2021/02/08(月)18:57
はざまのうた
ただあの子が好きなだけだった。
ただあの子と話したいだけだった。
それがどんな内容であっても、僕がどんな立場であっても、あの子と居られればそれでよかった。
だから僕はあの子の為に、小学生の女の子の振りも、中学生の男の子の振りも、水商売のお姉さんの振りも、ヤンキーお兄さんの振りも、高校生のクソガキの振りも、お嬢様の振りも、達観したおじいさんの振りも、なんでもこなした。
あの子は不器用で、名前を変えるのもふるまいを変えるのも下手だからゲームを変えてもSNSを変えても追いかけていける。
実際に会いたいとは思わない。いつだって、いつまでも、夢を提供できれば、あの子の新鮮な反応を引き出せれば、なんだってよかったのだ。
あの子はいつも関わった過去の僕の愚痴やのろけを含めた失敗談を語ってくれる。
新しい僕はそれを受け容れて、今度こそは同じ轍を踏まないように新しいキャラクターで接する。
「あの人とは違う」
いつもあの子はそう言ってくれる。
けれど、それでもいつも、失敗するのだ。
口数が多くても少なくても、聞き役でも話し役でも、感情的でも落ち着いていても、どれでもあの子は僕から離れていってしまった。
どうしてなのか分からない。
あの子を大事にしたい気持ちとあの子の色々な顔を見たい気持ちを捨てればいいのだろうか。
けれどそうしたら僕は僕でなくなってしまう気がする。
あらゆる役を演じてきた僕の、唯一演じ切れなかった素、要がそれなのだから。