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ねぎとろ丼

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美鈴元人間説

  『美鈴元人間説』

 美鈴は東の地の某国に住む、一人の少女だった。
 両親に可愛がられながら、武道に励む女の子。どこにでも、元気な子供。
 やがて成長し、武道を教わるものから教える者へ。そんな時、両親が出先で何者かに襲われる。
 家に帰ってこない両親を心配した美鈴は探しに出る。
 町の一角に人だかりが出来ているのを見つけた。
 気になってみたところ、両親が血を流して倒れていたのだ。二人とも酷い有様であった。
 両親は妖怪に襲われたと言い、美鈴に「一人でも幸せにね」と言い残して絶命してしまう。
 美鈴は両親を殺めた妖怪に復讐することを決意。
 そのためには、禁じ手とされた技すら使うと心に刻む。
 血を吐くような、苦しい修行を積み重ねる美鈴。
 それは武道の試合にも影響が出、対戦相手を怪我させることもしばしばあった。
 ある晩、美鈴が妖怪を探しているときにその妖怪と遭遇。が、あっけなく敗れる。
 それでも一矢報いた美鈴。妖怪は逃げ去り、死を免れた。
 復讐の炎は揺らがない。美鈴はさらなる修練を積み、今度こそと意気込んだ。
 ある暖かい昼時。武道の稽古中に、悲劇が起きた。美鈴が門下生を、過って殺害してしまったのだ。
 門下生と組み手をしている最中、禁じ手を使ってしまったのだ。
 町の人々から誹謗中傷の嵐。
 美鈴を慕っていた門下生は皆居なくなり、小さい頃から慕っている師範から破門を食らう美鈴。


 やがて美鈴は人里離れた場所へ移り住んだ。
 そこで修行を続け、一日も早く復讐を遂げると再び誓う。
 町の方では妖怪による被害が増えるばかりであった。
 ある暑い夜。美鈴は町に入り、妖怪を待ち構えた。暫くして、悲鳴が町中に響く。
 美鈴が駆けつけると、町の人が妖怪に襲われている最中であった。
 襲われた人は美鈴を一目見て、息絶える。
 美鈴は怒り、妖怪に立ち向かった。死に物狂いで妖怪へ食って掛かる。
 妖怪は負けた。美鈴が放った、気孔の術で跡形もなく消し去られた妖怪。
 その後人がたくさん来た。死体と美鈴を見た者達は何を勘違いしたのか、美鈴に人殺しと叫んだ。
 美鈴は必死に説明する。これは妖怪がやったこと。そしてその妖怪は、私が殺したと。
 されど妖怪の死体は残っていない。
 美鈴の言葉を証明する手立てはなく、美鈴は再び殺人の罪を被ることとなった。
 理不尽な社会に、美鈴は納得がいかなかった。
 美鈴は再び怒った。濡れ衣だと主張しても、聞く耳を持たない町の人間達に。
 美鈴はその場にいる人間達を皆殺しにした。
 町の人々は逃げ惑い、騒ぎたて、混乱が巻き起こった。
 かつての門下生だった者達が美鈴と止めようと立ち向かうが、全て返り討ちに。
 やがて美鈴自身の師範であった武芸者も現れたが、あっけなく倒す。
 そのとき、お腹を空かせていた美鈴は何を思ったか、人肉にかぶりついた。
 もう美鈴は人間ではない。妖怪に復讐しようと燃える一人の武道家ではない。
 人を襲い、食料を得ようとする妖怪になったのだ。


 やがて美鈴は町を離れ、土地を出、自分のように人間離れしてしまった者達が集まる地を目指した。
 それは幻想郷。人と獣、妖怪、神々が住まう世界。
 美鈴はすぐにその世界へ適応した。幻想郷に住まう者達からも気にされる存在となった。
 天国に行った両親に対して申し訳ない気持ちを抱きながら、毎日を細々と過した。
 ある寒い夜。人間を襲おうとしていた美鈴が、空を飛ぶ一人の妖怪に興味を沸かせた。
 美鈴は全力で突っかかるも、あっけなく敗北。その者は美鈴よりもずっと幼く見えた。
 そして美鈴を負かせた者は蝙蝠の様な翼を生やした、吸血鬼の種族であった。
 吸血鬼は、レミリア・スカーレットと名乗りでた。
 死を覚悟した美鈴に、吸血鬼がある提案をした。 

「あなたの腕を買いたいの。私の住む城の門番をして欲しい」

 食事の支給をしてもらえる条件と、断れば殺されるのだろうと思った美鈴はこの提案を了承した。
 夜の王に跪き、小さい手を取って紅魔館へ招待されていった美鈴。
 その日から、美鈴は門番として生きる道を選んだ。
 美鈴が吸血鬼の願いを聞き入れた本当の理由は、違うものだった。
 妖怪に愛する両親の命を奪われ、復讐を果たしたと思ったら濡れ衣を着せられ、人しての生を終えた。
 今、日々鍛錬に明け暮れ、肉親の寵愛を受けて育った日々のような楽しさはない。
 三大要求を満たすだけの、無感情な生活。虚しいだけの毎日に、美鈴は嫌気が差していたのだ。
 そこへ自分を必要としてくれる者が現れたのだ。嬉しさのあまり、美鈴は目を赤くして泣いたという。

 さて、美鈴はどうなったか。彼女は毎日適度に仕事へ励んでいるそうな。
 仕えているレミリアの従者とは仲良くなり、本読みの魔法使いから役立たずと罵られ日々。
 レミリアに対しては畏怖の念を抱き、その妹とはよく遊ぶ仲。そんな運命。
 ある暖かい日。美鈴とレミリアが二人並んでお茶を飲んでいるときがあった。
 いつも引き連れている従者は、今お出かけ中。
 久々の二人きりね、と呟いたレミリアに美鈴は微笑んだ。
 お茶を啜り、美鈴はある話を始める。

「私、実は人間だったんですよ」

 今、美鈴は幸せである。

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