規ホテルの開業にたずさわりたいと考えてホテルに就職した。構想段階から何年も準備を重ね、だんだんと完成に近づく自分のホテル。だがホテルは建物ができて完成ではなく、スタッフの教育や開業プロモーションなど、開業日に焦点を合わせてソフト面の準備が続く。ヘルメットをかぶって、まだ無人の開業前のホテルで開業準備に追われる自分の姿を夢見ながらホテリエ生活を送ってきた。だが残念ながら私は新規開業にたずさわることはなかった。バブル崩壊直後に社会に出た以上、仕方がないことかも知れない。
一度、格安ホテルチェーンの、オープン初日に宿泊したことがある(西口バイト時代の仲間達と一緒に地方の高速バスを乗り歩きに行った時だ)。翌朝、無料で供されるおにぎりと味噌汁の朝食をロビーで食べながら、「あの棚を90度動かした方が動線もよくお客様にもわかりやすいのにな」と心の中で思った。直後、チェーン本部から派遣されたと思われるまだ若い女性スタッフが現地の支配人に対し、私が感じた全く同じことを指示していた。どうしても新規開業に立ち会いたい、とあらためて強く思った瞬間が忘れられない。
一方で、売却されていったかつてのグループホテルは、外資ファンドや新興チェーンによる新しいマネジメントの元、ほとんどが営業的にも成功し経営的にも利益を上げるまでに復活している。老舗ホテル企業ではうまく行かなかったことを、彼らはこともなげに成し遂げている。そこまでには多少の人員削減もあるにはあったが、「いい時代」を忘れられない老舗企業による甘えの経営ではなく、苦しい時代に立ち向かう筋肉質の経営スタイルがそれらのホテルを再生させた。コスト削減のような経営的側面だけではない。消費者ニーズを巧みに取り込むというホテルの運営面でも、老舗ホテルが何かを忘れてしまっていたことに、血を分けた兄弟が別の道に進んだのを見てあらためて気づかされる。
結局、私自身は、新規ホテルの開業も、ダメになりそうなホテルの再生も、直接立ち会うことはできなかった。バス産業で、同じようなシーンを自分が実現することはできるだろうか。
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Last updated
2009.04.11 13:28:19
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