2014/10/15(水)00:56
サムライとにゃおと天敵(サム猫ss)
暑い夏を過ぎ、残暑と呼ばれる気候にさしかかる頃。
それは過ごしやすい気候と豊富な栄養源によってあらゆるものが活動しはじめる頃でもある。
18歳にして焼き芋を初めて買った男、サムライは同居人の元へ足を進めていた。
直は気に入るだろうか。胸元のほかほかと湯気を立てる紙に包まれた物体は二本。店主のお墨付きだ。
猫舌ならば少し冷ますべきだったろうかと思いつつ、慣れ親しんだ家をいつものように階段を上って自分の部屋に向かう。
だが瞬間聞こえてきた音はサムライの体を一瞬止める。
「……直?」
唐突に聞こえてきたのは何かがぶつかるような激しい音。
その出所たる簡素な扉はそれ以降沈黙を重ね中で何が起こっているのか教えてはくれず、
嫌な予感に後押しされるまま鍵を錠に差し込む、だがあることに気付き焦燥が増す――
鍵が、開いている。
以前何があるか分からないのだから、家の外に居ても中に居ても鍵をかけておけと言った筈だ。
合鍵を持っていなかった頃ならともかく、余程なにか急ぎの用でもない限り、几帳面な直は施錠を怠ることはなかった。
それに不審感を覚えると同時に、部屋の中から不穏な唸り声が響いてくる。
「なあああおぅ、なぁぁぁぁおう」
高低差の大きい、いつもとは一味も二味も違う完全な威嚇用の声。
「直、無事か!?」
不審者か、いつぞやかのようにヨンイルが勝手に来て遊んでいるのか、それともリョウが妙なおもちゃを投げ込んだのか、レイジの置いて行った艶本を目の当たりにしたのかと息せききって駆けつければ――
「シャーッ!」
突然の鋭い痛み、次いで何かが猛烈な勢いでサムライの横を何かがすり抜けていく。
「なっ……」
負傷した足の甲に気を留める間もなく、さきほどサムライの背後へまわった何かはぐるりとサムライの足を軸にし周り、再び直ににじり寄っていく。まるで攻撃が当たらなかったことを嘲笑うかのように丸々と太ったそれは体格に似合わず俊敏な動きで猫パンチを避けていく。
「――……ゴキブリ?」
事情がよく呑み込めないが、怒っているのか泣いているのかすら分からない程に混乱を極めている様子の直を放っておくことなど出来ない。とにかく何かせねばと周りを見渡す――あれが丁度いいか。
「!!?」
訳が分からなくなっている直が、唐突に目の前に現れた物体に瞠目し一瞬動きが止まる。
その間にサムライは次の行動を開始する。
即ち、手近な袋を被せ逃げぬようにし外に遺棄。姑息かもしれないが、一寸の虫にも五分の魂とも言う。潰すことは躊躇われた。
「にゃあ…」
呆気にとられ警戒も忘れた直の声に出迎えられ、ようやく一人と一匹の空間は平穏を取り戻した。
迂闊にも落とし歪んでしまった焼き芋を見てサムライが落ち込むのはその数分後、
「いいからそれを渡せ」と人の姿に戻った直が興味深げに焼き芋を齧ったのは更にその数秒後の事だった。
そして直に貼られた絆創膏が何故か無性に気になり、ふとした瞬間に触れるサムライが、直に119番通報されそうになったのはその数日後のことだった。
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蜚蠊溺泉タジマ