どうせ世襲するのであれば、政治家もそれくらい徹底すればいいのに、と私は思うのでした。物心つくかつかないかのうちに政治哲学やら、選挙における土下座の仕方などをたたき込み、それに嫌気がさすようであれば、ドロップアウトしてもよい。そして、次第に実力がついてきたところで、お父さんなりお祖父さんの名前を襲名する。
とすれば、麻生総理は実は麻生太郎ではなく、母方の大名跡「三代目 吉田茂」を名乗ることになるわけです。安倍晋三元総理も、「三代目 安倍寛」と言われてもあまリピンとこないでしょうから、母方の祖父の名前を襲名して「三代目 岸信介」ではどうか。石原都知事の一家は、二代目 慎太郎」の襲名を、兄弟で切磋琢磨して争うことになりましょう。
歌舞伎役者は、襲名によって大きく育つのだそうです。大きな名跡を継ぐことによって、「この名前に傷をつけてはならじ」と、頑張るのだというのです。
政治家もきっと、「麻生太郎」という名前では軽~く言うことができた戯れ言も、「三代目 吉田茂」という名前の下ては そうそう口に出すことができないのではないでしょうか。(p.114~115)
そんな私達の間で、ある時ブームになったのが、みうらじゅんさんの『親孝行プレイ』という本。タイトルの通り、「親孝行とはプレイである」を基本コンセプトに、「親孝行旅行のタブーとは」「帰省のテクニック」「私はいかにして親孝行家となったのか」など、親孝行のハウツーが記してあるのです。親に対してイライラしっぱなしだったある友人などは、この本を読んで、
「そうか、義務ではなくプレイだと思えばいいのね!」
と、親孝行に開眼したと言います。
私も今回の旅行において、「親世代と子供世代は部屋を別々にすべし」というみうらさんのアドバイスに従い、とはいえ二人旅で二部屋というのも不経済なので、メゾネットルームを用意。母が先に寝ても私は下のリビングで本を読み、また母が先に目覚めたらリビングでのんびりするようにしたところ、世代間の生活時間差によるイライラは軽減されたような気がします。(p.147)
引用1。
歌舞伎役者も政治家も親と子のつながりが重要視される立場です。
本来政治家は選挙で選ばれるので親子のつながりとは無縁なはずですが、そこは選ぶ側も人間です。
何の情報もないどこの馬の骨ともわからない人よりも、少しでも知っている人や、地域のつながりがある人を選びたくなります。
そのせいで政治家にも「○代目●●」が生まれることになってしまっています。
そのことを皮肉りながらユーモアのある書きぶりが気に入りました。
引用2。
みうらじゅんの『親孝行プレイ』を初めて知りました。
うまいことを言います。
他人にできることが親子間では難しいことはわりとよくあると思いますが、すべて「プレイ」と思えばハードルが低くなりそうです。
酒井順子『こんなの、はじめて?』講談社文庫、2012年12月、524円(税別)
こんなの、はじめて? (講談社文庫) [ 酒井順子 ]