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日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

<歯周病 骨髄液を注入>

<歯周病 骨髄液を注入>



読売新聞 2003年12月16日より


 ◆3か月で歯茎の骨再生

 岐阜県の農業Aさん(76)は、9年前に治療したインプラント(人工歯根)がぐらついて、思うように食べものを噛(か)み切れないのが悩みだった。名古屋大病院が、歯茎の骨(歯槽骨(しそうこつ))の再生という新しい歯科医療に取り組んでいることを知り、昨年4月に治療を受けた。今は、あぶったスルメイカも噛み切れるようになり、「何を食べてもおいしく感じられる」と喜んでいる。

 歯が失われる原因で最も多いのは歯周病。歯と歯茎の間にたまる歯垢(しこう)に含まれる細菌によって、歯茎が赤く腫れ、進行すると、歯を支える土台の歯槽骨まで破壊されてしまう。

 自覚症状はほとんどないが、大人の7割以上に軽い歯周病の症状があり、40歳以上では2割近くが重症といわれる。Aさんの人工歯根がぐらついたのも、歯槽骨が徐々に崩れたのが原因だった。

 歯槽骨が失われた場合、これまで、骨を移植するなどしかなかったが、名古屋大教授の上田実さん(頭頸(とうけい)部・感覚器外科学)らは、患者本人の骨髄から採取した細胞を使い、歯槽骨など歯の周囲の組織を再生させる治療法を開発し、昨年10月には同大学病院に「再生歯科外来」を開設した。これまでAさんら11人を治療した結果、全員が歯のぐらつきがなくなり、しっかり噛めるようになった。

 培養した細胞などを利用して、様々な臓器や組織をよみがえらせる再生医療の中で、最も実用化が進む分野の一つだ。治療では、まず患者の腰骨にごく細い針を刺し、骨髄液を2ミリ・リットルほど採取する。全身麻酔や入院などは必要なく、15分ほどですむ。骨髄には、骨や筋肉、血管などに分化する幹細胞が含まれており、4週間かけて培養し、約10万倍に増やす。

 培養した幹細胞に、骨などへの分化を効率よく促すため、患者の血液から取り出した血小板を加えて、注射器で歯槽骨の患部に流し込む。幹細胞は歯槽骨や歯根膜など歯を支える組織に成長していく。3か月ほどで患部はほぼ完全な状態になるという。

 骨髄も血液も、患者自身のものを使うので、拒絶反応の心配もなく、患者の負担も比較的少ないのが特徴だ。この治療を受ける前に、歯垢を除去するなど処置を受け、歯周病自体の進行は止めておかなければならない。

 先端医療センター歯科口腔外科(神戸市)でも近く治療を受けられるようになる。現在は研究費から負担しているが、幹細胞の培養だけで約30万円かかる。

 ◆

 歯科の再生医療について上田さんは先週、「東京テクノ・フォーラム21」(代表=滝鼻卓雄読売新聞東京本社副社長・編集主幹)で将来展望などを講演。その中で「歯周病の再生医療は、高齢者の生活を向上するのに役立つ。普及には産業化が必要だが、薬の代わりに細胞を使って治療する時代が来る」と話した。

 上田さんらは、治療のカギとなる幹細胞を培養する技術をもとに、再生医療のベンチャー企業を設立。2006年をめどに、全国の医療機関に幹細胞を提供できる体制作りを目指している。

 また、歯そのものの再生にも取り組んでおり、「入れ歯は神経がつながらず、噛み応えがないが、再生した歯なら脳に刺激を伝え、痴ほう予防にもなる」と期待している。(科学部・杉森 純)




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