映画『叫』の感想
顔を海水につけられて女が殺される。赤いワンピースからむき出した脚がもがいて、やがて動かなくなる。医者の父親が、手に入れた筋弛緩剤を、手に負えなくなった息子に打ち、殺す。精神病院で、監禁された患者が、海水に顔を着けられる体罰を受ける。開発されかけて見捨てられた土地に建てられた廃墟にとじこめられたまま忘れられ、白骨化した女。『叫』に出てくる、このような場面の、残酷さに心を打たれる。黒沢清監督の他の映画でも、いつも、心に響く残酷さが現れる。でもこれは残酷なのではない、リアルなのだと思う。この世界の、いろいろな場所で、現実に、起きていることである。戦争はなくならず、殺人のニュースは日常茶飯事であるのだし。戦争も殺人も、遠い世界の出来事ではない。自分と同じ人間のすることなのだから。いつもそう思う。穏やかな日常の裏に血が流れていることをいつも感じる。残酷な場面に目をひそめるとしたら、それは現実から目をそらし、幻想だけをみていたい、ということだ。平和で穏やかな世界、という幻想。幻想ばかりを見て、リアルを見ないことと、廃墟にとじこめたままの女を忘れ去ることは似ていると思う。リアルから目を背けない、残酷さをあえて描く。現実を直視し続ける。この優しさと誠実さに私は惹かれるのかもしれない。