９１歳、かあさんの夏

入院生活から元の家に戻り、入院生活の記憶が消えたかあさんは、すっかり元の生活に戻った。

だけど、入院前に腫れていた足はもう腫れていない。

足が腫れてた時期も記憶から消えちゃったようだ。

で、かあさんの頭の中は、ずいぶん前に階段で転んで腰の骨を折って入院し、退院した直後に戻ってしまったようだ。

立ち上がりにくいとか、歩くとしんどい。
とか、その度に、

あの時、転びさえしなければ…

毎日毎日そうつぶやきながら、過ごした。

ヘルパーさんは、来る度にその話を聞く。

あの時転んだせいで…
転びさえしなければ…

鬱陶しいだろうな。

で、かあさんは、またいつものこたつに足だけ突っ込み、ソファに腰掛けたまま動かない。

ヘルパーさんは毎日のように来てくれたけど、かあさんはヘルパーさんに料理や掃除を頼むのを嫌がったので、ヘルパーさんの仕事は買い物ばかり…

でも、かあさんの家に来てくれて、かあさんの安否確認をしてくれるだけで助かっていた。

だけど、ヘルパーさんやケアマネさんの言うことは…

もう、無理ですよ。
1人で暮らすのは。

なぜって、かあさんはしょっちゅうパンを焦がしたり、鍋を焦がしたりしていたから。



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