９１歳、かあさんの夏

私たちはかあさんが入院したために旅行をキャンセルしたけど、私のダメージは旅行に行けなかったことだけではなかった。

旅行のために私は、3ヶ所かけ持ちしてたバイト先に、2週間近く休みをもらっていた。

断ってしまった仕事はもう戻らない。

旅行に行けないとなると、急にその損失が大きなダメージのように感じられるのだった。

2週間を無駄にしてしまった。

仕方なく、毎日のようにかあさんの元に通ったけど、虚しい思いがつのった。

毎日のように、今頃旅行に行っていたら…と考えた。

今頃、どこかな。

すり鉢状のラパスの街並みを見下ろしてるかな。

ウユニに着いてるはずの日には、空を写し込んだ鏡張りのウユニ湖を想像して、ため息をついた。

そんなこと考えてても仕方ないで。と夫は言う。

ほんと、仕方ない。考えたところで。

そうして1日1日が過ぎて行った。

病室に行く度、かあさんは生きていて、少しずつ私たちを困らせるようになっていく。