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12.私の気持ち

「ふぅ・・・・ぃいたぁっ!」

額に浮かんだ汗をグイッと手の甲でぬぐってしまい、ティティは思わず叫んだ

「ティティ・・仕事熱心なのはいいけど、自分が怪我してること忘れてない・・?」
「あは・・はは・・すっかり忘れてました・・イテテ・・」
「この暑さの中、これだけの蓮を一人で摘みに行くなんて無茶にもほどがあるわよ?」
「う、うん・・」

「一人で」ルカにはそう言ってしまった。とてもじゃないが本当のことは言えなかったのだ。
あのセナトス将軍の馬に乗り、しかもピンクの蓮を髪に飾ってもらったなんて・・
思い出すだけで口元が弛み、顔が赤くなる

「ちょっと休憩してきたら?」
「え?いいの?」
「大丈夫、私にまかせてっ!」
「ルカ・・ありがとう・・優しいのね・・」
「だって飾りつけが終わった今、仕事何もないじゃない?」
「・・・・休憩行きます・・・」

セナトスからもらったピンクの蓮を大切に、大切に持ってティティは中庭の木陰に腰を下ろした。

「ここなら誰にも見つからないはず・・」

さぼっているわけではないが、やはり人の目は気になってしまう。全ての人に一から説明するのも面倒だ。

「気持ちいい・・」

直射日光さえ遮れば、湿度はゼロに近いため、ウソのようにヒンヤリして風はさわやかにティティの頬を撫でていく・・・

自然とティティの視線はピンクの蓮へいく・・
セナトス将軍からもらっちゃった・・私に似合うって・・・髪に飾ってくれた・・・セナトス将軍が・・・

傍から見れば一人でニマニマと気味の悪い・・いや、実に幸せそうな表情をしていた


「・・・嬉しそうだな・・・」

「?!えっっ?!」

ティティは飛び上がるほど・・・・実際数センチ飛び上がった

「お、王子・・!!」

あたふたとその場にひざまづき、地面にこすりつけるように頭を下げた
ハルノートン王子だっ!どうしよう!さぼってると思われたら?!でも自分から理由を話せばかえって言い訳がましいし・・・別にさぼってるわけじゃないんだから・・・でも、誰が見てもさぼってるのであって・・
ティティの頭の中はパンク寸前

「顔を上げてくれぬか・・?」
「え・・?」
「頼む・・・」

おそるおそる顔を上げると、そこにはなんともせつない表情のハルノートンが立っていた
ゆっくりとひざまづき、ティティを見つめる
ティティは慌てて頭を下げる。次期ファラオがひざまづいてしまったら侍女であるティティは地面に顔をこすりつけるしかない。

「傷は・・もう良いのか?・・・」
「はっ、はいっ!あ、あの、その節はまことに・・」
「私には笑顔を見せるどころか、顔すら見せてくれないのだな・・」
「は・・?」
「今ほど自分の身分が疎ましいと思ったことはない・・頼む、顔を上げてくれ」

ティティが何かを決心したように、ゆっくりと顔を上げ、まっすぐにハルノートンを見つめた

「恐れながら王子。一つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「宴の席でのこと、感謝しております。ありがとうございます。しかしながら、ネフェル様のお気持ちも大切になさってください。私には何もおっしゃいませんが、ネフェル様は深く傷ついておられます。」
「そうだな・・それはわかっているつもりだ」
「わかっているなら・・!」
「では、私の気持ちは?私の気持ちは大切にはしてもらえないのか?」
「・・王子?」

次の瞬間、ティティはハルノートンの腕の中にいた
何が起こっているのかわからなかった
身動きがまったくとれず、逞しい胸に頬が押し付けられる
眩暈にも似た感覚がティティを襲い、頭の中が真っ白になってしまった

「セナトスが好きなのか?あの笑顔はセナトスにだけ向けられるものなのか?」
「・・・・・」
「あいつだって王子だ。私と同じ王子だ!私にもあの笑顔を見せてくれ」
「・・・・・」
「私はそなたを・・」

ドンッ
とハルノートンを突き飛ばすようにしてティティは腕から逃れた

「失礼致しますっ!」

王子の目を見ることなく、その場から駆け出した

手足が冷たい。足元がフワフワする

な、なんなの?何が起こったのよ?!なんで??
何度も足がもつれて転びそうになるのをこらえてティティは走った

どこをどう走ったのか・・
ティティは宮殿にたどりついた

なんだったんだろう?
息を切らせながら先ほどのことを思い出すと、どんどん鼓動が速くなっていく
本当に起こったことなのか?夢ではないのか?

「ティティ!!戻ってきてたのね?!」
「あ・・ルカ・・」
動揺していることを悟られないように、「いつも通りの顔を作った」

「ネフェル様がお呼びよ」
「えっ・・ネフェル様が?」

ズキッと胸が痛む・・・誰にも見られない木陰でよかった・・
改めてティティは思った




「そなたたちはさがっていなさい」

ティティがネフェルの元へ行くと、すぐにネフェルは周りにいた侍女たちを退出させた
侍女たちは皆、いぶかしげにティティを見下ろして出て行く
その間、ティティは生きた心地がしなかった
背中に冷たいものが流れ落ちる・・・

しばらくの間、凍りつくような沈黙が二人の間を流れた・・・

ティティは先ほどのこともあり、顔を上げてネフェルを見ることができない

先に沈黙を破ったのは王女だった

「・・・ティティ・・・」
「はい・・」
「そなたに聞きたいことがあるのです」
「な、なんでございましょう・・」

鼓動が速くなる。ネフェルにまで心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
鼓動に合わせて身体全体が震える

「・・・そなたの気持ちが知りたいのです」
「私の・・気持ち・・?」

その時初めてティティはネフェルを見上げた・・・






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