そらのごきげん(想天流転)

2011/01/27(木)08:24

輪廻

空の向こう あなたは今も笑っているのかな 私には追い越せない 遠い遠い人 あなたのそばに生まれて 私は幸せでした 戦火や貧しさをくぐり抜け たくさんの子供たちや孫たちに 慕われたあなた 太陽の下 モンペ姿にエプロン 日本手ぬぐいを きゅっと巻いた頭 力強く鍬の柄を握り締める 土でできたような 黒々とした確かな指 あなたのあの姿を最後に見たのは いつだったかな あなたはいつまでも あの姿でいると思っていたのに 時間の流れの中 目を病み 足を傷め いろんなことを忘れるようになり やがて 座っていることもできなくなった 夜中にリアルな夢を見ては 家族の名前を呼び探しながら 寝所をいざり回ったり まどろみの中 私たちには見えない人と話したり ときには泣いたり叫んだり 家族はみな憔悴しながらも あなたのそばにいたかったから 交代で介護していたけれど 具合を悪くして 病院や介護施設にお世話になった 施設や病院に入っても 1日たりとも欠かさず 家族の誰かがあなたの元に通ったのは あなたがかけてくれた 惜しみないたくさんの愛に 少しでもお礼がしたかったから みな あなたのそばから 離れたくなかったの 時々意識や記憶が巻き戻って ちゃんと反応してくれた  「ばあちゃん 私 だーれだ」  「ななをちゃんたい」  「じゃあいっしょにきてるのはだーれだ」  「ひろちゃんやろうもん」 返事があるとうれしくて 妹と2人 目を合わせて涙ぐんだ もう動かなくなった手足に 幾筋もの点滴やチューブ 土のにおいがしなくなった指先は 少女の指のように白く細く だけど見えない部分は 内出血で青く赤く 痛々しく  注射は一番好かんとよ  血管が細いから刺さりにくくて  みんな失敗しんしゃあもん  痛いけん一番好かんと つらくてそっと目をそらした その先には鼻も口もすべて 線でつながれた寝顔 点滴の針に触れないように あなたの手をそっととって 温度の薄い指を撫でながら  ばあちゃん  苦労が多かったね  もう無理せんでいいよ  みんなのがんばれ とか  生きてって言葉に  一生懸命答えてる  頑張りやさんだけど  痛いやろ?きついやろ  無理だったらもういいよ  そのかわりにさ  私と縁があるのなら  私のそばに  もう一度生まれておいで  まってるから 気のせいだったかもしれないけれど あなたがうっすらとうなずいた気がした それから二~三日後 みんなのお見舞いが ちょうど一周した次の日の朝 あなたはたくさんの管から解きはなれ ふわり 空に散歩にでた 私は人目もはばからず泣いた だけどそれは 悲しい涙ではなく あなたが痛みや たくさんの大嫌いな針や管から 開放されたことへの 安堵の涙 そして今までの 感謝の涙  つらいからこそ笑わんね ふと思い出したあなたの言葉に 複雑な表情で泣き笑い あなたの教えてくれたことは いつもいいタイミングで 私の背中を 押す そっと背中を押されながら 日々は過ぎて ちょうど四十九日の法要のあと いなくなったあなたの空席に 座る命が芽吹いたのを知って あなたとはやはり 深い縁があったことを知る あれから約10年 月日は流れて 新しい生命も 小学3年生になった 生まれ変わりというものが 本当にあるかどうかは 神様しか分からないけれど あなたの代わりに来た生命に ふと 感じた 輪廻という言葉を胸に刻んで あなたに教わった いろんなことを伝えながら あなたに受けた愛情を この子に返す約束は守れているかと 反省する日々 そしてあなたの教えに あなたのそばにいられたことに 感謝する毎日 ありがとう 今も大好きな人 2010.2 ネット詩誌 MY DEAR 新作紹介掲載作品 土曜美術社刊「ネットの中の詩人たち7」掲載作品 主催者・島様に感謝 【送料無料】ネットの中の詩人たち(7)価格:1,470円(税込、送料別)

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