Laub🍃

2018/11/21(水)01:36

僕はもう×××いるのに 3 (少プリ2次SS/直+恵/未来・SF)

🔗少プリ(407)

←1 ←2 ・『彼女はもう死んでいるのに』パロにならなかった話 ・恵ちゃん誕生日おめでとう **********  あれから数年。  僕の死んでたまるかという意地と、サムライの祈願と、僕の恵への執念が功を奏したのか僕の寿命は少しだけ伸びたようだった。  その間にも医療や電子技術、リョウやビバリーの調査技術は進化を遂げていた。  僕の寿命に少し影響があったと言ってやらなくもない。 「……」  お陰で、  サムライの情けない姿も、ロンが予想以上に強くなっていて時折レイジを驚かせる姿も、ヨンイルとの実りある書物の話も、安田や斎藤の昔話も、沢山見聞きすることができた。  ……恵の恢復していく様子も、こっそり遠くから見ることができた。  今も、沢山の見知った顔が僕を囲んでいる。  それは泣きそうなのを耐えている顔だったり、怒ったような顔だったり、何を考えているのか分からない無表情だったりと様々だが、僕が傷を残す事が出来たということだけはみな一様に確かなようだった。  思い残す事はない。  僕は朦朧とする意識の中笑い、右手の温もりを握りしめた。 *  鍵屋崎直は、30代半ばで死亡した。 *  鍵屋崎恵がそれを知るのは、5年後、兄と同じ年齢になった時だった。 * 「お兄ちゃんが、もう居ない」 「お兄ちゃんの友達も、先生も、みんなそれを知ってたのに、私だけ知らない」 「どうして」 「お兄ちゃんが居なければ、って言ったから」 「お兄ちゃんを頭から追い出してたから」 「お兄ちゃんが私の代わりに捕まったから」  こんな事をいくらぶつぶつ言っても意味ない。届くはずない。  お兄ちゃんはもう死んでいるのに。  お兄ちゃんが殺したお母さんも。  ……私が殺したお父さんも。  皆、届かなかった。 「私が居なければよかった」 逃げ続けた私が。 「お兄ちゃんじゃなくて私が」 求められても何も果たせなかった私が。  きい。 病室のドアが開く。 「……齊藤先生…」 「恵ちゃん、また床に座り込んで。体が冷えるよ」 齊藤先生は、私の目の前に広がるぐちゃぐちゃに塗り潰した黒い紙を見ても、平然とこう言う。 何年も見慣れていれば、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないけど。 「今日は、いいものを持ってきたんだ」 「……お菓子の気分じゃないです」 「まあそう言わずに。他のもあるから」 正気に戻ってからお菓子を食べなくなった私に、執拗に斎藤先生はお菓子を勧めてくる。 「他の、って」 「直くんからの伝言」 「……お兄ちゃん…?」 じゃーん、と斎藤先生は後ろ手に持っていた何かを突き出した。 それは。 「お兄ちゃんの……人形?」 小さな、目が点で髪も肌も服もフェルトの人形が突き出される。 『恵』 「!?」 突然それから声が漏れ出た。 「直くんの遺した伝言が、これに入ってる。  いつか恵ちゃんが直くんと話せるようになった時の為にって」 「……なんとなく、内容が想像できるから、いい。……もうお兄ちゃんは居ないのに、聞いたって何になるの」 「それがね、これ、少し面白いんだ。相手の声質、声の感じ、話す内容から、直くんがあらかじめ入れていた返事が導き出される。電子頭脳にしては単純だけど、伝言としては余計な事を言わない分……」 「いいです」 ぐいぐい、と斎藤先生を押し出すと、斎藤先生はいつもの複雑な笑みを浮かべて、「またね」と部屋を出て行った。 ぽつんと人形だけ残して。 「……分かってないなあ、お兄ちゃん」 お兄ちゃんはまくしたてるからお兄ちゃんだ。 お兄ちゃんは私が何にもしなくても、勝手に予想外の事をしていても色々それに自分で解釈をするからお兄ちゃんだ。 お兄ちゃんは。 こんなものを渡してくる癖に、私が受け取れる時まで待ってくれてたのが、お兄ちゃんだ。 私は聞いた。 齊藤先生やお兄ちゃんの思い通りなのはちょっとやだったけど、今まで私がずっと見て見ないふりをしてきたせいでこうなったんだから、私が全部聴かないといけない。 私は訊いた。 恐らくお兄ちゃんが言いたかっただろうこと。 お兄ちゃんの友達が、お兄ちゃんに、遺すべきだと言ったこと。 お兄ちゃんが、私に必要だろうと思ったこと。 答えられない質問もあった。 それを見付けると、なんだか目の前に困った顔でおろおろするお兄ちゃんが居るみたいで少し楽しかった。 お兄ちゃんの答える声が暗かったり、なんだか微妙に、私以外の誰かに対して怒ってるみたいな声だったりしたこともあった。 私の知らないお兄ちゃんがそこに居て、きくたびにお兄ちゃんが、真っ白な部屋の中に満ちていくのを感じた。 掌の上に乗るお兄ちゃんの人形をもって、私はベッドに入った。 「おやすみ、お兄ちゃん」 『おやすみ、恵』 夢の中では、本当のお兄ちゃんに逢えるかな。 そんなことを想いながら。

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