運輸政策コロキウム~乗合バスの規制緩和~2
この「運輸政策コロキウム」については当日の日記でも紹介しているが、あまりにも思慮の足りない某私鉄系路線バス事業者の発言に憤ってしまいそのことばかり書いてしまったので、あらためて感想など。大井先生の講演では、規制緩和がメリットをもたらす先を、事業者・利用者・行政と3つの立場から捉え、それを高速バスや空港連絡バス、都市の平バスや地方の平バス等のセグメントを分けて実例を挙げながらメリット、デメリットを研究なさっていた。先にも述べたが、私は一概に「乗合バス」(大井先生同様、この場合、法的にはその埒外にある高速ツアーバスも実態として含んで考える)の規制緩和といっても、二つに分けて考えるべきという意見だ。高速バスや定期観光等は「公益性」が高いとは言えず(鉄道等の代替交通機関があるため)、かつ競争原理導入によりサービス水準が向上(価格下落を含む)することでマーケットが大きく拡大することが濃厚である。今回の大井先生の講演でも、高速路線バス同士の競合となった高松~京阪神や各地の高速ツアーバスに事例を元に、競争原理導入により事業者側の各種工夫が促されバス利用者が大きく増加したと説明されていた。逆に平場の路線バスは、競争原理が導入されたからといって利用者そのものが一気に増えるわけではない。大井先生は、鹿児島市交通局の一見「ドル箱」と見られる団地路線に民間のいわさきグループが参入したが、利便性は向上したものの利用者数は増えていない現状を説明されていた。むしろ、岡山であったような民間事業者同士の泥仕合の末、利用者にとってよりわかりづらい結果となった例もあげておられた。私は、平バスについては、「消費税値上げ論争」とよく似ていると考えている。現状、既存の路線バス事業者が(個別の努力はあるとしても)非効率的な事業経営をしているであろうことは、客観的に見て事実である。規制緩和による競争原理導入は、多少は効率化を促す(あるいは既に促している)であろう。一方、ではその効率化だけで平バスの事業が安泰かというと、少子化やモータリゼーションが進展するなか、最終的にはかなりの税金を投入しないと成り立たないことも、また明白である。ハコモノ公共事業のような税金の無駄遣いを見直すことは必要だが、それだけで国の借金が無くならないのと同じである。だからこそ、平バスについては、完全な市場原理を導入するのも、一方で今のように事業者任せのまま個別に申請があれば補助金を出すという形でも、結局乗合バスという産業そのものがダメになると思っている。コミュニティバス等の形で個別に自治体からお金をもらって運行すれば足元の路線や雇用の維持にはなるが、それはモルヒネに過ぎず、なし崩し的に進めたのでは、自分達が納めた税金がその金の出所であることを市民が意識し始めたとき、事業者は、行政の補助を食い物にしていると社会から非難を浴びるだろう。だからこそ、既存事業者が襟を正して、一見自分達の身を削っていると見えても、結果として乗合バス産業を永続化させるような運営スキームを皆で考えないといけない。あるいは、寺田先生が例に挙げるように、かなりの部分を市場原理に任せれば英国のファースト社のように全国を事業エリアとする効率的な超大規模事業者へ再編されることが現実的なら、それもまた選択肢だが。いずれにせよ、このままだと平場の路線バスが産業として立ち行かなくなるという危機感を、既存事業者が持つことが最低限の第一歩だろう。最悪の場合、現在の「既存事業者」が全滅したとしても、産業としてのバスが元気であれば彼らの雇用は維持できるのだから。あのIBM(PC部門)が中国資本の傘下にある時代である。「老舗のプライド」にこだわっていては、自分の仕事そのものが無くなってしまう危機感を持ってもらいたい。※明日は、とうとう、私のサイトで「小田急箱根高速バス」様の取扱が始まる。ほんの一部の商品だけではあるが、私のサイトに対する私鉄系事業者の感情的な部分が取り除かれるきっかけになると信じている。