2015/06/12(金)03:28
脳の断面 2 切ると増えるよ田中くん
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「待って待って待って、君が行って死んじゃったら観察できなくなっちゃう」
「「死ぬギリギリの俺を観察できるだろーが」」
「それもそうか」
「「納得早いな!」」
目の前にはどっかの研究機関から逃げ出したらしい怪物。
どぅるんどぅるん紫色のスライムがたぷたぷ揺れている。
元々は人間、それも犯罪者。悪知恵がそこそこ働きそうだ。
そんな奴から人質を取り戻す為に俺は、体当たりでぶつかるしかねえ。
紫色に取り込まれつつある幼女の元へ、もう一人の俺と一緒に向かう。
「戦闘シーンにはたーなか君がふたりー♪」
「あっ」
「もひとつたたけばたーなか君がさんにんー♪」
やばい、避けそこなった。とはいっても俺じゃない、もう一人の俺が、だが。
「叩いてみるたびたーなか君は……増えない、だと!?」
当たり前だろ、お前が切った時は綺麗に両断したけど今のはそういうレベルじゃねーんだよ!
スワンプマンが既に俺として存在しているとはいえ、目の前で人が原形をとどめなくなるのはきつい。
「げ……っ」
吐きそうになったのを押しとどめて必死に第二撃を躱す、三、四、五と見せかけて左のアッパー……
あ、俺、終った。
やべえ、一人は佐藤ん所に残しときゃよかったか……
「「おらあああああ!!!」」
「……おいおい」
「俺」、もしかして増える事はあっても減ることはないんじゃねーの?
「そーんなふしぎなたーなか君が欲しいー♪」
「…いやぁー、やるねえ田中くん」
「「「「……」」」」
あれから俺もやられて、結局今回「俺」は4人になった。
「田中くん戦隊でも結成する?僕が総帥でさ」
「わけわからん」
「同一人物の戦隊って何だ」
「バカ」
「お前が上司とか絶対嫌だ」
……独白で言うつもりの台詞を言われた。
これからどうなるんだ。否応が無しに口が引き攣る。
ふと他の田中を見ると同じように口が引き攣っていた。
だが、
「あ、あの、おにいちゃんたち、ありがとう」
その声に、俺達4人の口角は自然と上がり、もう一人はと言えば計画通りとでも言うようににんまり笑ったのだった。
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