カテゴリ:ホテル業・観光産業
先週末は箱根の宿「箱根エレカーサ ホテル&スパ」へ。必ずしも安い宿ではないが驚くほど高いわけではなく、サイト上のビジュアルやクチコミ情報「お客さまの声」に投稿された内容を読む限りコストパフォーマンスは高そうなので期待して予約した。ビジュアルを見る限り、こじんまりしたお洒落なリゾートである。スタイリッシュな内装とイタリア料理をベースにしたディナーが売りで、プライベート感あふれた上質な宿といった印象だ。
ただ、もともと企業の健保組合の保養所だった建物だという情報は、元ホテル屋として実は知っていた。周囲にも同様の保養所が多く、なじみのある大手私鉄の健保組合のものらしい保養所もいくつか見かけた。以前、「ホテル時間・旅館時間」でご紹介した栃木の宿が、たしかに見た目はお洒落なリゾートっぽく見えたもののどことはなしに「旅館の時間」が流れていて、「ホテルの時間」の方が好きな私たちにはちょっと不満が残ったので今回も内心少し不安があった。宿に到着して内外装に目をやれば、その気(中古バスの出自を調べるような感覚?)で見るなら、たしかに保養所だった名残が散見される。 しかし、チェックインのオペレーションからディナー、そして翌日のチェックアウトまで、いい意味で予想を覆し、保養所の建物をコンバージョン(業態転換)したという「中古」としてのネガティブな印象はほぼ感じなかったと言っていいだろう。十分に週末のステイを堪能できた。特に、ディナーの開始時刻を幅広い時間帯から選べたり、チェックアウトが11:00と(このクラスのリゾート施設としては)遅めだったりと滞在者が自分の時間軸で滞在を組み立てていける点は、上質なリゾートの要素を十分に満たしていると言えるだろう。食事について、軽いアレルギーを持っている旨をあらかじめ伝えておいたところ、見事なまでにスマートに対応してくれた。客室も料理も接客も、少なくともこちらが受ける満足感では1クラス上の高級リゾート並みだった。 十分に満足しただけに、この建物が企業の保養所だったときのことをつい想像してしまった。さすがに今の私の会社にはそのようなものはないが、前の会社は創業70年を超える老舗企業であり、近郊のリゾート地にこのような保養所があった(同様に健保組合のものだった)。社員旅行が華やかなりし頃はよく利用されたのだろうが、特にホテル企業というのはシフトで動いていて部署全員がいっせいに休むことが難しかったこともあり、さて、年にいったい何回使われていただろうか。私自身、みんなでお酒を飲みにいって仕事の話をしたりするのは大好きなほうだが、かといって貴重な休日を上司や後輩に気を遣いながら過ごすことに好んで費やそうとは思わないし、ましてやプライベートの旅行で自分の会社の保養所に宿泊してそこで上司の家族と顔を合わせるなど、どう考えても「保養」になるとは思えない。さらに、健保組合としては保養所を自ら所有・維持していくコストも無視できなくなっている。<※それゆえ、最近では企業の福利厚生を一括して受託する会社(ベネフィット・ワンなど)が人気だし、逆に、保養所の運営を健保組合などのオーナー側から受託してしまう会社(四季倶楽部など)も台頭している。> 社員に対する福利厚生が不要だと言っているのではない。上司部下の親睦が不要だと言っているのでもない。少なくともある時代において、週末に部署単位でビールを飲みながら小田急ロマンスカーと路線バスを乗り継いで箱根の保養所に出かけることが、保養所を構えられるだけの「立派な企業」で働くことの特権として誇りとして感じられたこともあっただろうし、そのような時間を通して上司部下の親睦が深まり、そのことが企業にとっても大切だった時代があったのは間違いない。しかし今の自分に置き換えてみると、むしろ休日は、自分自身の価値観に合わせて家族や友人との時間を過ごすことが優先だ。全ての日本人が私と同じ価値観だとも思わないがおおむね同じ傾向だろうから、どの保養所も私の前の会社のそれと同様、稼働率は極端に低いだろう。あくまで想像だが、この建物が保養所だった昨年までは、稼働率は高くなかったことだろう。たまに部署単位で社員旅行を受け入れたりすればご機嫌なのは年嵩の上司だけで、内心はイヤイヤ付き合っている若手社員の姿に、この建物は同情していたのか、それともこれも仕事だと気づかぬふりをしてきたのか。 それが、お洒落なホテルやウェディング施設を運営する会社に託され、今や見事に上質なリゾートに生まれ変わった。スマートなユニフォームに身を固めたスタッフが生き生きとゲストを出迎え、ゲストはそのサービスに身をゆだねる。着飾ってディナーを楽しむレストランでは、満室とはいえ14組しかいないゲストの内、なんと3人ものゲストがバースデーの祝福を受けていた。特別な日の夜を楽しむためにわざわざこの場所を選んで足を運んでくれるカップルがいるという栄誉を、この建物はいま噛み締めているに違いない。 私自身、元ホテル屋として、チェックイン客の少ないロビーや閑散としたレストランに流れる空気がどれほど淋しいものか、身にしみて知っている。「選んでもらえない」「使ってもらえない」ことが、万全の態勢(少なくとも意識としては)でお迎えしようと意気込んでいる現場のスタッフにとってどれだけ残酷か、よく知っている。一人でも多くの潜在顧客に高速バスの存在と魅力を伝え、一人でも多くの利用者を高速バス各社にご送客する・・・・・・それが今の私の役割であることに、私としては心から誇りを感じている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.04.06 20:17:02
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