追憶こそ幸福
「ばかっ!」怒られているのに、なぜかその時私の心にはじんわりとした温かさが広がっていた。家族以外で、こんなふうに心配して怒ってくれた人なんて、いなかったからだ。嫌われている、そう思っていた。世界のみんなに嫌われていると。嫌われつづけているなら、好かれたいと思って頑張っても何も見えなくて足掻くだけならば、いっそ他人に何かすることなく、私を嫌な目に遭わせるあいつらにはわざわざ嫌がる反応をすることやあいつらにとって都合の悪い私の部分を直すことなくずっとずっと嫌がらせをしてやろうと思っていた。大事なものなんて特になくて、守りたいものなんて本や頭の中にしかなくて。世界なんてどうでもよくて、だから命や自分を大事にすることなんて何も思わなくて。ああ、私がどうでもいいと思ってきた、思うようになってしまったものを。どうでもよくないと思ってくれる人が居るんだ。彼女の言うことを聞きたい。・・・・・・でも、心配されたいから、やっぱり無茶はするけれど。本末転倒なのは分かっているんだけれど、彼女の叱りは心地よくて。ふと、笑みが漏れてしまいそうになる。仮面の筈だったのに。鉄壁の表情の筈だったのに。おかしいな。彼女には調子を崩され続けている。彼女が、私の世界を変えてくれた。彼女が、私に世界を会わせてくれた。私が嫌うばかりの世界ではなく、私が好きになれる世界もあるのだと、おしえてくれた。私はこんな恩人に会えて、幸せだ。そう思っていたのに。私は彼女の特別ではなかったのだ。年々会うたびに忘れないでいてくれることが嬉しかったけれど年々会うたびに彼女には「新しい誰か」が居て私は彼女にだけ向ける笑顔すら崩れてしまいそうになる。助けてほしいと思っても、助けてくれるのは彼女しか居ないと分かり切っているから。そしてこんなことで助けてなんて彼女だけには言えないから。だから私は飲み込んだ沢山の言葉を振り返ることができない。