常識とは逆だった"お腹が弱い人"の食事法 2 消化器内科医の江田証医師
常識とは逆だった"お腹が弱い人"の食事法パン、リンゴ、ヨーグルトはNG病院では「異常がない」といわれるのに、下痢、便秘、おなかのゴロゴロ、張り、痛みで悩んでいる人に朗報だ。投薬や手術をせず、特定の食品を避けるだけで症状を改善する という食事法が世界中で注目されている。どんな食事法なのか。消化器内科医の江田証医師が解説するあなたも過敏性腸症候群かも「納豆、キムチなどの発酵食品は腸をよくする」??「アスパラガス、ネギ、豆、ゴボウなどの食物繊維を取る」 ??「オリゴ糖が入った特定保健用食品を利用するのがいい」????パン・豆類・ヨーグルト・りんごを食べてはいけません ―世界が認めたおなかの弱い人の食べ方・治し方』(江田 証著・さくら舎刊)低FODMAP(フォドマップ)食 腸の調子を整えるとして、さまざまな情報が流れています。それらをまめに実行しているのに症状が改善しない。そんな状況に心当たりがあるのなら、次の3項目をチェックしてみてください。過去3カ月間、月に3日以上、腹痛やおなかの不快感が繰り返し起こり、(1)排便すると、痛みや不快な状況がやわらぐ (2)おなかが痛い時、便(便秘、下痢)の回数が増減する (3)おなかが痛かったり不快な時、便の形(外観)が硬くなったり水のようになる。3つのうち2つ以上が当てはまるなら、「過敏性腸症候群」の疑いがありそうです。腸のトラブルを引き起こす糖質たちそれでは、どんな食べ物を避けるべきなのでしょうか。フォドマップとは、「FODMAP」のうち「F」と「A」を除いた「ODMP」の4文字から始まる発酵性の糖質を指しています。糖質の名称と代表的な食材は以下の通りです。F(fermentable 発酵性)の以下の4つの糖質O(oligosaccharides オリゴ糖:ガラクトオリゴ糖とフルクタン) レンズ豆などの豆類、小麦、玉ねぎなどD(disaccharides 二糖類:二糖類に含まれる乳糖、ラクトース) 牛乳、ヨーグルトなどM(monosaccharides 単糖類:フルクトース) 果実、蜂蜜などA(and)P(polyols ポリオール)マッシュルーム、人工甘味料(キシリトールなど)など過敏性腸症候群のみならず、日々ガスやおなかの張りに悩んでいる人、潰瘍性大腸炎やクローン病、大腸憩室、逆流性食道炎の症状にも効果的がみられます。食べ物は、口から入って食道、胃、十二指腸、小腸へと運ばれます。腸に不調を抱える人にとって糖質は厄介な栄養素で、小腸に入ると「吸収できるもの」と「吸収が悪く問題を起こすもの」とに大きく分かれます。このうち問題を起こすのが、フォドマップなのです。過敏性腸症候群の人は、フォドマップを消化・吸収しづらく、大量に摂取すると小腸内で濃度が上がるため、それを薄めようとして血管内から小腸内へ大量に水分が送りこまれます。その結果、小腸は「水浸し」状態となるのです。水によって腸が刺激され、運動が過剰になり、おなかのゴロゴロや張り、下痢などが生じます。小腸で吸収されなかったフォドマップは、吸収されないまま大腸に進みます。大腸のなかでは腸内細菌たちが小腸で吸収されなかったフォドマップをエサとして、待ち構えています。フォドマップは大腸の腸内細菌のファーストフードになり急速に発酵が進みます。この結果、大腸内で過剰な発酵を起こし、そのガスでおなかがパンパンに張るのです。過敏性腸症候群の人の腸内細菌は、無症状の人の腸内細菌と種類が異なり、過剰な短鎖脂肪酸を発生し、短鎖脂肪酸が過剰な人ほど過敏性腸症候群の症状が強いことがわかりました。低フォドマップ食はこういったことを引き起こす4つの糖質の過剰摂取を押さえ、腸の健康を守る食事法です。フォドマップの含まれる食べ物は複数ありますが、どの食品があわないかは一つひとつ自分の身体に聴いて確かめていくことになります。まずは3週間フォドマップの摂取を完全に中止。するとおなかのいろいろなノイズが収まります。腸が静かになったところで、1週間に1種類ずつ4つの糖質を再開していきます。調子を悪くする糖質を含んでいると、おなかが過剰に反応するため、自分にあっていない食品がはっきりわかるはずです。全部の高フォドマップ食品がずっと食べられないわけではないことに注意してください。高フォドマップ食でも食べられるものがあるのです。「傾聴」ということばにちなんで、私は「傾腸」を提唱しています。これは自分の腸の声をしっかりキャッチし、それに従うことです。自分の腸がどんな食べ物で調子を崩すかは、自らが腸と対話しながら実際に試さなければわかりません。腸は栄養分と水分を吸収する根人間の体を樹木に例えるなら、腸は土の中に強く広く張って栄養分や水分を吸収する根です。だから腸は人の健康の根本にあるものだといえます。現代医学は、「血糖値が高くなったら、薬で下げる」といった即効的な治療を得意とします。しかし、単に症状に対して治療するのではなく、病気の根本を正し、あらかじめ発症を防ぐ「予防医療」の取り組みが重要ではないでしょうか。たとえば血糖値は腸の調子を整えることでも下がることがわかっています。ほかにも、高血圧、動脈硬化、アレルギー、肥満、自閉症、肝臓がん、倦怠感などにも腸の調子が関係しているとみられています。さらには、パーキンソン病の患者の多くが便秘になることから、パーキンソン病は腸内細菌の出す毒素が発症の原因ではないか、という研究も進んでいるほどです。だれしも腸の不調はあるもの。下痢や便秘で悩むことがあっても、長引かなければ気にすることはありません。日々の生活で腸の不調を感じない方は、糖質制限を意識しなくても大丈夫。ただ、体にいいものでも取り過ぎは腸のバランスを崩します。それに、腸も年齢に応じて変化しますので、折をみて食生活を見直すことをお勧めします。現代では、小腸で吸収されにくい糖質を含む食品が非常に多くなっています。ただ、欧米では大手食品メーカーが低フォドマップ食品を開発し発売を開始する動きも見られています。情報に惑わされることなく、「傾腸」でご自身と向かい合いながら、病気を根本から対処する食事法を手に入れていただきたいと思います。https://president.jp/articles/-/23618?page=4https://president.jp/articles/-/23618