表面上は、上手く滑り出したかに見える就航式も裏ではこのありさま。今後の対策を立てないとならない状態で招待客を乗せた神戸行きのクルーズが始まろうとしていた。私は、引き続き船に乗って船内のPOSレジの運用を見守った。各スペースで始めて実戦のサービスを行なう者たちは混乱を続けた。船酔いして戦力にならないスタッフが続出した。そんなこんなで神戸に辿り着いた私は、神戸支社に顔を出した。神戸支社には立ち上げ準備室時代東京にあった料飲部が全員移っていて悪餓鬼軍団の溜まり場だった。当然の如く、山川さん、中川さんがニヤニヤしながら事務所にはいた。「さっき、港で見かけたんで支社に寄らせていただきました。」、「おお、幸喜。今日は、こっちに泊まりだろ??」、「はい、そのつもりです。どこか案内してくださいよ・・・。」、「わかった、わかった。チョットそこで待っていてくれ。」無事に船が神戸の港を出て数時間が経っていた、次に横浜に入るまでに船内で非常事態が起こらない限り、陸ではどうにもできないことが多いので私たちは安心して三宮の街に繰り出した。一軒目は、中華レストランに案内してもらった。料飲部のメンバーは一癖も二癖もある人しかいなく私は、紹興酒を2本飲まされていた。ふらふらになりながら、二軒目は北野のスポーツバーに案内された。北野には、同じ系列のスポーツバーが二軒あり両方のオーナーが今の楽天イーグルスGMのマーティーだった。へべれけになりながら山川さんの自宅に泊まる事に・・。朝、起きると何故か山川さんの家の玄関に工事のパイロンや腕が左右に揺れる交通標識のお兄さんがいた。私は、途中から記憶がなく全ては私の仕業という事になっていた。本当の事かは未だにわからない。数日間、神戸で過ごした私は、港についた船に乗り込んで横浜を目指した。私が、地上にいるうちに船内のスタッフは大分現場になれていた。私は、中野さんを探しに船内を散歩していた。開店前のバーに一人黙々と準備する中野さんの顔をみた。「中野さん、お久しぶりです。今日、乗っていますから仕事あけたら少し飲みましょうよ。お客さんがいなくなった後見計らってきます。」、「ああ、わかった。」私は、真夜中の2時過ぎメインバーを訪ねた。中野さんが一人残って後片付けを終えようとしていた。「中野さん、そろそろいいですかね・・。」私は、中野さんと時間を忘れて話した。関西支社の様子や、船内の実情、中野さんのお子さんの夢、船の揺れが心地よく、人生最期の職場に中野さんが選んだ事が正解だったと感じた時間だった。あの時、あの瞬間、私は、世界をあてどなく旅していた事も、獣医になりたかった自分も、自衛隊にいた自分も忘れて「今を堪能していた。」東京の事務所では、横浜港を仕切るドンからお揃いのスタジャンを幹部連中分依頼されている仕事が進んでいるとも知らずに私は太平洋の大海原に抱かれていた。見渡す限りの満天の星空、地平線から顔を出す朝日、クリームソーダーの様なエメラルドの海。偶然、友人から勧められたこのバイトにめぐり合った私は幸せ者だった。
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幸喜3319
表の世界と裏の世界の狭間を日常にするヘッドハンターという人種の日々起こる出来事をあなたにも、ほんの少しお知らせします。
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