銀の月の孤城

銀の月の孤城

第9話マムハールの皇女の戯れ

恋が生まれるにはほんの少しの希望があれば十分です。
(by スタンダール)
女性メインの時間となり、シェリルたちは艦内のそこそこの広さの合同浴場で、クルーと戯れていた。
「シェリル、髪、ちょっと砂っぽいよ」
「そうかしら」
「そうですよ、ぱさぱさだし」
「セレスティア、こだわりすぎよ」と、反対側の体を洗う場所にいた同じオペレーターで先輩のミリアム・フォーと後輩のキャロル・エルフとルーシル・リンが顔を出した。
「あなたたち、静かにしなさい」
「艦長」
薄紫色の髪をかきあげて、傷だらけの身体と鼻にあるきり傷にふれながら、艦長は体にシャワーをかけた。その横を医療スタッフの看護士のメイ・メリルとララ・グレースが通り過ぎていく。
「うちって、何気に女性スタッフが多いですね」
「でも、男も多いよ、一番人気はアレンとエリアル様かなぁ」
どぉん、とシェリルの前にセレスティあの巨乳があった。
「レンは、親しみやすいから、遊びたい感じで本命にはならないよね」
「でも、レン様はお姉様方には人気ありますよ」


「アスカ・・・シン・アスカ先輩ですよね。ザフトを辞めた・・・」
「―君は」
「レン・ナラ・アスタールです、ザフト軍、ネオミネルバの・・」


「アルヴァー・ブロームだな」
オーブ軍の紋章だった。良く見れば、街中を歩く巡回のオーブ軍だった。
「・・・私達と一緒に来てもらおうか」
「君をテロリストに関与した罪で身柄を一時拘束させてもらう」



「事態は既に戦争状態に突入しているのです、クライン議長、ザフト軍に戦闘参加を呼びかけてください。プラントは地球統合組織を数時間前に支配下にした地球連合との戦争という局面に至ったと」
「和平のために、話し合いを」
「貴方が否定したことですよ、話し合いや理想では平和はない」
「武力を持って、平和を勝ち取ると」


「・・・・・ニケが、・・・・テロリスト?」
「そう、君はだまされた、君とメル友となって、彼女は君からオーブのことを探っていたのだ」
「そんな・・・」
ガラス越しに、アルヴァーの姿をベアトリーチェが見ていた。


「・・・・君?」
「誰が動いていいといった、ザフトの女め!!」
「・・・・誰が、貴方に発言を許しましたか?」
声色が明らかに変わった。


「・・・・そんな、アレクが、テロで、爆発で」
「・・・・家までは、まだ距離があるようだね」
「エリザベート・・・」
車のライトの光がアルヴァーの乗る警察の車に照らされる。車の前に黒い車が割り込んできた。
「何だ?」
「当たりやか?甥、お前、あっちの車に行って、注意をして来い」
「・・・その必要はない」
「!?」
銃口が議員の頭に当てられる。
サイドミラーに紫の瞳の鋭い眼差しが映る。
「お前、何者だ、警察の人間じゃないな」
隣にいた警察の男がアルヴァーの目をふさぐ。漆黒の髪が揺らめき、銃の音とともに警官や議員の喉下をナイフで切り裂いた。
悲鳴が鳴り響いた。車が激しく揺れた。


「もう、いいですよ」
車から出されたアルヴァーは、男に連れられて、高速道路の上に置かれた。
「・・・・・」
頭の中がこんがらっている。草叢から、がさがさと誰かが出てきた。
「アーリス、もういいぞ、こちらも完了した」
「・・・・はい、公爵様」
細身の警察の制服を着た少年は帽子を脱ぎ、艶やかな髪とイヤリングをさらした。
「・・・・君、女だったのか」
「・・・・ああ、何だ、お前気づかなかったのか」
マインハートが、アーリスの頭を叩いた。
「いいかげんにしろ、クローディア」
「・・・お兄様は意地悪だ」
身体を起こそうとしたが、体からは力が抜けていた。
「・・・・あ」
ベルボーイの衣装を着た銀髪の美少年が手を差し出した。
「お迎えに上がりました、アルヴァー・・・いえ、アルヴァー殿下。ジェイド、君も良く協力してくれた」

少年の背後から銃を持ったジェイドが現れた。
「・・・本当に、ルカを逃げさせてくれるんですね、クローディアと一緒に」
ガラガラと音を立て、ジェイドは箱の中の黒髪の拘束衣の少女を荷物を運ぶ車から出した。
「指名手配の?え?何で?」
「アルヴァー殿下、貴方には本国で皇位継承者としてきてもらいます」
アロイスがアルヴァーを立ち上がらせる。
「は?え?・・・・・・誰が?」
ヘリの音が聞こえた。
「俺がお前の騎士となる、お前は皇帝となるんだ、俺とともにアドヴァキエルを革命しよう」


少女は買い物袋を持って、路地裏で数人の男達に囲まれていた。ローズグレイのロングヘアとパープルの瞳を持つ美少女だ。ラルクは偶然、レンと共に目撃した。




漆黒の宇宙空間をガラス窓を通して、映りながら本国行きの戦艦の中で、プールの中にいるカインは、妹がプールの中に入ってきたことに気付いた。プールの中ではクルーが泳いでいた。ローズグレイの髪が揺らめく。
表情を一ミリも動かさずに、カインの下に来た。
水色の髪の青年ガあっ、と声を上げた。カインも少女に歩み寄った。
白い手を伸ばして、少女はカインに口付けた。
「・・・」
カインは動揺せず、そのまま少女が舌をからめるのを受け入れていた。もう一度、少女を見た後、プールから出た。
「・・・バカ兄、遅い」
「うん、ただいま、妹。魚、食べただろ?」
「寝ていい、バカ兄」
「うん、いいよ、フロレンツィア」



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「面倒くさいな、あんた」
「何よ!?」
レンはひょい、と抱き上げる。
「何するのよ、変態!!」
「足、怪我してるんだろ、ベッドまで運ぶよ」
「ベッドって・・・・貴方、まさか」
「大丈夫、落としはしないから。アンジェリアさんの身体や声は、商売道具だろ、女性は体を大切にしないと」
「・・・女性って」
「ホラ、首に腕を回して」




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「お姉さん~」
「アスタール!!」
追いかけていくレンにシェリルが怒った。アンジェリアは見送っていく。


「・・・私、紛争地帯の革命組織にいたんですよ」
「セレスティア?」
「まあ、たぶん、コーディネーターということで両親に売られたんです。私が9歳の時、レン様のお父様が助けてくださって、プラントにいくことになったんです」
「そうだったの・・・」
「本当はリカルド様の方で働きたかったんですけど、リヴ様が弟をサポートしてくれと。リヴ様はレン様だけ過保護ですから。レン様はそんなお姉様から逃げたいようですけど」


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「面倒だよね、ほんと」
「振られたの、カイン」
「うん・・・整備しのチーフに」
「ねぇ、姉さん、成人したら、さ」
「うん?」
「僕のおよめさんになってくれる?」

「ゴメン、冗談だよ、ごめんね、ねえ・・・・・」

「え?」
ティーあの顔は真っ赤だった。
「・・・ええと、姉さん?」
次の瞬間、イノシシのようにティーアガカインに飛びついてきた。
「カイン!!」
「エッ、何!?」
「私が守る!!すき、大好き!!」




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「LD。どうかなされたんですか?本国との定時会議でお疲れが大分・・・、先日の戦闘でも長時間を強いられましたし」
「ルナマリア、サイ、君たちは余計な気を回さなくていい」
「シンが心配してるんです、シンにとって貴方はレイのようなものですから」
「・・・なくなった旧友か。だが、私はナチュラルだぞ」
「中身だと思います、雰囲気や動作や話し方がどこか・・・」
「・・・・」
シンが反対方向から、やってきた。






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MSを整備しているカインの下に、アウルがやってきた。コクピットの中でカインは部品のチェックを行っていた。
出口付近にはフロレンティアの姿があり、ティーアガ下のエリアから不機嫌そうに兄妹を見ている。
「出撃できそうか?」
「地球統合組織のMSの攻撃の影響がまだ残ってるみたい。全ての状態が元のクリアな状態に戻るには時間かかるみたい」
「フローは何してるんだ?」
「・・・目で兄を犯している、兄の痴態を見ている」
「相変わらずの変態ぶりだな。カイン、お前はこんな妹でいいのか?」
「え?何が?」
「だから、お前とフローは兄弟なのに恋人みたいというか、距離が以上に近いんだって」
「・・・・ええと、コミュニケーションでしょう。大体妹には彼氏いるじゃん、アウル兄」
くい、とフロレンティアガカインの顎をつかみ、キスをする。アウルは一気に青くなる。
「駄犬みたいで可愛い」
「妹、奇襲が好きだね」
「フロレンティア、私のカインに何するの?」
ティーアがカインをコクピットから引きずり出す。
「兄は私。私は兄。女性はナルシスト。兄を愛することの何が悪い」
「え、妹、何で、今柔道を?」
「ハント、ハント」
「いや、マウンドでしょ、正しい言葉を使おうよ、お兄ちゃん妹が間違った言葉使ったら困るよ」



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