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ねぎとろ丼

ねぎとろ丼

仕方なくだと、自分に言い聞かせて

※このSS作品にはキャラがキャラを虐げるシーンが含まれております。
 内容的には全年齢対象だと思いますが、そういうものが苦手な者はお戻りを。



























   『仕方なくだと、自分に言い聞かせて』


 ある暖かい日の白玉楼。
 相変わらず幽々子様の我侭に振り回されるわたし、魂魄妖夢。
 今日はいつものと違い、ここを訪れる客が現れた。
 たまに遊びに来くる博麗の紅白、霊夢だった。
「あら霊夢。珍しいわねえ」
 幽々子様は珍客に喜んでいらっしゃるご様子。なにより、霊夢の手土産を気にされていた。
「たまには様子を見てみようと思ってね。これ、魔理沙にもらった水羊羹だけど、どうかしら?」
「気が利くじゃない。妖夢、すぐに切ってきなさい」
「かしこまりました」
 霊夢にお茶だけ先に入れると、台所で切り分けてお茶請けをお出した。
「ううん、幽霊で冷やすと美味しい温度」
「幽々子様、そんなので冷やさないでくださいっ」
「いやいや妖夢。あなたも食べてみればわかるわ」
 口に押し込まれ、いやいや運んでくださった水羊羹を頂く。確かに冷たい水羊羹は美味しい。
「さすがにそんな食べ方、わたしには真似できないわ」
 霊夢は幽々子様に差し出された水羊羹を食べようとはしなかった。
 そしてご自分のを食べつくしたのか、わたしの羊羹にまで幽々子様の楊枝が飛んできた。
「幽々子様~、まだわたし一口しか食べてないんですから取らないでくださいよ~」
「一口食べたんだからいいじゃない。大事なのは味を楽しむ瞬間よ」
 などと仰いながら、わたしのお皿からはどんどん羊羹は消えていった。
「一番多く食べていらっしゃる幽々子様が、その瞬間を一人占めしようとしてるじゃないですか!」
「そんなことはないわ。霊夢のは取ってないわよ」
「そういう問題じゃありません!」
「まあまあ、喧嘩しないようにね」
 霊夢は観客といわんばかりに、しっかり自分の分をキープ。ひどいものである。しくしく。
 お腹をふくらませて満足なさった幽々子様は、霊夢と弾幕ごっこをされた。
 わたしは流れ弾で庭木が倒れないか、心配するばかりである。
 その心配はいとも簡単に実現化されてしまって。
 霊夢が帰ると、幽々子様はにっこりと笑って部屋に戻られた。
 結局おやつをほとんど食べることができず、腹を空かせて荒れた庭の片付けをする羽目なのである。しくしく。
 いつものように、笑顔で酷いことを申し付けなさる幽々子様である。
 でもこれがいつものわたしと幽々子様。わたしは主従の、後者なのだから。
 わたしが幽々子様に口答えし、まして何か強要するなんて愚の骨頂というもの。
 しかしいつからだろうか。それが過去のものになったのは。



 それはわたしの過ちから始まった。
 ある、蒸し暑い日のこと。
 わたしが幽々子様の大切な扇子の一つを手荒に扱ってしまい、傷をつけてしまったことであった。
 わたしは酷く怒られた。当然のことである。
 扇子のことだけでなく、今まで積もり積もった小さなミスについても言及された。
 頭に血を上らせて、逆上した幽々子様の毒舌たるや今までのお叱りとは比べ物にならないほど。
 終いには、ここから出て行けとまで仰られたものだった。
 そのときわたしはあろうことか、主に反抗した。言い訳のような、口答え。
 調子付いたわたしは、幽々子様に対する不満を次々に吐き出した。
 この行為自体が間違いであったが、このことから幽々子様が少しおかしくなったのである。
 散々好きなことを吐き散らし、頭の冷えたわたしはすぐに謝罪した。従者のくせに、主に逆らうという大罪を犯したのだから。
 それでも許されないと思った。怒る幽々子様に反逆したものだから、今すぐ切腹を迫られてもおかしくはないと思った。
 だが、幽々子様の反応は違った。
 わたしに悪口を言われ、それを聞いた幽々子様はいやらしい笑顔でお返しなさった。
 御身を震わせて、息を荒げる幽々子様。もっと、と幽々子様は催促なさった。
 あまりのお怒りに、気を狂わせてしまったのかと思った。
 平謝りするしかできなかった。
 幽々子様はそんなことをお構いなしに、懇願される。わたしに罵られることを。
 いつしか幽々子様は頭を下げ始めた。わたしを苛めて欲しいと仰った。
 わたしは怖くなって、その場を逃げた。

 その日の晩。わたしは幽々子様の部屋に行き、改めて謝罪した。
 冷静さを取り戻した幽々子様はわたしに罰を与えることで、扇子の件を許してくださると仰った。
 その罰とは、もう一度わたしが幽々子様を罵倒することであった。
 確かにその罰は受け入れることが難しく、罰と呼ぶに相応しかった。
 が、常識を考えればおかしいことだ。これでは幽々子様はただの変態ではないか。
 幽々子様はその主張を変えてはくださらなかった。
 恐れ多くてできないというのに。もう一度わたしから毒を吐きかけるなんて。
 思えば、そのときのわたしもおかしかったと思う。どこか壊れてしまったんだと思う。
 後ろめたい気持ちがあったのに、わたしは幽々子様が望むならばと、悪口を漏らしてしまったのだ。 
 いつも大食でお腹一杯食べて羨ましいですね。
 ご自身で荒らしておきながらわたしに後片付けさせるなんて、たまにはこっちの苦労も考えてください。
 お暇があればわたしをおもちゃにするんですか。いい加減にしてください。
 大体幽々子様は──。
 ここまで言って、わたしは我に帰った。
 幽々子様はというと、打ちひしがれて自身を抱きかかえ、快感にこらえていらした。
 汗をたらし、痙攣する幽々子様のお姿に官能的な魅力を感じた。
 わたしの精神的虐待に、快感を覚えてしまった幽々子様。
 後ろめたい気持ちがあるはずなのに、その行為に興奮を感じてしまったわたし。
 きっとこのときから、わたしと幽々子様はおかしくなったんだと思う。



 以来、就寝する前に幽々子様自らわたしの部屋を訪れ、しばしばわたしに加虐を求めてこられるようになった。
 そして今日も。幽々子様は正座するわたしの前で頭を下げ、わたしに苛めてくださいと願い申された。
 今この瞬間、主従が逆転。わたしが主。
 幽々子様、いや幽々子が従者。
 幽々子がわたしのおもちゃ。わたしのいいなり。
「妖夢様、妖夢様。今夜もなんなりと、お申し付けください。お願い致します」
 土下座し、責め苦を切望する幽々子。わたしは幽々子の姿勢よく平たくなった背中に、足を勢いよく乗せた。
 その勢いに軽く咳き込む幽々子。満足そうである。
「その姿勢いいですね。いい足置き台になります」
「妖夢様がお幸せなら、わたしも大満足です」
「あなたは痛めつけられることが幸せなんでしょう?」
「その通りに……」
 幽々子の言葉を最後まで聞かず、もう一方の足も乗せた。
「わたしの、背中の心地はいかがですか?」
「そうね。悪くは無いわ」
「ありがとうございます……」
 うん。これだけではやはりおもしろくない。
「幽々子」
「はい、妖夢様」
「ほら。あなたの背中で足が汚れたわ」
「はい。申し訳ございません……」
「何をすればいいか、わかるわよね?」
「はい……仰らなくとも……」
 憂いを浮かべたお美しい幽々子のお顔が、軽く歪む。そして微笑み。
 次に、幽々子は差し出したわたしの足を舐め始めた。
「わたしのお味はどう?」
「はい、それはもう蜂蜜のように甘美なるものに御座います」
「そう、わたしも幽々子が小汚い足を舐めている姿を見ると楽しめるわ」
 ああ。なんということでしょう。
 わたしが従うべき主人が。
 わたしのような半端者の踏み台にされて。
 あまつさえわたしの足に舌で愛撫するよう強要させるなんて。
 わたしは何と罪深き従者か。
 でもこれは幽々子様の頼み。仕方なくやっていること。
 そう。そのはず。
 それでも、わたしの仕打ちに肩を震わせる幽々子様が愛くるしくて堪らない。
 吐息を白くし、涎を垂らしながらわたしの足を丁寧に舐め回す幽々子様がいやらしくて仕方がない。
 わたしの良いように踊らされる幽々子様のお姿が、もっと見たい。
 やはりわたしはあのときからおかしくなったんだ。
 加虐の快感を知ってしまったあの日から。
 わたしは幽々子から足を引き、少し待てと命令した。
 食料保存庫の片隅に置いておいた、今日霊夢からもらった水羊羹の残り。
 それを持ってわたしの部屋へ戻る。
「妖夢様……何をなさるおつもりですか……」
 まださきほどの余韻が残っているのか、幽々子の呼吸は荒い。
「幽々子。この水羊羹、すごく好きよね? この甘くて、しっとりした食感」
「はい。大好きです」
「今からわたしがこれを味わうから、その後のものを食べて御覧なさい」
「え、ええ!」
 思ってた以上に驚く幽々子。わたしが目の前で美味しそうに食べるとでも思ったのだろうか。
 さすがにわたしだけ食べるというのは、あまりにも惨い仕打ち。
 やはり主人だけが味わうのではなく、従者にも味合わせてあげる権利はあるものだと主張したい。
 だから、わたしは咀嚼したものを与えることにしたのだ。
 幽々子の見ている前で、水羊羹を一口かじる。
 控えた甘さを感じて、唾液と混ぜ合わせて。
 十分に噛み砕き、味わう。
 行儀良く待っている幽々子に、目を瞑るよう言った。
 わたしは幽々子を抱き、口付け。そして口移しで砕いた羊羹を流し込んだ。
「んんん!」
 突然のことに少し暴れる幽々子。しっかりと抱きしめて、なだめる。
 幽々子の吐息を口移しで感じる。お互い、舌を絡めあって口内で相手を認識する。
 何度も。自分の咀嚼したものを相手に分け与えて。
 そして、飲み込んだ。そっと、口を離す。
「あ……妖夢様……」
「味はいかがだったかしら?」
「その、美味しかったです……」
「わたしが噛み砕いた、人様が口にしたものが?」
「妖夢様のものですから……美味にございました」
「そう……」
 呟いて、今夜はここまでにしましょうと提案。幽々子様は了承された。
 幽々子様の被服を整えさせていただいて、わたしは何も言わず土下座した。
「顔を上げなさい妖夢。わたしが望んだのよ」
「しかし……この後ろめたい気持ち、どうしても拭いきれません」
「妖夢」
「はい」
「わたしは楽しませてもらったわ。あなたは?」
「……楽しませて、頂きました」
「素直でよろしい。それじゃあお休み」
「お休みなさいませ」
 扇子で火照った体を冷ましながら、幽々子様は退出された。
 幽々子様の背にわたしの足を置いた感触。
 幽々子様が舌でお触れになったわたしの足。
 幽々子様と口付けした、唇の温もり。
 その全てを思い出して、わたしはもう一度悦に浸る。
 してはいけないと知って。罪だとわかっていながらも。
 幽々子様がわたしなんかに足蹴にされる様を妄想して、喜ぶわたしがいる。
 さて、今度はどのように楽しめばいいだろう。
 どの様な痛めつけが幽々子様を喜ばせることに繋がるだろう。
 どうすれば、幽々子様を被虐の最たる快感に運んで差し上げることができるだろう。
 如何なる方法を用いれば、わたしは加虐者として最高の悦楽を味わうことが出来るのだろう。

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