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八の字の巣穴

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八枝(管理人)@ Re:艦これ(05/06) お久しぶりです。大変だったんですね。 私…
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一次創作「夜に啼く鳥の」


章前~ほんの千年も前にはならぬこと


其の一の一「黒衣の男」


其の一の二「支倉亜樹」


其の一の三「蒼い眼と銀の髪の少女」


其の一の四「凍る世界」


其の一の五「遭遇」


「恋文助言師のおまけ語り」


其の二の一「桐」


其の二の二「箱庭」


其の二の三「想月下浮雲」


其の二の四「瑠璃色」


幕間「<院>」


「なべてこの世は」


其の三の一「悪化」


其の三の二「禁忌」


其の三の三「決断」


其の三の四「帰還」


「軸索丘にナトリウムチャネルは開く」


幕間「昔語り~御子河」


其の四の一「嵐の前の」


其の四の二「渡瀬武彦」


其の四の三「接触」


其の四の四「縛鎖解放」


其の四の五「水門大将」


「リィミア」


「抗えない」


其の五の一「グノスサイラス」


其の五の二「人を食った獣」


其の五の三「『龍声』」


其の五の四「別れ」


「最後の競合者」


「羅刹のごと・一」


「羅刹のごと・二」


「羅刹のごと・三」


「羅刹のごと・終」


其の六の一「凱」


其の六の二「二人」


其の六の三「剣狼」


其の六の四「再会」


「三者」


一次創作「彼の国の神語」


開幕


「時は過ぎ去れど」


「確かなる糸は切れず」


「移ろい行く世にも」


「想いは途切れず」


「忘れえぬ思い出を胸に」


「永き時を在り」


「願うはひとつ」


「この冷たい雨が」


「すべてを包んで白い雪に変わることを」


閉幕


一言


一次創作短編集


照陽の神語



最後の聖域


自慢を許してもらえますか


Morning Star


二次創作『永遠のアセリア』短編集


「その名は……」


「業火の中で」


「業火とともに」


100の質問への回答


「深き森」


それは(略)


他愛ない日常の


一次創作「此の国の神語」


始まり


六ツ護巫女


帰還


謎の如月家


夢に見る


イワちゃん



対極


その頃


水波


夕暮れ


幕間「洞穴にて」


天地院より


隠形


密呪


異邦


深月


鬼来たる


一条戻橋


愛宕山


雑密


強き者


蓮華


幕間「傘」


「お花畑」


一次創作「ラミナアーツ」


序章「されど終わりにはあらず」


第一話「結成」


第二話「三様」


第三話「ミストルテイン」


第四話「繊手」


第五話「用務員」


第六話「夜更けて」


第七話「闇」


第八話「複製品」


第九話「<影狼の牙>」


第十話「<光波の斧槍>」


第十一話「数比五十」


第十二話「<戦魔>惹起」


第十三話「時至る」


第十四話「第一階位」


第十五話「無二」


幕間「遣い手たち」


第十六話「五月」


第十七話「バトルフィールド」


第十八話「胎動」


第十九話「会場にて」


第二十話「一回戦」


第二十一話「二回戦」


第二十二話「刻限前一時間半」


第二十三話「清風」


第二十四話「刻限」


第二十五話「錯綜」


第二十六話「憎悪と嘲笑」


第二十七話「<魔具>」


第二十八話「帰結」


第二十九話「勝者」


幕間「紅い月」


第三十話「訪問者」


第三十一話「師弟の約束」


第三十二話「聞き込み」


第三十三話「記憶展開」


第三十四話「回想独白」


第三十五話「別離と邂逅」


第三十六話「偽り」


第三十七話「幻」


第三十八話「叶わぬ願い」


第三十九話「光」


第四十話「後始末」


第四十一話「赤光」


幕間「晃人」


第四十二話「海水浴・其の一」


第四十三話「海水浴・其の二」


第四十四話「海水浴・其の三」


第四十五話「祭」


第四十六話「蓮花と朱鷺子」


第四十七話「海浜夜稽古」


第四十八話「月酔」


第四十九話「人外魔境」


第五十話「連行の如く」


第五十一話「隠されるもの」


第五十二話「救援要請」


第五十三話「食い違い」


第五十四話「乱舞」


第五十五話「六年」


第五十六話「進行」


第五十七話「歌」


第五十八話「明日菜と宗一郎」


第五十九話「思いそれぞれ」


幕間「災厄」


第六十話「北斗来訪」


第六十一話「教え」


第六十二話「潜みしもの」


第六十三話「各々斯様に」


第六十四話「決闘」


第六十五話「夕映えの屋上」


第六十六話「刃」


第六十七話「<凌駕の剣>」


第六十八話「灯火」


第六十九話「約束」


第七十話「またいつか」


幕間「皇国」


第七十一話「リストリア」


第七十二話「観察」


第七十三話「言葉ならずとも」


第七十四話「未だ遠く」


第七十五話「幻の蝶の如くに」


第七十六話「それは何処かへと」


第七十七話「観覧車」


第七十八話「それは残酷なまでに」


幕間「皇国再び」


第七十九話「何故に」


第八十話「秋の大運動会もとい」


第八十一話「組み合わせ」


第八十二話「『雷』」


第八十三話「功刀大介」


第八十四話「因縁」


第八十五話「未だ知れず」


第八十六話「懸けるもの」


第八十七話「彼の人は」


第八十八話「その男、小寺官亮」


第八十九話「指摘」


第九十話「仮定」


第九十一話「自覚、そして察知」


第九十二話「<楽園>降臨」


第九十三話「推参」


第九十四話「<閃技・隼>」


第九十五話「連ね連なりて」


第九十六話「夢・現・幻」


第九十七話「生還」


第九十八話「契り」


幕間「厄災の刻来たりて」


第九十九話「戸惑い」


第百話「隣に立つために」


第百一話「告白」


第百二話「人質」


第百三話「真琴と紗矢香と」


第百四話「祝福」


第百五話「絶対と絶対の矛盾」


第百六話「居場所」


第百七話「彼方よりの手紙」


第百八話「愛」


第百九話「見えるもの」


幕間「前夜」


第百十話「出立」


第百十一話「<夢の庭>」


第百十二話「一丸」


第百十三話「朱鷺子」


第百十四話「崩壊」


第百十五話「宿敵」


第百十六話「宗一郎」


最終話「相棒」


終章「なれど始まりに過ぎず」


二行


灰白の魔神


「しのつく雨の街に降る」


其の一


其の二


其の三


其の四


其の五(前半)


其の五(後半)


其の六


其の七


其の八


其の九


「大黒一郎、十六歳の手記」


其の十


其の十一


其の十二


其の十三


其の十四


其の十五


其の十六


其の十七


其の十八


其の十九


其の二十


Jul 5, 2020
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<魔王>アズィカムーイヤーナとは最高位となる七柱の魔神の一角である。
 性は陽気で鷹揚、他者が己のために何かを捧げることをこの上なく好む。南米上空の<虚空宮殿>に座し、<魔人>騎士団を従えて一帯に君臨。日々を愉快に過ごし、時折出歩いては美少年を拐かして連れ帰る。
 <魔王>と名乗ってはいるものの、魔神の王であるわけではない。君臨すれども統治せず、楽しいことが好きで魔神好きで人間好きの放蕩魔神だ。
 そしてその絶大な力のうちに、代名詞とも呼べる術がある。
 『魔王領ドミニオン』と名付けられたそれは、周辺一帯を支配・掌握し、事象そのものを塗り替えて己の望む結果を献上させるという代物だ。
 そこに細かな理屈は存在しない。魔王の権力の下にすべてが平伏ひれふすというだけだ。
 もっとも、これはアズィカムーイヤーナにとってお遊びでしかない。万能以上全能未満である彼女であればもっと単純かつ確実に成し遂げることができるのに、献上という形式の欲しいがためにわざわざ不確かで効力の弱い手段を用いているに過ぎない。
 しかし同種のことを<魔人>が行えるとなると話は大きく変わってくる。
 <魔人>とは基本的に壊し潰ししかできない存在だ。工夫によってそれ以外もやってのける者はあるが、それでも何もかも自在というわけにはいかない。
 だが、鏡俊介はその自在を手に入れている。凌駕解放<僭神>ヤルダバオト。常に発動し続けているこれは、現実を書き換えて都合のいい結果を演出し続ける。
 たとえば、本来区別などできぬはずの存在を弁別する。
 たとえば、衆人の只中で殺しを行いながらそれを認識させない。
 たとえば、障害物を己にとってだけ存在しないことにする。
 当たるはずの刃を逸らし、外れたはずの刃で殺す。得手不得手などもはや無意味だ。速さが欲しいなら速くなり、膂力が欲しいなら怪力を手に入れる。
 無論のこと、限度はある。すべては<僭神>ヤルダバオトの効力を分配して行われている。その総量を超えることはできない。破る方法は存在する。
「でも結局、誰も斃せなかったっす」
 満天に瞬く星の下、着物姿の女が言う。口許に薄く浮かぶ笑みを、蠱惑的と見るか酷薄と見るか。
「そんな<赤旋風>を、できればここで始末しちゃって欲しいんですよ。これはあたしの一存ですけどね」
 郊外の寂しげなバス停。行き交う車も稀。夜目にも鮮やかな女だけが婀娜に、孤独に佇んでいる。
 だというのに女は呼びかけるのだ。
「さあ、返答やいかに?」
『僕が頼みを聞くことになっているのはステイシアからのものだけだ』
 声は女にだけ聞こえる。
 しかし女の背後、よく見れば何も見つけられないが、思考を止めて呆ければ、風に吹かれた水面みなもに細波立つように、揺らいではいまいか。
『そもそも、勝てるかはさて置くとしても殺し切れない。逃走に特化したときの<僭神>ヤルダバオトは僕の手品を容易く突破するだろう。<夢現世界・廃滅王宮>エフェメラルスフィア・モノクロームが要る』
「やはりそこですか」
 女は、ライラックは双眸を細く細く伏せる。
 鏡俊介は己の強さに何の矜持もない。というよりも、自分のことを強いとすら思っていない。害虫ライラがいるから駆除しなければと思っているだけなのだ。害虫駆除が人より上手いことなど、下らない特技でしかない。だから逃げることに何の躊躇もない。
 遠くから一切の遮蔽を無視して察知し、人混みの中でも気付かれることなく殺し、少しでも不利と見るや即座に逃亡して仕切り直す。決して捉えられない。
 そんな<赤旋風>に<奏者>プレイヤーという新たな呼び名を与えて象徴として祭り上げ、前線に出さなかったのは<竪琴ライラ>にとってもありがたいことではあった。
 しかしやはり、それ以上に<横笛フルート>にとっての都合が大きい。ライラックは光次郎に、どういうわけか、とは言ったが、むしろ碌に表に出てこなかった理由に心当たりがありすぎて説明が面倒なためオーチェに丸投げしただけである。
「<無価値ベリアル>の計算のうちなんでしょうねえ。だからこそ危険で邪魔な<赤旋風>を<横笛フルート>からこのタイミングで追い出した。放っておいても<竪琴ライラ>に対する辻斬りやってくれますし、追い出した以上は万が一やられてしまってもあまり士気低下に繋がりませんし。さて、どうしたもんですかねえ」
 背後を流し見る。口許にはからかうような笑み。
「本当に、殺し切れませんか?」
『凌駕解放を使えば話は別だが』
 返答はどこまでも淡々と。たとえ姿が見えていたとしても、言葉以上の意味は読み取れなかったろう。
 虚空に広がる僅かな波紋は、その向こう、深淵に棲まう怪物の息遣いを思わせる。
 名和雅年という男のことを、ライラックでさえ詳しくは聞かされていない。ただ、魔神ハシュメールにすら為せぬことを行うために探求を続けているのだとだけは知っている。
 この揺らぎの向こう側こそがその結晶であるのか、それは見通せるはずもないが、いずれにせよ結末は決まっている。魔神と<魔人>の間にある力の隔たりは、規模においても自在性においてもあまりに大き過ぎる。目的地へは決して辿り着けない。
 雅年自身もそれを知らぬはずはないのに惑いなく行い、今ライラックもその艶やかなくちびるの笑みを絶やさない。
「それは最後の最後になるまではやらせるなとの、我らがいと畏き肖りステイシア=エフェメラからのお達しっす。そうでなけりゃあ、<赤旋風>抹殺の指示は出てたんでしょうねえ」
『できれば早く本題に入ってくれ。依頼は別にあるだろう』
「そりゃそうっす。けど、本当にれないですねえ、雅年さんは」
 接触は必要最小限にすることとなっている。明確な通達があるからこそ、女は此処にある。
 秘密話に扇子が口許を隠す。
「<スィトリ>、いや、そのご本尊の<女衒スィトリ>の一人が来てましてね、まあ、始末したところですぐに補充されるだけなんですが、だからといって放置するわけにもいかない。打撃自体は与えられますしね」
 <闇鴉アンドラス>、<無価値ベリアル>の情報から間接的に、ステイシアは<金星結社パンデモニウム>の陣容をある程度掴んでいる。
 頭首である<明星ルシファー>の十二の翼に喩えられる幹部には、二つだけ複数の<魔人>で構成される席がある。その片割れが<スィトリ>を管理する<女衒スィトリ>だ。六名よりなり、<魔人>としての能力よりも組織運営能力によって選ばれる。
 とはいえ、そもそもが好き放題にやっている<金星結社パンデモニウム>であるから、結局は趣味のままに動いているのであるが。
 そしてライラックの口にした通り、六名いる<女衒スィトリ>が一人斃されたところで<スィトリ>が機能不全に陥ることはない。
 しかしそれは、<女衒スィトリ>を暗殺しただけならの話だ。
「そんなわけで、今回<スィトリ>の背後にいる<魔人>を徹底的に潰してもらいます。<女衒スィトリ>はそれほど戦闘に長けないのもあって護衛を何人も連れて来ているようですから、そいつらを一人残らず消すことになります」
『それだけで構わないのか?』
 波紋とともに冷徹な声。
「ええ、<スィトリ>の『可哀想な女の子』たちは別にいいですよ。それは人間の管轄っす」
 そもそも<スィトリ>がどのようにして勢力を拡大して来たのかといえば、『商品』を使って末端から徐々に国家の中枢に浸透し、流れを自分たちの有利に操ることで成した。本当の戦力はむしろただの人間でしかない存在だ。
 <女衒スィトリ>は護衛とともに、そのための娘たちも連れて来ているだろう。彼女たちは人間を守る<竪琴ライラ>の在り様を利用し、捕らえられたならば犠牲者として振る舞って逃れ、本来の目的を果たす。
 しかし、これは洋の東西を問わず昔から用いられてきた手段だ。隣国が、あるいは国内の誰かが、己に都合のよくなるように行う後ろ暗い干渉の手管である。だからこそこれを炙り出し、排除する機構もまた特別なものではない。
 <スィトリ>がヨーロッパで恐るべき存在となっているのは、競合相手や国家から伸びた手を<魔人>の暴力でもって打ち破ってしまえるからだ。
 だから<竪琴ライラ>は後ろ盾となっている<魔人>だけを片付ける。あとはこの国の司法や行政、警察組織の戦いである。
「人間の方はどうせ、とっくの昔に入り込んでるでしょうしね。今回やって来た娘さんたちなんて、防いだとこちらが勘違いしてくれれば御の字程度の見せ餌ですよ。折角だから逆利用したくもあるんですが、危険ではありますし、<竪琴ライラ>の領分を越えてしまいますからねえ」
 夜が静か過ぎる。艶のある女の声が響くのに、それは波紋の向こうにしか届かない。
 ライラックは広域を網羅し、人の意識にはたらきかけるある種の結界を張り巡らすことができる。
 『分からぬものを分からぬままに済ますことを是とする』だけのものであり、人を近寄らせぬようにする力があるわけではない。しかし異常を疑えなくなれば、着物の女が一人で何かを喋っていてもただの風景として流してしまう。ましてや時折その背後が揺れているように映ることなど。
 深い溜息。女のものだ。
「……本当に、なんとかなりませんかね? このままではオーチェがあまりにも」
 それは終わったはずの話である。
 そして返事はやはりにべもない。
『繰り返しになるが。僕に望まれている役割を崩さずに、あるいは周辺への被害も出さずに彼を屠るのは、手品が通じない以上ほぼ不可能だ。都合のいい偶然を期待するのは現実的ではないし、それ自体が罠である可能性もある。それに、気にしているのはオーチェのことではないだろう』
「……やれやれですねえ」
 再度の嘆息、笑みの混じる。
 ライラックは嘘をつく。泣き落としも色仕掛けもすれば、唐突な真顔で落としにかかることもある。全ては目的を果たすために。それが<隠密>という役柄である。
 不思議なものだとライラックは思う。<隠密>に好悪はない、そのようなものに惑わされることはない、そういうことになっている。そのはずがなぜか、<無尽城郭>の皆には愛着がある。無論、必要とあらばその死を許容はするが。
「ほんとう、憎らしいひと」
 それ以上の返事はない。もう後は、既に定まったことを行うだけだ。
「いいでしょう。これより神官様の御下命果たします」
 ゆるりゆるりと歩き出す。
 夜を行く女の姿は道なりに小さくなり、消えてゆく。
 残された揺らめきは消えたことすら分からぬ。
 星の瞬きだけが変わらずにあった。











 騒然としていた。
 飛び込んできたのは先日取り逃がした人売りが、この期に及んで少女を拐かしたという情報だ。密告が警察伝いにこちらまで来た。
 まさに話が終わったときに、オーチェとともにこれを耳にすることになった光次郎は飛び出していた。
 当然のことながら忘れるはずもない。鏡俊介の乱入によって逃してしまった相手だ。その後も、手を出してはならないという方針に従い、今に至る。
 オーチェの判断は結果的に妥当ではあったろう。<赤旋風>に近づけば、端から皆殺しとなっていたであろうことは想像に難くない。
 それでも忸怩たる思いは残る。剣豪派は強さに依る者だ。刃の鋭さで切り開いてゆく者だ。燻る思いは強い。
 かの人売り、烈火を追うべきではない。傍に鏡俊介のあるならば、死にに行くようなものだ。
 外に出る。もう稲も刈られ、藁とともに乾いた田の中にぽつりと立つビル。学生を支援する財団としての表の顔が用いる本拠は本来の顔の本拠へと繋がる場所でもある。
「初瀬さん!?」
 そこで、ちょうど駆け込もうとしていた小早川玲奈と出くわした。
 既に話を聞きつけて、詳しいところを確認にでも来たのだろう。怜悧な面立ちにも熱が乗っている。
「行くつもりか?」
「はい。私は一足先に辿り着きましたが、素也さんたちもすぐに来るはずです」
 それは財団派のエースとして当たり前の返事だった。これまで遠巻きにされていた烈火と謎の<魔人>に対応するならば彼女たちであるべきと期待され、彼女たちも応えようとする。
 だから言わなければならなかった。
「思い人を死なせたくないなら止めろ。みっともなく泣き叫んででも行かせるな」
「何を馬鹿なことを……」
「お前らでは相性が悪すぎる。機転も戦術も糞もない。その前にお陀仏だ」
 鏡俊介がどのような存在であるのかを知った今、ただの勘ではなく結末を確信できる。
 <三剣使いトライアド>たちは、まず玲奈が情報をまとめ、高原清香が作戦を構築し、時には無謀にも思えるそれへと刑部綾が先陣を切る。敵を見極め、最も有効である一振りを最上素也が<抜剣>、残る二人は時間稼ぎとサポートを行う。
 しかしこんなものは遅すぎる。下手をすれば感知範囲に入った瞬間、何もさせてもらえずに四人ともが首を刎ねられていてもおかしくない。それが鏡俊介なのだ。
「俺もさっき知ったばかりだが、敵をオーチェに聞いてこい。納得できるはずだ」
 警告に籠った鋭さに気づいたのだろう、玲奈が息を呑んだ。
 だが、すぐに問うて来た。
「そう言うあなたは行くのですか?」
「俺以上の適役は今の財団派にいない」
 光次郎にとっても、行くべき相手ではない。
 それでも行く。明らかな犠牲が出ようとしているのに引きこもって何の<竪琴ライラ>か。
「私たちのことは止めておいてですか?」
 玲奈の非難の口調は決して反発心の類から出たものではない。追い詰められてもまだ冷静なのだ。こちらのことを気遣っている。
 光次郎は牙を覗かせた。
「舐めんじゃねえぞ、こちとら剣豪派序列三位<大典太光世>だ。お前らとは格が違う」
「嘘ですね。あなた独りでは足りないのでしょう?」
「アホが。自分の望みを間違えるな。誰が一番大切なのかを思い出せ」
 玲奈を押しのけ、再び歩を進める。
 勝ち目は薄いが、自分ならば皆無ではない。足場が糸の如くであったとしても勝利への道はある。
 玲奈が追って来ることはなかった。どのような結論を出すかは分からないが、<赤旋風>のことを聞いてなお戦うというならば彼女たちの自由であるし、それで命を落としたとしても詮無いことだ。
 格上と殺し合うのだ。この手に握れるのは刃と己の命が精々である。
 鼓動が跳ねる。
 意識が余剰物を排除してゆく。
 あと三歩だけ歩み、初瀬光次郎は全力で地を蹴った。






Last updated  Jul 5, 2020 05:44:27 PM
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