Laub🍃

2018/02/11(日)20:59

綱要の末尾   (2次SS)

◎2次裏書(84)

「あなたが愛されているわけではない」 「あの人は愛する相手が欲しいだけ」 「行き場のなくなった愛を与える相手が欲しいだけ」 「だから、勘違いしないで」 声はあたしの中から響いてくる。 * あたしは、あたしを愛してくれる人が欲しかった。 あの人はあたしを愛してはくれなかった。 なんとか認められることには成功したけど、それでも結局、あたしを通して大人になれなかったあの子のことを見ていた。 あたしはいつもそうだ。見るだけ、見られるだけ、深く関われない。 彼だけがそうじゃなかった、踏み込んできてくれた。 すごい爆発音がした時も、あたしは見に行っただけだった。 黒く赤く、原型を留めないあの人が恐ろしくて、それでも目を離せなかった。 * 何日か、こっそりと見に行った。 何かの薬草が必要と言われていればそれを重点的に集めて共用の薬置き場に置いておいたし、子供や他の人が隠れ家である墓場の裏に行きそうになったらそれとなく止めた。通りがかった時に血を吐くような咳や、咄嗟に救いを求める声がしていたら墓守さんにそれとなく伝えた。 だけど、できたのはそこまでだった。 あの人は、怖くない。 だけど……あの人といつも一緒に居る、親友の彼氏であるあのひとが……怖い。 あの人の為なら何でもするあのひとが怖い。 あたしは、あの人に憎まれ、あのひとに殺されかけた『彼女』のようになりたくなかったし、『彼女』の味方としての立場を崩すわけにはいかない。 そう何度も思い直して、かつての命の恩人をあたしは幾度となく見捨てた。 あたしをいつまでもあの子のように扱うことへのほんのりとした苛立ちもあったのかもしれない。 あたしを信用して笑いかける『彼女』を裏切れなかったのかもしれない。 あたしになら大抵のことを打ち明けてくれる親友が、もしもこれで幸せになれたなら、なんて思ったのかも。 ……数年する頃、あの人は隠れ家から消えていた。 存在した形跡ごと。 そういえばここ数日あのひとは忙しそうにしていたな、と思いつつ、あたしはもうあの人に何も出来ないんだなと今更実感が襲ってきた。 あたしにもっと勇気があったら違っていたのか。 あたしがもっと残酷であったら違っていたのか。 一歩あたしは踏み出せない。 少しずつ、少しずつ関係性が千切れていくのをただ見ているだけ。 洞窟の中で、新しい食べ物の前で、幾度となくあたしは助けると同時にさようならを言っていた。 ごめんなさい。助けられなくてごめんなさい。 ごめんなさい。愛されなくてごめんなさい。 ごめんなさい。愛せなくてごめんなさい。 * 「……似てるわ」 「偶然って恐ろしいね」 メンデルの法則が云々と言い出す彼女と彼は生物のエキスパートだ。 「おいおいやめろよ」 困ったように笑いながらも、あたし達を庇おうとする彼は、やっぱりあたし自身を見てくれている。 あたしと彼の間に生まれた子は、皮肉にも、あの子にとてもよく似ていた…らしい。 あたしはあの子を見ていない。亡骸さえも。 似顔絵を描いてくれるという提案を蹴っても、彼はあの子の眠りを守り通した。 あの子に似たこの子を見たあのひとは目を見開いていた。 ……何日か留守にして、…恐らく、あの人の死に際で幾度となく食い止めた後、この子を見ると決まって、複雑そうな顔をするのは、この子ならあの人の救いになると考えていたんじゃないかと思えてならない。 「……なあ…そいつ」 「な…なんですか」 「……何でもない」 ふい、と目をそらすひとの目は日に日に濃いくまをたたえていく。 「……気にしなくていいよ」 親友がぎゅっと、あたしとこの子を抱き締めてくれる。 親友も辛いのだろうに。 「この子は、関係ない。……あのことは関係ない」 孤立している、親友とあの人の間の子供のことを指して言っているのであろう言動を、あたしは咎めることが出来ない。 何でも言い合える関係って、こんな風だっけ。 あたしならきっと何を言っても、謝れば元通りの関係になれるような気もした。 だけどあたしは何も言わなかった。 * あたしは何年も、何も言わなかった。 その罪滅ぼしというわけでもないけど、今回あたし達は子供達を危険な場所に送り出す。 代わりにはなれなくても、きっと、この交流が誰かの救いになることを願って。

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