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ごった煮底辺生活記(凍結中

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バトルラケッター 05

バトルラケッター 05

第4章 「魔道士 ラーソーサ・ドイルド」

 沢が相原を抱いて控え室に戻ると、大男が手を差し延べた。
 ゲルフに負けない肉体と、頭の羽飾り、革のズボン。
 広大なアメリカ大陸で生きてきた古いネイティブアメリカンの血を引く、
バドラス・パオルだ。
 茶褐色の肌に作られたりりしい戦士の顔をしていた。
「オレ、その女、運ぶ」
 沢はバドラスの腕に相原を乗せると、
「ありがとう」
 と頭を下げた。
 バドラスの剛腕は黒革のベンチに相原を、そっと寝かせた。
「この女、戦士だった。だからオレ運んだ」
 バドラスの言葉は沢の涙腺を刺激した。
 彼女を--戦士と呼んでくれたのだ。
 誇り高き戦士が。

 ベンチの上に横たわる相原に、まだ意識は戻っていない。
 打ち所が悪かったのか。
 心配そうに見守る沢とバドラスの横に、黒いケープが割り込んだ。
 白髪の頭にしわだらけの顔、顎から伸びた白髭。
 その右手には木製の杖が握られている。
 魔道士 ラーソーサ・ドイルドだった。
「ホッホッホ~。どれ、わしに見せてみい~」
 ラーソーサは相原の体をしばらく眺めていたが、
「ふむ」
 と杖を相原の眉間にあて、
「ほい」
 と軽く叩いた。
 ポコン。
 なんと、それだけで相原の目が開いたではないか!
「きゃ~~! すごい、すごいわ! おじいさん!!」
 目の前で起きた奇跡に、思わず沢は魔道士に抱きついた。
 ラーソーサは顔を赤くしながら、
「ま~よかったの~」
 魔道士は素直な感情のまま行動する沢を見て、やさしく微笑むのだった。

 その時、放送が入った。
 今度は誰と、誰が闘うのか。

「第3試合はバドラス・パオルVSラーソーサ・ドイルドです」

 沢はラーソーサから離れた。
 この老人の雰囲気が豹変したからだった。
 誇り高きネイティブアメリカンと、偉大な魔道士の間に目に見えぬ火花が
スパークしていたのだった。

 沢は控え室のテレビを見つめていた。
 その横には相原もいた。
 第3試合はすでに始まっていた。
 バドラスは巨大な弓使いであった。
 なんと、5本の矢を同時発射する技を持っていたのだ。
 ラーソーサが勝つには接近戦しかないと思われた。
 だが、老人にそれを望むのは不可能な話だ。
 だから、バドラスの圧勝...のはずだった。
 が、5本の矢はラーソーサに届かなかったのである。
 ラーソーサに当たる瞬間、矢は消滅。
 そして--矢は--バドラスの背後に出現したのだ!
 バドラスは自分の矢を背中に受け、コートに沈んだ。

 沢はバドラスをベンチへと運んだ。
 相原の時の恩返しでもあった。
 彼はけして弱くはない。
 弓矢5本同時打ちは、沢さえも戦慄を覚える脅威の技だった。
 その彼が、手も足も出なかった...。
 恐るべきは魔道士、という事。

「続けて、第4試合を行います。ラーソーサ・ドイルドVS白金 沢!!」

 沢は控え室の奥で汗をふく老人を見た。
「あたしは、この老人に勝てるのかしら...」

 コートに囲いが降り、外界から隔離された。
 目前に魔道士が、ラーソーサが立っている。
 唯一の救いはラーソーサは支給された一切の装備をしていない事だ。
 強化服も、パワーグローブもしていない。
 沢としてはそこを突くしかなかった。

 コート中央にボールが出現した。
 試合開始だ。

「先手必勝!」

 沢はコートの中央にダッシュした。
 そのはずであった。
「なっ!?」
 コート中央が遠い!!
 いくら走ってもたどりつけない!!
 遥か遠いコートの先で、ラーソーサの笑い顔が見えた。

「...!」
 沢は走るのを止めた。
「行けないんなら、行かないわ」

 ラーソーサは苦笑した。
「なら、来るな」
 言葉と同時に杖を振った。
 その動作は1、2メートル離れたボールに影響をあたえた。
 なんと、ボールが見えない何かに弾かれ、沢に向け走ったのだ!
 閃光のごとく走るボールは原子力ラケットで打たれた威力と変わらない迫力だった。

「なんと!」
 沢は手にしたラケットで、ボールを打ち返そうとした。
 が、なんだ!?
 沢の周りはコートではなく、炎燃え盛る地獄と化していた。
 ラケットを持った右手に激痛が走った。
 右手が...炎の中から現れた異形の怪物に、肘から食いちぎられたのである!
「ぐっ...」
 ラケットを失った沢はもうボールを受けられない!

 鈍い音と共にボールの直撃を受け、沢はゆっくりコートに崩れ落ちた。


「沢さん!!」
 控え室で見守る相原が叫んだ。
 沢がいきなりしゃがみこんで苦しみだし、ボールの直撃を避けようともせずに、
直撃を受けてしまったように見えたのだ。
 そして、そのまま沢はコートに倒れたのだ。
「そんな、沢さんが...?」
「幻術か...」
 相原の背後で黒装束の男、伊賀が言った。
「そうだな、しかし、あの魔道士--やるなあ」
 もう一人、金髪が美男子、シャラルド・ゲーラーであった。
 彼はバトル・ラケッター連続優勝記録者で、現在もその記録は続行されている。
 ただ今、8連続優勝中であった。


 魔道士はピクリとも動かない沢を見て、床を杖で叩いた。
 乾いた音がした。
「本当の炎で焼いてもよかったが--それでは可愛そうじゃからな」

 魔道士は沢に徐々に近付いていった。
 その顔には勝利の笑顔があった。
 その顔が歪むとは!
 沢がいきなり立ち上がったのである!

「待ってたわよ、おじいさん!!」
 言うなり、口から白い線が走った!
 それは魔道士の顔の寸前で見えない壁に当たって砕けた。
「歯!?」
「そのとーりっ!!」
 沢は...いつのまにか、ラーソーサの背後にまわっていた。

「かあっ!」
 魔道士が気合と叫んだその瞬間、沢は魔道士の首に痛烈な手刀の一撃を入れていた。

 空気がはじける音がして、沢の身体はコートの壁まで弾き飛ばされた。
 魔道士はその身体から衝撃波を発したのだ。

 なんとか受身をとっていた沢は愕然とした。

 魔道士の身体から発せられた衝撃波を食らう前に、一撃入れたはずである。
 だが、ラーソーサは立っていたのだ。
 こちらにゆっくりと振り返ると...魔道士は笑った。

「ホッホッホ~。歯を噛み折って幻覚から覚めたのかい?
 女の子は自分の体をもっと、大切にせにゃあいかんよ...」

 魔道士はゆっくりとコートに崩れた。
 そして、そのまま動かなくなった。

 首筋への一撃の効果であろうか?

 なんにせよ、この試合は沢の勝利であった。

 沢はゆくっり立ち上げると、微動だにせぬ魔道士に、深く頭を下げた。

--06へ続く


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