Laub🍃

2015/08/07(金)01:15

ダブルバインド(BL…?)

.1次メモ(404)

山羊×亀 設定 「誰かたすけてえええ」  その声に気付いたのは偶然だった。 「お、お い、ど う し た !」  考えに体が付いて行かない俺だったが、その時はそれでも全力で駆け、短い手足を一所懸命伸ばして走ったのだ。  あの声質からして、恐らく助けを求めているのは雄山羊。不良に絡まれているのか、でなければ沼にでもはまり込んでいるのか。同級生の雌山羊を何度か助けた時のことを思い出す。何故か毎回顔を真っ赤にされ、助けなんて頼んでいないと言われ、一度も本当に「助け」られたことがない気がするが……いや、いい。今はやめよう。何故こんな緊急事態でこんなことを思い出してしまうのか。俺はこんな風に過去の事を色々と考えてしまうから余計に愚図になってしまうのだ……辿り着いた!  いつもよりスピードを出した分いつもよりも立ち止まるのに時間がかかる。  洞窟の中、わんわんと未だに助けを求める声は生み出され反響している。 「ど う し「締め切りに間に合わんんん」  ……山羊族の、壮年の男がそこには居た。濡れた紙を口の周りに張り付けながら。 「あああ、どうして私は原稿を食べてしまうんだああああああ」  彼は、漫画家だった。 ** 「ど う し て、 ま ん が か に ・・・」 「うん、一族には反対されたんだけどね。友人に貸された漫画が物凄く面白くてねぇ。あ、これは本能で食べないようにって友人の一人が私に見せてくれ、もう二人が私を抑えつけて読ませてくれたのだよ」  どうしよう、聞いたことない、そんな読書風景。 「よ く ま ん が か に な れ ま し た ね」 「それは大丈夫、その時も友人達が食べそうになったら抑えてくれたからね」  友人達すごいな。  というかこの人、欲に負け過ぎだろう。 「は ら が す い て る の で す か」 「いや、私にとっては紙はデザートのようなものなのだ。デザートは別腹と言うだろう?」  確かに、俺もあの機械に作り出された食事が喉を通らなくても、ミミズは割といけたりする。 「で は ゆ う じ ん の か た が た は ・・・」 「仲たがいしてしまったのだ……」  ずぅん、と沈み込む彼は随分と哀れに見えて。 「……しかし、追いかける暇も無い。恐らくあいつらもそれを分かっている。今回くらい俺達が居ないのに懲りろ、だの慣れろ、だの言ってくれたからな。ああ、締め切りは明日だ。……あああああ、なのにだというのに私は私は本当にバカだ……!やはり私一人では何も生産的なことができないのか……!?」 「・・・・・・あ の 、」 「ん?何だい?原稿のガードマンにでもなってくれるかい?」 「え え 、 そ れ と、」  よければ、手伝いましょうかと、言ってしまった。 *** 「……出来た!出来たぞ!!!数えてくれ、亀介くん!!!」 「1 8 ま い あ り ま す」 「よし!上がりだ!!……はあ、本当にありがとう。助かったよ」 「と ん で も な い」  友人の原稿を手伝ったことがあるとはいえ、プロのものなんて扱うのは初めてだったから、元々ののろさと戸惑いがあいまって非常にゆっくりになってしまったのに違いないのに。 「あ な た は お お ら か で す ね」 「君もだよ。何度も私が紙をよこせと襲いかかったのに、逃げもせず、かと言って私をはたきもせず、そこで原稿を守りながら手伝いをしてくれた」  なんだか感動的な雰囲気。  山羊平さんが俺の手をぎゅうと握る。  俺は、もしかしたら彼と相性が、とてもいいの、では。 「良かったら、また手伝いに……」 「兄さん、山羊斗さん達が仲直りしに……って、あーーっっ!!!」  びくり、瞬時に体を甲羅に引っ込めてしまう。この声は、もしかして。 「……山羊江、知り合いか?」  山羊平さんの声は俺にかけるものよりも少し低い、身内に向ける親しみのあるもので。 「知り合いも何も、いけすかない奴よ、クラスの!!!」  いやまさか、という願いにも似た思いは木端微塵に粉砕された。  そろそろと、四肢と頭を出す。 「……ビビりの癖に、一度決めたら頑固なのよ。そういう所がやなの」  やはり、いつも顔を合わせる彼女が山羊平さんの隣、俺から見て右側に居た。洞窟の入り口から差し込んだ朝日が彼女を金色に染めている。  山羊平さんの声。聞き逃しそうな声を聞きとれたのは、もしかしてそれは聞き覚えがあったからじゃあないか。  俺がどう振る舞えばいいのか悩んでいると、山羊江が腕を引っ張る。 「まあ、いいわ。兄さんの悪癖はあたしも悩んでいた所だったし、あんたに厄介ごと任せてあげる」  そう微笑んだ彼女に、胸が高鳴り。 「やったーーー!!!」  そう年甲斐もなく喜ぶ彼に、目の裏が瞬き。  俺は、俺の体は勿論、脳ですら処理できない何かに、暫く悩むことになるだろうと、悟ったのだった。

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