2016/09/25(日)08:59
はまっちゃいけないもの。 (トリップ・BL)1
はまっちゃいけないもの、と考えると。
俺は三つの物を思い浮かべる。
…芸能人、漫画……
そして、RPG。
……やばい……オレ、RPGやりすぎて世界に没頭しちまったか。
漫画読み過ぎて中二病になった弟、芸能人に嵌り過ぎて危ない妄想までし始めた兄を持っている分、俺は自分の感覚というか正気度を信じることが出来ない。
目の前には奇妙なスライムがぷるぷると揺れていて、動いたら襲いかかってきそうな勢いだ。もう死んだふりでもしてみるか?スライムに熊の対処法効くのか?とか思ってたら襲いかかってきた。いや、LV1でも倒せるだろこんくらい。武器は持ってないけど、唸れパソコン部で鍛えた俺のゴッドフィスト……
どろっ
「あれぇ!?」
フィスト溶けた。ゴールドフィンガーごと溶けた。
「え、うそだろ、あ、」
そういえば、某RPG小説や漫画ではスライムは酸性だっつってたな……
駄目だ、これじゃあもうRPGの連打ボタン使えない。RPGのヒロイン(エロい)のフィギュアをじっくりいろんな角度で眺めることもできない。いや何考えてんだオレ、今はもうこいつから逃げないと命まであぶな、
どろぉお・・・・・・っ
倍ほど膨れ上がってもはや俺と同じくらいの背丈にまでなったスライムが、そこには居た。
いつのまにか俺の周囲はスライムが呼んだ仲間で取り囲まれていたようだった。
「誰か、たすけ・・・・・・」
ああ、どうせこんな世界に入るなら勇者と同じようなスペックでやってこれればよかったのに。そう思って俺が体を縮めて目をかたくつぶるとーーーーーー
「大丈夫!?」
次の瞬間俺は空を飛んでいた。
「!?」
さらり、と俺の頬をピンクの糸がくすぐる。いや、これは髪だ。今までゲームや漫画とかでしか見たことないピンク色の髪を持つ誰かが、俺を抱きかかえてーー空を飛んでいる。
「一応低レベルのモンスターだけど、量が多すぎるみたいだね…」
「え、あんた、もしかして」
目の前に居たのは、
「……勇者…?」
「え!?」
確かにそれは俺の設定した「勇者」の恰好だった。
「え、僕の事そんな……ええ!?嬉しいな嬉しいな、そんなふうに言って貰えるなんて」
喜び顔を赤らめながらも、スタッと地面に降り立つ勇者。いまのはもしかして長大な跳躍だっつーのか、なんつー脚力。
「あ、あのさ、喜んでる所悪いんだけど、スライム、」
集まったスライムが一つの大きな塊になる。やばい、そういえばこの「勇者」が主人公のゲームの中のスライムは集まると中ボス級に強くなるんだった。
前に他の中ボスダンジョンに向かう途中、スライムに当たった瞬間母親に呼び出されて戻ってきたら死んでたことあったんだよな…
「光線か…!おのれ、以前のようにはやられないぞ!」
「ひっ」
唐突に勇者が俺を突き飛ばす。うわ結構力強いな…と思っていたら、二人の間をちょうど光線が通り抜ける。あのままつったっていたらやられていた。
「確かに僕は勇者の中では落ちこぼれかもしれないけど」
言って、彼は剣を構えどこかで聞いたことのある謎の呪文を唱える。
「目の前の人を救えないほど弱虫じゃない!!!」
目の前で光がはじけ、俺の意識は遠のいた。
ーーーーああ、願わくば・・・これで、元の世界に戻れていますようにーーーーー
目を覚ますと、茶色い木の天井。
「……戻れた、のか?」
「あ、目を覚ました!?」
「!!!」
結局わけのわからないまま気を失った俺を、勇者は自分の家まで運んできてくれたらしい。
「あいて…」
「あ、ごめん!倒れた時に頭打ったせいだと思う…」
「い、いや、いいよ…お前のせいじゃないし」
その後持ってきて貰った手作り感溢れるスープをすすりながら、ひんやり冷えたおでこで(これからどうしよう)などと考えていると、勇者が言う。
「ねえ…君、もしかして別の国から来た?」
「え!?」
「いや、このへんのことは大抵知ってるばばさまが、知らないって言うから……」
あ、なんかもしかしてスパイとか忍者とかそういう職の人!?とやけに嬉しそうな顔で言う彼を慌てて制する。
「あ…いや、ごめん。俺…俺は……」
別の国から来たと言う?
…そのうちばれるんじゃないか?
…そもそも、いつ戻れる?
…いっそのこと、記憶喪失とでも言う?
いや、それはそれでぼろを出してしまわないか?
ぐるぐるぐるぐる悩んだ俺が、答えたのは。
「……た、たぶん、異世界?から……来ました」
ぽかーんとした顔の勇者。そりゃそうなるよな。
「元の世界に戻りたい……です」
「お、おお!では、僕と一緒に冒険しよう!!!」
もしかして僕はずっと君を待っていたのかもしれない、なんていう勇者の謎の言葉を聞きながら、俺は選択を誤ったかもしれないと思っていた。
*****
・スライムは武器とか皮の手袋を使用しているか、LV5以上でないと皮膚を溶かします
・プレイヤーの手によって勇者が聖なる証に手を翳さないと通れない「聖門」の前でずっと止まっている勇者の冒険。なぜならクリア前にプレイヤーがゲームのデータ入ったROMを没収されたから。そのまま受験に突入し、プレイヤーも没収した側も忘れた頃に、ゲームの怨霊がプレイヤーを襲う…!
・因みに製作者はプレイヤーの年上のいとこ(ゲーオタ)。
・この後、プレイヤーが勇者に指示したり、勇者と共同作業で色々することによって、通れなかったところが通れるようになっていくことに感動する勇者。
・しかし一番の感動イベントは以下。
「お前の名前…「ああああ」って言うんだろ……」
「?ああ!シンプルすぎる名前だが、逆に一番最初に世界を制覇する人間みたいでいいかなって思うぞ!!」
「(不憫だ…)……俺が、今新しくつけてやる」
「え!?いいの!!!?」
「(俺がつけちゃったしな……)…ああ、任せろ」
そして始まる名付け騒動。