2015/10/03(土)02:12
ポケットから鍵束(BL?)
ポケットから鍵束を取り出し、かち、とそこにあてがう。
……違う。
これも、これも違う。
ああ、時間がないのに。
海の底、吐き出される自分の息に溺れそうになりながら必死に目を開けかちかちかちかちとそこに合う鍵を探す―――
と。
かちり、と小気味良い音が響いて、開いたそこからは光があふれ―――
「兄ちゃん、朝なんだけど」
「っ……」
その光は、弟に開けられた窓の明かり。
……なんだ、くそ。
*****
兄ちゃんはいつものように寝起きが悪い、と笑いあう弟と母を無視して、冷蔵庫からお握りを掴んで家を飛び出す。
走っていると何もかも忘れられるという人間も居るみたいだが、俺は逆だ。
単純作業だとむしろ悩み事なんかが頭を充たしてきやがる。
今朝の夢もその一つ。
赤信号。行儀が悪いが腹が減った、周囲に人が居ないのをいいことにむしむしと立ち食いする。梅か。
酸っぱいそれを食べながらも、俺はあの夢の意味について考えていた。
……何か、暴きたい秘密でもあったか?近付きたい相手でもいたか?……いや。
そんなのは数日前なくなってしまった。
ぴっぽう、ぴっぽう。
突然喚き出す青信号を前に足を踏み出す。残像を踏み潰すように。
背中越しに、わずか数ミリ平方メートルわざと触れたあの体温を追い払うように、冬の風を切って歩く。
あいつは何でも口に出す奴だった。
けれど逆に、何でも口に出すことでその奥の本心を隠していた。
死にたいと言っては悩みの具体的な内容を隠し、寂しいと言ってはだからどうしてくれと言わないでいる。構ってちゃんか。いや、多分あいつは放っておいてくれるならそれでもいいと思っているんだろう。
だからこそ俺が初めて突き放したとき、あいつは微かに笑っていたんだ。
そうして、屋上に、立った。
あいつの笑顔と花の香り、俺は泣かなかった。
泣く権利が無いとか言って自分に酔ってたんだか、未だにあいつがいないことが実感として湧いてこなかったからなのか。
結局、あいつに合う言葉は何だったんだろう。
何を言えば、あいつの「死にたい」を止められたんだろうか。
何度悩んでも、意味が無いのに、きっとあいつ以上に面倒臭いやつなんてこの先も出会わないと思うのに、それでも「もし」と考えてしまう。
あいつがもし幽霊になって、たまに俺の様子を見に来ていたら、笑うだろうか。あの大袈裟なほどの身振りで。
それとも、誰も見なくなった今だからこそ、自分の為だけに動いて考えて、だからこそ相手を見ることが出来ているだろうか。
教室に向かう前に、あの場所へ行く。
実際の現場は未だに立ち入り禁止だから、あいつと昔、話すようになったきっかけのあの場所へ。
花も何も供えない。けれどここに来て目を閉じて、頼むから出てきてくれないかと思うのが日課になりつつある。
あいつにとっての答えが、俺に見付けられたら。
それまで俺は、きっとこの場所のように暗く沈んでいるんだろう。