そらのごきげん(想天流転)

2011/01/29(土)01:07

ライブ-音の水に棲む魚たち-

天のご機嫌(350)

年に何度か 音楽を聴きに出かける 流行に聡いわけではなく 聴きにいくのは いつも同じ若いアーティスト 昔から ライブは立ち見と決めていて どんな服装であっても 足元は洒落っ気のないスニーカー 2時間立ったままでも 体を揺らして リズムも取りやすい 開演ギリギリ 席が人で埋まった頃を 虎視眈々と見計らって 出入り口の真横 そこが定位置 間もなく照明が落ちて 音があふれ出し 客席のすべてを 震わせ響かせる 鍵の音 弦の音 湧き出す音符が ホールの中を隙間なく埋め 空間は 音で満たされた水槽になる 目を閉じ じっと聴き入る者 目を開き ステージを見据え 一挙手一投足見逃がすまいとする者 呼吸をするように 歌詞をつぶやき 一緒に歌う者 楽しみ方は違えど 皆それぞれ 同じ音符の水に棲まう 水槽の魚 もちろん私も その中の一匹 アップテンポ バラード いろんな音の波 アンコールの拍手も湧いて あっという間に時間が過ぎ 魚たちは元の人の姿に戻り 帰路に着く 髪や耳の穴から 音符を少し滴らせ 水槽での水の余韻を楽しみながら 幸せな気分で 私も同じ 髪に音符をたくさん絡ませて 空車のタクシーに手を上げて あわただしく帰路に着く 中学生になったら 連れて行くと約束した娘に  今日もいい演奏だったよ  絶対一緒にいこうね そう話して おやすみを言うために そして寝息が聞こえたら 髪やかばんに残った音符を そっと集めて また次も 魚になりに行こうと思う 音の水の水槽の中 ほんのわずかな けれど極上の楽しみ 2010.4 ネット詩誌 MY DEAR 新作紹介掲載作品 主催者・島様に感謝

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