銀の月の孤城

銀の月の孤城

第4章

なみだはにんげんのつくることのできる一ばん小さな海です
(by 寺山修司)

         第4章―なんてジャストタイミング【Just Timing/好機】

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神聖紀71年。
ヴァルディア・ゼロは相棒のヴァルディア・アローンと共に、人類の敵ムーンプリンスと壮絶な戦闘に明け暮れていた。ヘルメットの中で異能としての闇の力を受け継いだ人外のパイロットが赤い目を輝かせていた。
『三号機がやられました』
『すぐに、次の勇者を用意させろ!!』
ズダァァァァン。
ドゴォォォン・・・・・!!
どこかで爆音が鳴り響き、悲鳴や断末魔が鳴り響く。
いくつもの勇者が圧倒的な戦力で、敵に駆逐されていく。

「どうして、こんな・・・!!」
特殊なゴーグルをつけた黒髪のツインテールの美女が悲痛な声を上げる。
「戦いなんて、もう・・・私達は分かり合えたはずなのに」
「ヴァルキューレ、今は目の前の敵を駆逐することのみに専念しろ」
「獅子皇・・・・!!」
声は澄み切り、冷え切っていた。
「敵を殲滅し、エリスを守る」
「でも、敵は、私達が殺すのは!!」


ヘルメットを外したパイロットは、精悍な表情を浮かべた大人の勇牙だった。
ヴァルディアの足元にはいくつモノ勇者の残骸があった。ヴァルディアは赤く染まり、まるで血を浴びているように見えて、異様だった。
「また勝ったよ、・・・・昴流」
先ほどとは、打って変わって少年のように傷ついた表情を勇牙は浮かべた。
「・・・悪を討って皆が平和なんて、幸せなんて、お前は知ってたんだよな。・・・どこにもそんな世界はないのに」
星空は何も答えない。プレアデス星団がうっすら見えていた。
「満足か、お前たちは戦争のある世界で、親友も恋人も争いあう世界で」
「僕はいやだ・・・」


朝の登校時間、元気よくミサキに声をかけてくる爽やかで可愛い容貌の十城聖夜が同じ剣柔部の速見明主馬に坂道を上りながら、駆け寄ってくる。竹刀を持ったやんちゃな雰囲気の元気少年といった感じの明主馬はキャンディーをいつものようにくわえていた。
「おはようございます、先輩!」
「おお、いつも、元気だな」
ツンツンヘアの明主馬はいがいにクセ毛を気にしているのか、いつも朝になると何かと髪をいじり、バンダナを巻いていた。日に焼けた顔にはけんかをしている性で、いつも生傷が絶えない。
「深海もおはよう」
「・・・・」
傘を刺し、イスラム教の女性のような黒い布を被りながら首を傾けた。非常にゆっくりとした動きだ。細くて白い手は手袋が嵌められていた。
「昨日より、体調よさそうだね」
「・・・・・はい」
「深海、お前もよ、男なんだからもっとしゃきとしろよ」
「・・・・ですが、明主馬君、僕は視線が、弱視ですし。君と違って僕は・・・・」
そこで、深海は黙ってしまった。その時、さらり、と黒髪に赤いリボンが特徴の琉姫耶が手首を折って、鞄を持ちながら、美しい凛々しい姿で明主馬の横を通り過ぎていった。
「おはよう、十城君」
「はい、先輩」
にこり、と力なく微笑む。学校では病弱で人とも付き合わないのだ。


剣柔部は、廃部した剣道部と柔道部をあわせた部活であり、新しく組み合わせたものではない。部室の中ではミントと汗のにおいが混ざり合っていた。
「琉姫耶さんって、男子高校生みたいですね」
「どういう意味よ、深海君!!」
「そのままの意味だよ」
足を組みながら、道着姿の明主馬は不機嫌そうな表情になった。
「これが今週の出張用の十城君の写真です」
「わぁ~っ、いつも悪いわね、・・・・・・裸、これ、更衣室?こっちは体操着で友達と・・まぁ」
クールで強気でしっかりもの、それが琉姫耶の基本的な性格だ。
だが、いつも緊張気味なその表情は恋をする少女になっている。頬がゆるい。
「腹ちら・・・・」
「御堂、ショタコンって知ってる?」
「知ってるわよ、少年趣味でしょ?」
「このショタコンが」
明主馬は蔑む声でそういった。
「違うわ、私のは・・・・・純愛よ!」





ルシールを抱きかかえて、勇牙はセレスに手渡す。
「勇牙、明日、学校来るよね」
「うん」




コクピットの中で、間違えて配信されてきた映像を見る。皇女エル、ヴァルディアの守るべき主の映像で、9歳の時の映像だ。
「草薙、何故、ないているんだ?」
「・・・え?」
「あれ、何で?」


わからない。
だけど、胸が締め付けられる。息苦しい。寂しい。罪悪感みたいな、そんな感情が勝手にはしる。



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