おやつは食べたことないねん

2019.07.05

夫と2人で特養に、今のかあさんの様子を見に行った。

かあさんのいる3階に行って、スタッフに声をかけると、

あ、ちょうどそこにいますよ。と…

すぐに出てきたかあさん。

息子や。
とスタッフさんに言う。

息子のことはちゃんと覚えてるな。

ちょうどおやつの時間が終わったタイミングだったようだ。

おやつやったんか？
夫がかあさんの耳元で。
大声で言わないと聞こえないし、ここで聞くのはやめてほしかった。

おやつ？
ここのおやつは食べたことないねん。

と言うかあさん。

誰もおやつなんかくれへんし。

ほら、かあさんが大きな声で言うから、スタッフさんに丸聞こえだよ。

もちろん、おやつは毎日出されている。
ちゃんとおやつ代払ってるし。

おやつもご飯も、終わったら記憶から消えるし、なかったことになるんだな。

ここにいるのは認知症の人ばかり。
みんなそうなのかな。

いつものように自販機コーナーに行って、かあさんのために冷たいジュースを買う。

おいしいわぁ、これ
おいしいわぁ〜
と何度も言うかあさん。

聞いてみるか〜
と夫が言うから、

もういいよ。
と答える私。

ここに来る度、夫は私を指差し、
これ、誰や。わかるか。
と聞く。

最近はたいてい、
今考えてるんや。
あんたの嫁か。

という感じの答え。

もう、いいよ。
全然忘れてても、ほんの少し思い出しても。
いずれすっかり忘れるから。

夫が、かあさんの娘ファミリーが来た時の写真をかあさんに見せた。

覚えてるか。

小さなスマホ画面の写真を拡大しながら、
これ、かあさんの孫娘やで。

ええーっ？！
こんなに大きくなったんか。
と驚くかあさん。

孫娘をかあさんはすごくかわいがっていた。
記憶は残っているようだ。

大きくなったばかりか、子供もできたけどね。

その隣に写るひ孫をアップにしてみせる夫。

ひゃあ、かわいいな〜
会ってみたいな〜
抱きたいな〜

何度も会ってるけどね。
かあさんが抱こうとすると怖がって泣いてたけどね。

これ、かあさんやで。

最後に写真に写るかあさんの顔をアップして見せたら、

ええーっ
これ、かあちゃんか？
と驚くかあさん。

ほんま、ばあさんやな〜
しわ寄って。

もうずいぶん前から、かあさんはばあさんやけどね。

幾つと思ってたんやろ。

みんな、また来るって。
と言ったら、

へぇっ！
今日来るんか！
晩、こしらえせなあかんな。
と言い出した。

どんな耳や。

今日は来ないよ。
夫が言ったけど聞こえてない。

今日はどこか食べに出よか。
とかあさん、すっかりその気。

忘れるまで、数分待とうか。

それにしても、まだみんなの分の晩ごはんの支度、できると思ってるんかな。

数分後、見せた写真のことはすっかり忘れたと思う。

あの花、誰かが作りはってんな。
すごいな。
と、いつものように部屋のすみにある造花のことを言い出した。

そろそろ帰ろう。