幾度となく
同じ順をたどった
あの人の声に通じる数字
寒い冬
かじかむ指で
回したダイヤル
今の若い子は
知らないよね
丸いダイヤルがついた
赤い電話
テレホンカードなんて
しゃれたものはなくて
たくさんの数の十円玉を
ブザーが鳴るたびに落とす
距離が遠ければ遠いほど
十円玉の滞空時間が短くて
「好きだから」
「会いたいよ」
言うにいえなくて
無言の時間ばかり
硬貨の厚み分だけ過ぎた
最後のほうには
馬鹿みたいにあった
十円玉も底をついて
どうにももどかしくて
百円玉を落とした
憎らしい投入口
最近は
みんな高性能の携帯で
写真だって送れるし
パソコンがあれば
動画だって
リアルタイムで見られる
あのころは
便利な時代じゃなかったけれど
そのかわり指先が
今でもあの人の声に繋がる番号を
律儀に覚えてる
好きだったことが
過去になって
新しい季節が来ても
指がたどった番号は
たとえ もう今は
空にしか通じることがなくても
同じ順をたどる
「離れない」
昔 赤い受話器の向こうで
そう約束した人は
空に旅立ったと
人づてに聞いた
主のいない番号は
指の記憶の中
そっと眠った
空の向こう
そちらには
まだあの赤い公衆電話
まだ あるのかな
そしてあの人の指にも
私の声に繋がる
指の記憶は
残っているのかな
いつか
空の上でばったり出会ったら
指の記憶
見せて下さい
ネット詩誌 MY DEAR
新作紹介掲載作品
主催者・島様に感謝