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なにせる

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2026.04.12
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テーマ:小説


終電を逃した二人、駅のベンチで話す夜

深夜零時半を過ぎた新宿駅。

雨に降られたデート帰りの**柳田ヤマト(25歳)**は、
ホームから見えない「到着」の表示を呪っていた。

「遅いな……」
舌打ちをして、改札へ向かおうとした矢先──電光掲示板に突然赤字が点滅し、
「新宿駅全線一時運転停止」と表示された。

「なに!?」
ヤマトは思わず声を上げた。周りでも同じく動揺する声が上がる。
そんな中、隣にいた男性が小さく笑った。

「やっと落ち着ける空き地を見つけたのに……」
柳田ヤマトは振り返ってその男を睨んだ。

しかし彼はまったく悪びれない。

「はは……ごめんごめん」
男は手を振ってから改札へ向かおうとするが──

urkundの扉は固く閉ざされてしまっている。
◆◇◆
その男の名は高田ハルト(28歳)。

彼は都心のオフィスで働いていたが、
今日の昼過ぎに突然「定時より遅れたら翌週の給料から1割引き」
という会社ルールが発令された。

「はあ?なんだそりゃ……」
ハルトは思わず机を叩いた。自分の上司は本当に考えなしだ。

「もうこうなる運命だってことか……」
彼は諦めたように呟いて、定時を過ぎないよう仕事を切り上げた。
◆◇◆
「おい、開けてくれよ……」
ハルトが扉を叩くと、改札員は申し訳なさそうに首を振った。

「電車の事故で線路に被害が出ている。今しばらく運転再開できない状況です」

「やり方を変えるべきだ」──
というメモリ書き込みをしたハルトは、改札前のベンチに力尽きた。
ヤマトも仕方なしにそばに腰をおろす。

「お前もか……」
ハルトが呆れたように言った。

「柳田ヤマトっていう。あんたは?」
「高田ハルトだ。まあこんな時に知り合いになっちまうってのは運命的でいいな、はは」
ヤマトはつんけんした態度を崩さない。
「それにしても……遅くなったな……」
ヤマトの胃がキリッと音を鳴らす。

「なにかやられちまったか?」
ハルトが横目で訊いた。

「ちょっとね……」
「いい加減に話してみろよ。せっかく同じ穴ぐらにいんだ、
同志として分け合わないとな」

ハルトの挑発に、ヤマトは小さく舌打ちをした。

だが結局、胸にあったモヤモヤを吐き出す形で話し始めた。

「実は……今朝メールで破局宣言されたんだよ……」

「お。恋かあ。つらいな……」

ハルトの目が少し柔和になる。

「でもさ……別にいいじゃないか、そんなに焦らんでも」

「え!?」

ヤマトはキッとハルトを睨みつけた。

「愛してるって言ったから、そいつも同じ気持ちだって勘違いしたんだろ?

でもさ、相手がどっちが好きなのかわからないなんてのは普通なんだよ。

探しに行かなきゃわからないことなんだぜ」

「探りに行くのが面倒っていうのはどうよ……」

「じゃあお前、その女を探してやるか?今から電話かけてみようか?」
ハルトはわざとらしく携帯を取り出す。

「やめろ!冗談はやめてくれ」

ヤマトは慌てて制止した。

「なにが面白いのよ……」

「面白いんだよ。今、お前んとこに恋する乙女がいるかもしれないって思うとね。ははは」
ハルトの無責任な笑い方に、ヤマトはドン引きした。

「全然いいとこじゃない……」

「でもさ……なんかこの電車止まり場でお前と話してると──なんだかこう……不思議な気がするんだよな……」

ハルトの口調が突然真面目になった。ヤマトはびっくりして、彼をまじまじと見返した。

「なんだその反応?気持ち悪いんだろ?」
「全然……いい感じだ」

二人は笑い合う。
◆◇◆
時計の針は一時に迫ろうとしていた。

電車の止まった駅に不気味な静けさが漂う中──ヤマトとハルトは、改札前のベンチで向かい合っていた。
「やっぱ……お前には好きな奴がいるんだな……」
「当てるなよ」
ヤマトはムスッとしていた。

「でもさ……本当に好きなら諦めない方がいいぜ。せめて理由を訊き出すんだ」
ハルトの言葉に、ヤマトの顔つきが変わった。

「え?なに言って……」

「だからさ──恋愛ってのはさ。人生で最も無責任な行為なんだよな」
ハルトは真剣そのものだ。

「だって……好きじゃなかったんじゃないかって思いたくないし、相手に同じ気持ちを求められないってのは辛いだろ?でも──どっちにしろ、自分が本当に何をしたかったのかを知りたくないか?」
「お前……もしかしてさっきの恋人と……」

「当てるなよ……」

ハルトはヤマトと同じムスッとした態度で、ベンチに寄りかかった。

「でもさ──どっちにしろ、電車止まった時間ってのはさ。

なんかこう……運命的というかなんつうかね」
「なにが言いたいの?」
ヤマトが訊くと、ハルトは小さく笑った。

「いいからさ──とりあえず、この電車止まる間だけは、全部忘れてしまいにしようぜ……」

「あ?おい、なんだよそれ……」

「いいんだよ。聞けよ……今、この瞬間でいいだろ?心をオフラインにしてみろよ……」

ハルトはヤマトの目をまっすぐ見つめた。

──電車止まる前と後で、まったく変わらない眼差しだった。
◆◇◆
「あ──電車動くようになったぞ!」

改札口から声が上がった。

ベンチに座っていた二人はそろりと立ち上がる。
「やっと家行けるな……」
「お互いにね」
ヤマトとハルトは改札を通り抜け、エスカレーターを下りようとした。
しかし──ちょうどそのタイミングで電車止まりの影響か、
エレベーターが完全にストップしてしまっている。
「あ──こりゃまずいな……」
二人はため息交じりに呟いた。

「まったく……今日はツイてないぜ……」
「全然だよ……こんなに遅いと明日の仕事に差し障りが来ちまうよな……」
「ああ……同じ穴ぐらの仲間か……」
ヤマトとハルトは顔を見合わせ──同時に吹き出すように笑った。
「でもさ──こうして電車止まりで知り合えたのは、いいことじゃないか?」
「あ?なんだよいきなり……」
「今日のお前を今日一日の中で最も美しい部分として覚えておけよ……」

ハルトがヤマトの目をまっすぐ見つめた。

ヤマトは一瞬どきりとしたが──次の瞬間、口元に不敵な笑みを浮かべた。

「なんだと?いいからもう一回言ってみろよ……」

「はは……あいかわらず威勢がいいな……この夜の駅でお前と会えてよかったぜ……」

二人は改札を抜け、夜の都会へ消えた。
◆◇◆
電車止まる前とはまるで違う顔で──。





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Last updated  2026.04.12 02:36:39
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