カテゴリ:大工の技
昨日は4連休の中日(敬老の日)だというのに、月曜なので大工さんたちは現場入り。 働き方改革が叫ばれているこのご時勢、いくら好きな仕事でも・・・と余計な心配。 毎日7時半頃~18時半頃まで、準備・片付けも含めて現場にいらっしゃいます。 でも、10時・12時・3時と必ず時間を決めて休憩をとっています。 その間、ま、いわば何もしていません!・・・作業は。 私らサラリーマンが休憩時間もクソもなく 書類作成や会議や接客などケジメもなく延々しているのとは大違い! 昨日は午前中は2人で、午後は棟梁だけ工房に戻って、手刻み作業。 多分週明けから現場設置が始まるインナーバルコニーの部材を、 さて、昨日の現場。 どうも棟梁、柿渋を塗っていたようです。・・・この部材、何に使うんだろう? 午後に見てみると、棟梁は工房に戻った後だったのですが、 玄関の両脇に水平に取り付けられていました。 外壁の腰板と漆喰との見切りだったんです。 この家は外周が全て無垢材に覆われていますが、 柱表しのところや雨がかかる柱の足元の要所要所には、 弁柄(ベンガラ・紅殻)入りの柿渋が塗られています。 この柿渋が塗られているのは、檜です。 この家は構造体のうち、梁(赤松)以外は総檜です。 ところが檜は、屋内には強度も美しさも最高ですが、意外と野晒しに弱いそうです。 そこで、腐朽や虫害のリスクの高い部分には、保護塗料を塗ってあるというわけです。 それに対して、外壁材の杉の赤身は、全くの無塗装! 9/16「杉無垢板を外壁に縦張りする・・・」稿でも触れたように、 天然の木材防護保持剤ウッドロングエコぐらい塗るのかな?・・・と思っていたんですが。 塗ることで最初から経年変化した風合いに、無塗装比2.2倍長持ちになるんだそうです。 とてもいい保護材なので、我が棟梁も、これを他所の現場で使った実績があります。 でも、縦張りの外壁、水切れのいいところでの コストパフォーマンス(手間・費用:効果)に、若干の疑問を持ったようなのです。 無垢材は、確かに塗装しておくと長持ちするようです。 合成樹脂系のペンキは論外としても、自然素材の塗料も今では各種あります。 有名どころでは、ドイツの「オスモ」や「リボス」、国産では「キヌカ」や「いろは」・・・。 これらを塗っておくと、顔料を含まないものでも木にその色が染まり、美しく発色します。 でも一度塗ると、塗装は必ず劣化し、数年から十年に一度は必ず塗り替えが必要になります。 ならば、何も塗らなければ、塗り替えはしなくてもいい! ウッドロングエコは最初だけで塗り替えは不要だけど、防腐防蟻効果があるわけではない。 じゃあ、この外壁の大面積に、それだけのコスト(手間・費用)をかける必然性は? そもそも杉の赤身材は、国産材の中では最も腐朽や虫害に強い木のひとつです。 そして、工業製品と違って廃版になることもなく、永遠に同じものが手に入ります。 しかも羽目板縦張り目板押さえ。水切れはよく、常に乾燥状態を保てる施工。 十数年~数十年後に傷んだ部材は、そこだけ交換すればいい。 (多分そのころには、私たちの世代ではないでしょうが・・・。) 十年ごとに全塗装し直すか、無塗装でも耐久性の高い汎用材を必要に応じて部分交換するか。 そんなことをあれこれと棟梁と話し合ううちに、私も無塗装に得心したんです。 曰く・・・ > なにより僕らは経験上「木は変化するもの」という認識があります。 > そのため、木が多少汚れていてもそれを「きたない」とは思いづらいのです。 > 木の外壁も当然汚れますが、その汚れを享受できる > ふところの広さを持っていると僕は思っています。(好みによります。) 35年間のトータルコスト(イニシャルコスト+メンテナンスコスト)で考えると、 無塗装の杉板に比べ金属系や窯業系のサイディングは100~200万円余計にかかるとのこと。 それに撤去が必要になったとき、無垢材はコストが(撤去手間+処分費)圧倒的に安く、 しかも無塗装無垢材なら環境負荷が格段に低い! ま、損得勘定というよりも、経年変化という観点から、 塗装すれば「劣化」、無塗装無垢なら「熟成」。 > きっと数年間は知らない人が見れば汚らしいとか見窄らしいとか思うかもしれない。 > 知っている人が見ればそういう経年変化が「自然でいい」と思えると思います。 > 新建材で慣らされた現代では、マイノリティーな家の外観。 > 「この変化がたまらんなぁ」と思える感覚をたくさん生み出したい、残したいと思っています。 まさに、我が意を得たり!です。 それにしてもお二人とも新潟の方。これって越後気質なのかな? そしてさらに、新潟の方のブログ紹介。 前出のエスネルデザインに設計を依頼された方のブログで、 私と同じく施主の立場からの記述。とても共感できるものです! 「杉板外壁について1」に曰く・・・ >・経年変化を「劣化」と捉えるのではなく「味」として肯定し楽しむこと >・多少高くても品質の良いモノは長く使え使うにつれ「味」が出て愛着が湧くこと >・気に入ったモノの手入れは、面倒な作業ではなくむしろ楽しいこと >・どの時代にもスタンダードなものとして受け入れられているモノは、 > デザインがシンプルで飽きがこないこと 自称建築家によるいわゆるデザイナーズハウスは、 依頼する施主も依頼される設計のプロも、 とかく目の前的な流行を追ったり、やたら新しい建材を使いたがったりになりがちななか、 若いのに本質的な価値観をお持ちなんだなぁと感心しました。 「杉板外壁について2」に曰く・・・ > 街並みに貢献したい > シルバーグレーに変化した外壁は植栽の緑をより引き立ててくれると思います。 > 素材そのままの伝統的な日本の外壁材を使い、 > 昔からある風景を未来につなげられるよう・・・ 自称建築家によるいわゆるデザイナーズハウスは、 街並み景観をぶち壊すような独り善がりの奇をてらった意匠が多く見受けられますが、 街全体の調和を重んじるこのような大人の感性は、施主にも求められると思います。 また、無塗装にした理由やウッドロングエコを使わなかった理由にも触れられていて、 これもまさに同感です。 > 軒をしっかり出して外壁をなるべく濡らさないこと、 > 濡れても早めに乾く(通気工法)ことを意識した上で、無塗装のままに・・・ > いずれにしても最終的に木はシルバーグレー色に変化するので、 > 我が家は新品の木色からの経年変化を楽しみたい・・・ 「杉板外壁について3」に曰く・・・ > 大工さんとお話しした際、板張りの外壁は納まりがシビアで > とても手間がかかるとおっしゃっていました。 > 外壁ひとつ取っても、この家が人の手で丁寧に作られていることを実感しました。 > いつもありがとうございます。 大工さんたちと直接対話し、その手間や苦労に労いや感謝の気持ちを伝える・・・。 この施主と職人の協働と共感がまさに家づくりの本質であり、醍醐味。 外壁に杉無垢板を張るというのは、 9/16「杉無垢板を外壁に縦張りする・・・」稿でも触れたように、 想像以上に大変な作業です。それも直に見て話しているからこそ分かること。 と、まあ、無塗装にしたわけ・・・、 あくまでもウチはこう考えてこうしたということをいろいろ述べただけで、 塗装することの是非を言っているのではありません。 他の稿についても、他のやり方の論評をしているわけではなく、 ここのようなやり方もあるんだということを記録として発信しています。 私は新建材や化学物質やデザイナーズ住宅などについては批判的ですが、 大工さんのやり方については、それぞれの深い考え方があるでしょうし、 家づくりに関しては施主は大工さんの知見にかなうわけがありません。 要は施主が大工さんとしっかり意思疎通して納得できていればいいのです。 さて、その無塗装の無垢杉外壁板、1階正面の腰板部分は、張らずにまだ残してあります。 その上半分は塗り壁になるので、壁塗りをする前に羽目板を張ると、 施工中に壁土や漆喰などが板に付いたり、汚れた手や軍手で触ることで、 そこだけアクなどでシミになってしまうそうです。 よくある古民家の天井に浮き出る呪いの手形・・・ あれ、大工さんの手形とかが、何十年も経って浮き出てきたもんだそうです。 また特に、鉄分やタンニンは木と反応して黒く染めてしまいます。 なので、直に壁土や漆喰と接する見切りは、敢えて先に黒く染めています。 ・・・弁柄入柿渋、弁柄は酸化鉄、柿渋はタンニンです。 というわけで、いよいよ明日から、4度目の左官さん登場! 9/5「左官の技 再び~中塗り・・・」稿に続き、上塗り仕上げが始まります。
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最終更新日
2020年09月22日 20時52分46秒
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