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:::Nebula†Garden…ホガラカDiary:::

◆ニンギョヒメデンセツ


【二次創作書庫…ikki*shun】

...ニンギョヒメデンセツ...ikki*shun


  一輝にとって瞬が留守だったのは想定外だった。
 早い便のチケットが取れたので、驚かしてやろうと黙って帰国したら、弟は出かけていた。
 当然といえば当然の出来事である。夏休みは家に閉じこもっている為の‘休み’ではないのだ。
 容易に想像できるはずの状況が、一輝には期待はずれで、しかも意外だった。
 帰れば必ず瞬が笑顔で迎えてくれると、勝手に決め付けているのは自分の我侭なのに、
 分かっていながら憤然とした気持ちで荷物を解く。
 部屋はガランとしていて全くやりきれないし、長時間、狭いシートにへばりついていた身体の鈍りが、
 ダルさとなって一気に襲ってきた。

  夏の盛り。天気の良い日中に、蝉時雨だけがジンジンと唸り、 庭のプールはガランとして
 人の気配がない。どうやら瞬以外の青銅-ブロンズ-メンバーも出かけてしまったようだ。
 一泳ぎすれば身体も解れるだろうと、一輝は小波に揺れる水面に飛び込んだ。
 ── こんな事なら予定通りの帰国すればよかったな…。
 ボンヤリとグチを浮かべながら緩いクロールで対岸を目指し、水中ターンで仰向けに返って、
 背泳ぎでもと来たコースを戻って行く。といっても直径25メートルほどの円形プールに
 ‘コース’が有るわけもなく、一輝は空を眺めて漫然と泳ぎ続けた。と、
 「兄さん!」
 それは罪を問いかけられているような苦い言葉。
 しかし、その声はこの世で一番心地よい響き。
 一輝は、腕を上げてそれに答える。
 立ち上がって水の底を蹴けると、瞬の姿のある方へ早いクロールで水を掻いた。
 息を継ぐ度に弟が‘コマ送り’で駆けて来る。手にしていたトートバッグを投げ出し、
 素足に履いていたキャンパスシューズを脱ぎ…
 ── アイツ…なんで靴なんか脱いでるんだ…?
 次の息継ぎでは瞬の姿は見つけられなかった。
 「おいっ!瞬っ!!」
 泳ぐのをやめて一輝は辺りを見渡したが、360度のプールサイドのその何処にも
 探す姿は見当たらない。
 「兄さんっvvv」
 ザプンッ…と、目の前の水面が騒いで見失った姿が現れた…。
 「何やってるんだ!服のままで!!」
 「だって、だって…兄さんがそこに居るのに、我慢できなくて…。」
 視線を落として瞬が答える。驚かせたかったのは確かだが、まさかここまで…
 「いや、ま…海パンみたいのもんだしな。」
 水の中で歪むインディゴのショートパンツのシルエットを見やって、声を荒げた事を後悔する。
 「兄さん、明後日だって言ってたじゃない。」
 瞬は一輝の背に両手を回し、胸の上で拗ねたように呟いた。
 濡れそぼっても尚、淡い色を残す亜麻色の髪が、タンクトップから剥き出しになった肩に、首筋に
 纏わりついて、服を着ているのが返って扇情的に思える。
 「驚くと思ってな…黙ってた。そしたらお前が居ないんで…拗ねてたんだ。」
 「兄さんが…?」
 「ああ。」
 意外そうに顔を上げた瞬の肩を抱き、小さく開いたままの唇にそっと、唇を重ねる。
 お互いの唇が濡れていたせいか、思いのほか艶かしい音がして瞬がクスクスと、笑った。
 「兄さん、可愛いキスが苦手なんだ~エッチなのは得意なクセに!」
 「何だと!それはお前だろう。」
 「違うもんっ。」
 言うと瞬はタンクトップを脱いで一輝に投げつけた。
 水を含んだ小さな布がペタッと、一輝の顔に張り付いた。
 「…許さん…。」
 「兄さん怖い~っ!」
 瞬が大急ぎの平泳ぎで数回水を掻き、軽快に水の中に消える。
 「人魚みたいな奴だな。」
 水浸しのタンクトップをプールサイドに放り投げて、一輝が愉快そうに呟いた。
 やはり今日で良かった…。
 水面下のしなやかな影を確かめると、一輝はキレの良い最速クロールで水面を滑り出し、
 浮上する気持ちを抱えて、悪戯好きな人魚を追い始めるのだった。

 =END=

[2005/08/22]...by.che*myun



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