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日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

05宮城 発表

05宮城県歯科医師会 雑誌に 発表した内容



顎関節症への運動訓練と咬合治療について



川村歯科医院(仙台市宮城野区)

仙台臨床研究会 

日本顎関節症リハビリ研究室代表 川村秋夫





臨床上の問題点 

 最近,関節痛,関節雑音,開閉口路の偏位を主訴とする「顎関節症」だけでなく,関節症状を訴えない不定愁訴やorofacial
painの患者さんが増えている.頸部痛や頭痛などの「咬合関連症候群」や「咬合不安定症候群」を訴える患者さんが,成人矯正後,インプラントやブリッ
ジの治療後に起こり,よく見受けられる.筆者は,インプラント治療を1980年から行ってきたが,何年間も歯の無かった大臼歯部のインプラント治療後
に,時間と共に咬合位が変化し,上下の歯の接触点が少なくなり咬合紙が抜けたり,時に1ミリ以上のスペースができ,数回歯冠修復をやり直して咬合位 下
顎位が,ようやく安定してきた症例を何例も経験してきた.時に,歯が無かった後の始めの補綴物は,後に修正する治療冠のつもりで製作しないといけないこ
とがあった.成人矯正でも起こり,,咬合接触点が少なくなり,悪化させないように治療するだけでは限界で, 咬合接触点を積極的に増加させ,下顎位・咬
合位・タッピングの安定と収束が起こりやすい治療が今後ますます大切になってくると思われる.2002年日本補綴歯科学会から「咬合異常のガイドライ
ン」と「顎機能障害のガイドライン」が出て,会員以外でもインターネットでも閲覧することができる.

毎日の臨床上において実際の咬合治療は,多くの問題点を抱えていて,多くの工夫と経験が必要になる.

第一に不定愁訴の治療として歯科としての咬合治療が必要かどうかの咬合診断が医師により異なる.咬合を視診だけで良いか悪いかだけでなく,客観的な咬合
接触の検査と記録である.プレスケールやシリコン・チェックバイト,咬合紙透過法で治療前の咬合接触の記録を残すようにしている.頚部と咀嚼筋の筋触診
を行い,開閉路の偏位があればプロとコールに簡便に記載するようにしている.

第二に咬合・下顎位の安定させるための治療としてのスプリント治療が必要か.どんなスプリントがよいか.製作法,咬合高径やガイドの角度も医師により異
なる.筆者は咬合調整が簡単な上顎の滑らかな滑走運動を与えた全歯牙接触型スタビライゼーション・スプリントを中心に製作している.なるべく咬合高径を
低くし,今ある歯の位置関係に近くし,タッピングの接触の安定に注意している.欠点は,下顎より発音障害があり,使用時間に限界がある.

第三により安定した効果のでるためのスプリントの調整方法である.何度も安定するようにタッピング時の咬合音がしっかり出るほどに調整を繰り返す.極小
タッピングを中心にし,時にdual
biteの症例もありチンポイント変法,バイラテラル法でも確認する.下顎の咬頭頂が上顎スプリント平面に接触しているように時間をおいて何度も調整を
繰り返す.安定するのに時に調整にも数十分以上かかることもある.極小タッピングを誘導する方法としては,口角伸展法タッピングとEMGバイオフィ-ド
バックを利用している.スプリントだけで,頚部の疼痛が軽減しにくい時は,下記で述べる咀嚼訓練を併用すると効果が早い.

第四にスプリントの効果が発揮した後スプリントをどう外していくか.ここが最大の問題である.スプリントの接触点が安定するとスプリントを外すと,かみ
合わせの接触点が少なく感じ,顎の不安定感が増すことが多い.咬合調整で歯を削るか,接触の弱い甘い部位に接触点を足すかの検査診断がとても大切であ
る.原則的に早期接触が,人工物の時は咬合調整をし,天然歯の時は,添加を行っている.添加する時は,始めから冠を製作するのではなく,治療冠として接
着性レジンのダイレクト・スプリントを用いている.

第五の問題は,治療経過と共に咬合位が変化していく時にどう対応するか.時に難問難関で困り果てることがある.クラウンを仮着し, 数ヶ月時間をおいて
プレスケールや極小タッピングでのシリコン.チェックバイト,咬合紙透過法で咬合接触を検査記録し,時に低位の部位には,14Kを鑞着する.またはクラ
ウンの咬合面に接着性レジンのダイレクト・スプリントをもちいて咬合挙上する.時にクラウンの再製作も時にある.



スプリントと咀嚼訓練による頚部痛の軽減 について

 顎関節症の随伴症状とも言われる不定愁訴の咬合関連症は、頸部筋群と咀嚼筋の圧痛の関連性及び頸部の可動域と関連が深いことが臨床上示唆されている。
全歯牙接触型スタビリゼーションsplintにて何度もていねいに調整し、極小タッピングが収束し、左右臼歯部の均等に同時接触し、前歯部が弱く接触
し、アンテリアガイダンスを誘導開始は滑らかに調整し,時間を於いてもタッピングが収束し安定してくると、咀嚼筋と頸部筋の圧痛が減少するだけでなく,
頚部の可動域が拡大し,時に膝の裏(委中)の圧痛も軽減している患者さんが見受けられた。

 筆者は,不定愁訴で来院する咬合治療が必要と思われる患者に,筋の圧痛の軽減だけでは,客観性が乏しいので,首の可動域の変化と立位体前屈の変化を
ビデオで撮影した.

(1)スプリントを入れないでのタッピング後

( 2)スプリントを入れて数十秒タッピング

(3)咀嚼訓練,数十秒後の首の可動域の変化をビデオ撮影

スプリントで患者自身も,楽になったというと咀嚼筋と頸部筋の圧痛が減少すると、頚部の可動域が拡大していることが多い。右で咀嚼すると、右に首が倒れ
やすくなり、捻転がしやすくなることが多く、左に行きにくくなったとさえ感じる。また左で噛むと左に傾斜しやすく捻転しやすくなる。首を動かし可動域が
少し不快な位置を捜して(曲げて捻った位置での二軸、三軸の合成)、両側での咀嚼訓練を数秒間強くする等尺性運動にて、首を動かしたときの不快症状が軽
減し、より可動域が拡大していることが多い。スプリントを装着しタッピングを 数十秒行っただけでは、首の痛みが軽減しにくいとき、普段使っていない筋
肉を収縮させるため,歯磨きガムや弾性チューブを用いた咀嚼訓練(不快な首の位置)を数十秒おこなうと、即効性に可動域が拡大し,不快症状を軽減できる
多々ある.頚部痛の時にも首を軽く曲げての等尺性運動の咀嚼運動を効果的に行うと筋の弛緩がおこる.(PNF,操体法,3軸修正法) この方法は,安全
な頸椎可動域調整方法であり,安全に行えるため臨床応用が高いと思われる。

まとめ

 下顎の偏位側に首を曲げたままでの偏咀嚼は、曲げた側により動きやすくなり、反対に動きにくくなり,頚部の歪みが拡大し,加齢と共に頸椎が歪み,頸椎
ヘルニア,脊柱管狭窄症などを起こしやすくなることが示唆される.よりタッピングの安定したスプリントを数分間口腔内に入れてタッピングしただけで首の
筋の圧痛が減り,痛みや不快感が減少し,首の可動域が拡大することが多い.可動域の変化が少ない時は,頭を左右前後に屈曲し捻転し不快感のある位置で弾
性チューブを数秒間10数回両側でしっかりと咬むと,首の可動域が拡大し,立位体前屈も拡大している.今回は,スライドだけでなくビデオを見て頂いた.
歯科医師が行える頸椎脊椎の簡易な調整による関節可動域の拡大方法とスプリント調整、ダイレクト・スプリント療法の症例を解説し紹介した。

臨床上は,咬合模型での咬合器診断やプレスケールやシリコン・チェックバイト,咬合紙透過法などの咬合診断検査,治療冠やダイレクト・スプリントなど,
歯科医師の診断方法,治療技術,症例の経験数だけでなく,高度先進医療に該当し,健康保険診療に未だ認可されず,治療を薦めるときに,臨床上は経済的な
問題を含んでいる.



そのためか咬合関連症の咬合補整治療,咬合リハビリ治療を行う歯科医師は,まだ少ない.最近の厚生科学研究で,福岡にて600名以上の80歳の歯の本数
と心電図の関係の違いや脚伸展パワーと咀嚼能力の関係が深いことがエビデンスに基づき科学的に示唆されている.歯科医療の向上が国民のQOLに今まで以
上に貢献できることを願ってやまない.



参考文献







「咬合異常のガイドライン」と「顎機能障害のガイドライン」,日本補綴歯科学会:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jpds/j/
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川村秋夫:日本顎関節症リハビリ研究室 http://www.kawamura.ne.nu/


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