+ﾗｲﾙ+

【二次創作書庫…lock*tie】

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スカイビュー・ローテーション

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+ライル+

　一卵性双生児。瞳の色や髪質までそっくりなのだから、ヘアスタイルぐらいは変えれば良さそうなものを、
手入れが容易だからなのか、センスが似るのか、離れて暮らしていたはずの兄弟は髪型までもが見事に
被っていた。
ティエリアはニールと瓜二つの弟と目を合わせられずに視線を落とす。
首筋にかかる毛先のクセまでが、その人と同じなのがやりきれない。
ニールと見紛う容姿の二代目ロックオン・ストラトスが現れた事で、余計に一代目の死を克服出来なくなっ
てしまったティエリアは、そんな自分に苛立ちさえ感じていた。
「やっぱり俺は此処に来るべきじゃあなかったのかねぇ…。」
特殊ガラスに背を向けて凭れ掛かるライル・ディランディを、ティエリアは横目でチラリと見やる。
「ソレスタル・ビーイングとしての資質については、これから見せてもらう。」
「なるほど…そっちね。」
「しかし、人としては失望している。皆が貴方にニールを重ねて見てしまうのが不愉快なのは分かる。
　だからと言って、傷付けるようなやり方は感心しない。」
「フェルトの事か？でも君が思ってるほど女子はヤワじゃない。」
今度はライルの方がティエリアをチラリとみやった。憂いの横顔は怜悧で美しく、性別を忘れてしまうほどだ。
「勝手な決めつけだな。」
反論するも、彼方に散らばる星の瞬きからは目を離さない。
「なぁ…思ったんだが、君がムキになって俺を避ける理由が他に有るんじゃないかって。」
ライルは頑なにそっぽを向いたままのティエリアに向き直り、その距離を一気に詰めた。
メガネの向こうから不快そうに見上げる瞳は、最高級の天然石よりも更に紅で人間離れしている。
「この際、君にも分からせてやった方がいいのかね？俺はニールじゃないって。」
言葉の意味を察して、声も荒げず静かに激昂するのだろうと予測していた。
「望むところだ…」
何かしらキツイ台詞の反撃を予想していたライルは、虚を突かれ言葉を失う…。
空気が揺らいだ。
暗紫の髪がフワリと舞う。
次の瞬間、かわす間も無く柔らかな誘惑がライルの唇を攫った。
驚きと戸惑いに締まりを忘れた隙間から、小さな舌先が侵入し、やがてヌラリと口腔を蹂躙する。
しかし、それは、ほんの束の間の出来事…。
無重力に流されぬよう、逞しい上腕を捉えていた細い指が解かれ、二人の距離が密着を増す前程に戻った。
「少しは…」
外していたメガネを慣れた仕草でかけなおし、ティエリアは真っ直ぐにライル・ディランディを見据えた。
「不本意に唇を奪われる乙女の気持ちが分かっただろう。」
視線を刺された方はと言えば、いつの間にメガネを外していたのか…と、どうでもいいような事に気を取られ
つつも、呆然と立ち尽くす。
「それから、もう一つ…。」
ボレロ丈のジャケットが腰の細さを際立たせる後ろ姿。
「貴方がニールではないと再確認した。」
振り返り、僅かな嘲笑を残して、しなやかな後ろ姿が通路の角に消える頃、ライルはようやく口を開く。
「不意討ちだろうがっ！ウマイもヘタもあるかよっ！」
それから、もう一つ…
「…俺は、あんな“えげつない”キスはしてないぞ…。」
苦虫を潰したような表情で呟いて、その後、思い出したように唇を拭った。
嫌悪感からそうしたわけではなく、嫌悪感を覚えなかった自分に慌ててアクションだけは起してみた。という
具合だった。
その後暫く、ティエリアとライルの間にはガンダムマイスターとして必要最低限の会話があるのみで、気持ちの
距離が縮まるには少々の時間を要した。

…
　スカイ・ビューの向こうに広がる漆黒が、佇む少年を吸い込んでしまいそうな絵面。
時折瞬く彼方の星を眺めているのか、それとも何か思いを巡らせているのか、細いカウンターに不安定な体重を
預けているはずの少年の後ろ姿は、殆んど身じろぎをしない。
常に孤高で人を寄せ付けない雰囲気を持つ彼は、しかし、自分にもまた厳しく、案外、些細なキッカケで簡単に
折れてしまいそうな予感がする。と、足音の主はその少年、ティエリア・アーデの背中を見詰めていた。
徐々に近づく足音を、ティエリアは以前のように疎ましく感じたりはしなかった。
「よぉ…！」
かけられた声に振り返る表情は、ノンフレームのメガネに反射する冷たい光に遮られ、その機嫌が量れない。
しかし、向き直った少年は穏やかに微笑んでいた。
時間を共に過ごした者にしか分からぬほどに、ほんの僅か。
億と瞬く星の海を背景に、凛として佇んでいた。

〓ＥＮＤＥ〓 20090322...by.che*myun