2015/06/29(月)02:34
私の彼氏はヘタレな面をしている。
◆
「あなたは××なんだから、せめて××は××にしないと」
考えて考えて 頭痛くなる。
「清浦さんはやさしいね」
君がいつも、そういうから、もにゃもにゃもにゃもにゃもにゃもにゃもにゃもにゃしてしまう。
そんなことない。別にそんなこと言われる筋合いない。
ていうか、そういわれたくて頑張ってるわけじゃないし。
君が私の顔を見てくれればそれでいいし。
……なんて、言ってもそんなの、無理だってこと分かってる。
彼はきっと周囲の期待を裏切れないくらい弱くて、それでも望まれたらそれを押し通せるほど強いわけでもない。
『ごめんね』
『こんな顔に生んでしまって』
何度も何度もフラッシュバックするのは泣きそうな彼女の声。
「そんなことないよ、私この顔、なんだかんだ嫌いじゃないよ」
そう言ってもそれは母への慰めにしかならなくて。
別に、純然たる遺伝の結果なんだから、母と父のあまり人から好かれない部分が凝集してしまっただけなのだから、気にしなくてもいいのに、と思いつつも、もしも母が私をもう少し違う姿に生んでくれていたら、とは何度か思ったことがあった。
彼が私に使う言葉と似ている。優しいけれど、どこか、どこか嘘がある。
『芙美は、あまり万人受けする顔ではないから、だから色々な人に優しくする術を身に着けようね』
万人受けの意味も知らない私にそう言ったのは父。
私と、極端に薄い唇、血の気のない顔のよく似た父は、それでも愛嬌があって、人に好かれていた。
私も真似して鏡の前で笑う練習をして、そうしてましだと思う顔を外で見せたことはあったが、もれなく怖がられてしまった。怖がらせてしまった。
そうして私は開き直った。誰に怖いと思われようと気にするものかと。
幸い、怖い私にはいじめっ子たちも手を出さないらしい。中途半端に受ける顔が、人と接することのできる顔が、いじめの素養の一つなのだろう、と私は思うことにした。手を出さないというのが、体育の時間のぼっちどころでなく、掃除の時に私一人だけになる、私の立候補した委員会には誰も手を挙げず、仕方がないから後から入ったら露骨に気まずい空気になるなど、無視のレベルにも近いものがあったが、それでも話し掛ければ(怯えながらではあったが)反応を返してはくれる。
私はそれで満足することにした。
『あ、あの、あなたの、その、落ち着いている所がssだをjqぼ!つ、つ、つつつきあぐあいjをあいじょdj』
あの、告白とも呼べない叫びを発される、までは。
私は、性格が悪いということも、特に自覚せずとも不自由はなかったのに、人と妙に近く接近するようになってから、気にしなければならなくなった。
父から言われた沢山の人への気遣いを、知り合い程度のものでなく、家族へ向けるものでもなく、絶妙な、微妙な距離の中で新たに適合するものを編み出さねばならないのに、日々失敗して、彼を怯えさせてばかりだ。
身長が低くてももしかしたら同じだったかもしれないが、背が彼より20cmは高いからと心持猫背になると今度はその角度に私の異様な体の柔らかさに怯えられ。
彼が手を伸ばして来たから、ぎゅっと握り返したらそこでまたびくりと震えられ。
だから、私に怯えていることは、きっと私と同情で付き合っているのだろうことは、分かっているのに。
それでも突き放すことはできない。
私はきっと、周囲の期待を押しのけるほど強くて、それを途中で立ち止まって振り返る程弱いわけじゃない。
そんな歪な私に、顔のインパクトが先行しているせいか、罪悪感が勝っているからか、気付こうとしない周囲。
そして、君。
指を少し強く握る。彼の指が温かいことに、リラックスしていることに安堵する。
お願い、私の内面の歪みにどうか、気付いて、そうして、それでも捨てないでいてくれる弱さを、持ち続けて下さい。