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ねぎとろ丼

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門番の暇潰し

※この作品は『某国上海娘』の後日談の様なものになっています。そちらの方を先に読んで頂けると、より楽しめるかもしれません。
 百合成分が多分に含まれているものなので、シチュエーションや百合そのものを楽しみたいだけな方なら何の問題もありません。

   『門番の暇潰し』

 よく晴れた日のこと。私紅美鈴は午後の勤務に勤しんでいた。いや、正確に言えば勤しんでいる振り。
 一人ぐらいは客が訪れると思っていたのに誰も来ないのだ。つまりは暇。
 そういうわけで私は今暇潰しを考えている。最近のお気に入りは脳内でお嬢様とベッドの上で戯れること。
 シルクのベッドシーツを握り締め、頬を赤く染めて息を荒げるお嬢様。私はそっと近寄って口づけの奉仕。
 お嬢様が瞳を潤ませているのならそれは満足なさっている合図。耳たぶを甘噛みし、刺激を与えて差し上げる。
 喘ぎを漏らすお嬢様。淡い桃色のドレスが汗で蒸れてしまい、華奢なボディラインが透けて見える様に。
 その光景により興奮してしまい、お嬢様へ襲いかかる。
 そして私はお嬢様の唇を寄せて口付けをする。
 私みたいな門番がお嬢様に手を出すなんてと遠慮する気持ちと、こんなにも美しいお嬢様と肌を重ねたいという欲望と遠慮の狭間で愛情たっぷりの口付けをする。
 そしてついにはお互いの舌を……。
「何やっているの?」
 誰かから声がかかった。妄想はここで終わり。私に声をかけた者はお嬢様専属の召し使いである、十六夜咲夜さんであった。
 投げやりな感じで注意してきた咲夜さんはどこか疲れているような表情。
「いえ、別に。ボーっとしていただけよ」
「そう。誰も来ないからって居眠りは無しよ」
「ばっちりよ。こんなにも暖かい日だから、布団は要らない」
「そんなに眠たいというのなら、眠気が吹き飛ぶようなことをしてあげるわよ?」
「それには及ばないわ。あなたと話して気合が入ったから大丈夫」
 後ろ手でナイフを握り締めている。さすがの私も冗談が言えなくなった。
 話をしながら凶器をちらつかせるは卑怯だと思う。
「パチュリー様に言われたから、香霖堂まで出かけてくるわ。門番頼んだわよ」
「任せておきなさいよ。害虫すらこの門から通したことはないんだから」
「そう? 本の蟲に泣いているパチュリー様はどうなるの?」
「中から湧く蟲は守備範囲外ってこと」
 急用を頼まれて不服そうな咲夜さんは里の方へ飛んで行った。しめしめ、また時間潰しすることが出来る。
 あまりにすることがないので、いっそのこと名の通った凶悪な妖怪でも攻めて来ればいいのにと思った。
 館の方から声をかけられる。妖精メイドが休憩にお茶でも、と誘ってきたのだ。
 喜んで中へ入り、三時のお茶を頂くことにした。

 お嬢様ご用達な紅茶ではなく、冷たく冷えた麦茶を妖精メイドに頼んだ。
 たまには一気飲みして喉越しを味わえるものも飲みたいから。
 お代わりをお願いし、先程の妄想が現実になればいいのに……等といけないことを考える。
 だがもしお嬢様とベッドをご一緒させていただけるようになるのなら、私はお嬢様に口付けしたい。
 畏怖の対象であると同時に、こんな私を拾ってくださってありがとうという愛情の気持ちもあるから。
 肉欲を刺激するという形でのご奉仕は不潔かもしれないが、自分に出来ることなんてそれぐらいだ。
 血を提供することがお嬢様にとって一番喜んで頂けるのかもしれないが。
 ここまで来るとお嬢様そのものが愛らしくなってくる。恋心でも抱いてるような感じ。
 お嬢様のお手を二度と離さない気持ちで握り締めてみたい。
 強大な力に反比例した小さい体をこの手腕でしっかり抱きしめてみたい。
 いっそのことお嬢様のものになりたい。お嬢様のお部屋をお守りする門番だ。
 門番というよりも扉の番人と呼んだ方が正しいか。
 ともかく、お嬢様が愛くるしくてたまらないのだ。

 夜。昼の番が終わって晩餐の時間。風呂を済ませた私は食卓へ着いた。
 咲夜さんが帰ってきたのは食事が始まる直前であった。
 頼まれた用事はすぐに済んだものの、帰る途中に花の妖怪に襲われたそうだ。
 それを返り討ちにしたものの、しつこく追いかけてくる花妖怪を撒くのに時間を食ってしまって今に至るという。
 パチュリーさんに頼まれたものは外の世界の本だそうだが、その本一冊のために体力を使い果たしたみたいで心底疲れた表情であった。
 が、食事のときには顔色が少し良くなっていた。時間を止めて一人休憩でもしていたのだろうか。
 お嬢様が欠伸をしながら食卓に登場。お嬢様は吸血鬼なので、今から食べる食事は夕食ではなく、朝食という扱いなのだろう。
 紅魔館の住民が揃い、晩餐は始まった。
 お嬢様はどこか具合が悪いのか、顔色が悪そうだった。咲夜さんがそのことについて窺っている様だが、お嬢様は生返事。
 お嬢様の体を心配した咲夜さんはお嬢様をお連れして食卓を後にした。
 スープの一口も飲んでいない所を見ると、相当体の具合がよくないのだろう。
 残されたパチュリーさんと妹様、私の三人で静かに夕食を終えた。
 妹様とパチュリーさんもお嬢様の体が心配な様子で、お嬢様のお部屋へ行った。
 私も当然気になるので付いて行く。お嬢様の部屋へ着くと咲夜さんが部屋から出てきたところであった。
「あらあら、お嬢様が気になったんですか? お嬢様なら単なる気疲れみたいですから、大丈夫みたいですよ」
 咲夜さんの言葉を聞いた妹様とパチュリーさんはため息をついて地下の方へ戻っていった。
「美鈴まで見に来たの? ふふ、大丈夫よ」
「じゃあ、私も休ませてもらいます」
「ええ、おやすみ」
 咲夜さんがお嬢様の部屋へ入っていった。きっとつきっきりで看病するつもりなのだろう。
 寝る前にお嬢様のお顔を拝みたいと思うも、咲夜さんがついているというのならやめておこう。二人の邪魔はできない。
 寂しさを堪え、私は自室へ戻ることにした。暗い廊下を歩いていく。
 内装の紅色と夜の黒色が混ざり合って血が塗りたくられた様に見える、暗黒の道を歩いていく。
 そのうちお嬢様に恋焦がれていた自分が馬鹿らしく思えてきた。
 病人に興奮して、病人であるお嬢様からすれば迷惑以外の何者でもないではないか。
 そもそも農業で生活を成り立たせるような田舎を出て育った田舎娘な私が、高貴な吸血鬼と一緒になりたいと考えること自体がおこがましいと思えるようになった。
 私がまだ幼かった頃からあの方はカリスマ性のある上品な妖怪として名を響かせていたであろう。
 家族と仲良く暮らしていたあの時、お嬢様は人間を襲って夜の街を恐怖で支配していたに違いない。
 冬の寒さに凍えながら父と母に寄り添っていた頃、あの方はストーブで暖を取って幽雅にお茶を楽しんでいたという光景が目に浮かぶ。
 穀物を齧って飢えを凌いでいた頃、あの方はメイドに給仕される豪勢な食事を取っていたのだろう。
 やはり駄目だ。私とお嬢様とではどう考えても釣り合わない。お嬢様と同じ寝床へ、なんてやはり夢であったのだ。
 今日は疲れているのかもしれない。一人で勝手に気分を浮かせたり沈めたりして、何をしているのだろう。
 どうせお嬢様と一緒になるなんて妄想なんだ。頭の中でしか映像化出来ないシチュエーションなんだ。
 もう休もう。廊下の突き当たりを曲がった所にあるドアを開け、靴を脱ぎ捨てて自分の部屋で寝転がった。
 寝巻きに着替えるのも面倒だ。服に皺が出来ようがなんだっていい。
 今はただ眠りたい。現実逃避したい。頭が痛い。胸が重たい。自分でもはっきりとわかるぐらいに、情緒不安定。
 瞼が重たくなりはじめる。目をつむれば、お嬢様の後姿が浮かび上がってきた。
 ああ、お嬢様に愛されたい。そして愛したい。でも叶わない。お嬢様には咲夜さんという忠実な従者がいる。
 お嬢様と相思相愛になるなら私なんかより、咲夜さんの方が適任だ。私より前からお嬢様のことを知っているし。
 パチュリーさんもお似合いだ。彼女は咲夜さんよりずっと前からお嬢様と知り合っている。
 魔法使いと吸血鬼。肩書きを並べても違和感が全く無い。
 それに比べて私と来たらどうだろう。吸血鬼と門番。もしくは、吸血鬼と田舎娘。アンバランスもいいところである。
 まただ。もう考え事なんてしないと決めたのに、まだお嬢様に未練がある。
 まだ眠れないのか。何の魅力もない自分に腹が立つあまり、ベッドを粉々にしてやろうかと思った。
 コンコン。扉がノックされた。こんな遅くに誰なのだろう。妹様が遊びに来たのだろうか。
 コンコンコンコン。また叩かれた。面倒臭いと思いながらも靴を履いて鍵を開けた。
「め、美鈴」
「お嬢様……?」
 私の部屋を訪れたのはお嬢様であった。寝巻き姿で枕を抱き、私の部屋に光臨なさったのだ。
「深夜にお邪魔して悪いとは思うけど……中へ入っていいかしら?」
「え、ええ。どうぞどうぞ」
 部屋を覗き込み、遠慮がちに中へ入っていくお嬢様。いつもは元気に伸びる蝙蝠翼も今はしなびて覇気がこもっていなかった。
「お体の方は大丈夫なんですか?」
「ええ、ある程度良くなったわ。ただ横になっているだけでは暇だから、相手して欲しくなって来たの」
「そうだったんですか……。あの、咲夜さんは?」
「あの子なら寝てしまったわ。美鈴が嫌って言うのなら、出て行く。明日も早いんでしょう?」
「いえ、いけますよ。一晩寝ないぐらい、気合でなんとか出来ますって。妖怪なんですから」
 今夜のお嬢様は普段の威厳あるイメージと比べて一味も二味も変わっていた。
 自身の我侭を周囲に押し付けるタイプなのに、今はこんなにも気遣いするところを見せてくれている。
 もしかするとお嬢様の気分が優れないために、普段より弱気になっているのではないだろうか。ならお嬢様は今すぐにでも休むべきだ。
 私みたいな低級な妖怪とお喋りするよりも、そっちの方がお嬢様のためになるのではないだろうか。
 弱々しいお嬢様が見たくないというわけではないが、体のことを思えばその方がいい。
 ベッドに腰掛けるお嬢様。艶のある絹のドレスの皺一つ一つに目を奪われながらも、横へ座らせていただいた。
 お嬢様を看病していた咲夜さには悪いが、独り占めさせて頂こう。
「ねえ美鈴。美鈴は私のこと、どう思っているの?」
「……と、仰いますと?」
「私はね、美鈴のことが好きよ」
「そ、それは……光栄に思います」
「そう、それ。あなたは私を恐がってくれる。どんなときでも畏れる妖怪として扱ってくれる。いつでも私を尊敬してくれる。そんなあたなが好きなの」
 お嬢様の言っていることがよくわからない。お嬢様を恐がる者なんて里の人間に行けばいくらでも居るだろうに。
 その人間達を差し置いて、私を選ぶお嬢様の意図がよくわからない。
「人間達は私やフラン、吸血鬼を恐れているわ。でもね、ここ紅魔館であなた程私を恐がってくれる住民は少ないのよ」
「妖精メイド達なんかもお嬢様を慕っていると思われますが……」
「あんなのでは駄目よ。妖精なんて殆どは目の前のことしか考えていないのだから。私が恐ければここから逃げ出せる身なのだし。咲夜も恐がってくれているかもしれないけど、ちょっと違うの。あの子は当然好きだけど、あなたが好きなのとは少し次元が違う。パチェに至っては従者の上司だとか、門番の主だとか、そういう堅苦しい関係じゃないの。当然愛しているけど、あなたの好きとは全然違う。フランとなっては陰で見下されている程よ」
「はあ……」
「もうちょっと素直に喜んで欲しかったんだけど……。そうやって困惑するのが美鈴らしいわね。可愛い、嫉妬しちゃうわ」
「いえ、そんな」
「謙遜しないでって頼んでるんだけど」
「あ、ごめんなさい……」
「ふふ、なんでもないわ。ちょっと苛めてみただけよ。ごめんなさいね」
「もう、お嬢様ったら……」
 お嬢様はベッドへ横になられた。誘われ、隣へ寝転がる。
「普段は威張っているけど、たまには誰かに甘えたくなるの。私の弱い部分を見て欲しいって、思うときがあるの。そしてあなたに今、私の弱い部分を見て欲しいの。あなたの温もりが欲しいの。あなたに抱かれて、安心してみたいの。ねえ美鈴、駄目?」
「お嬢様……そこまで……」
 お嬢様にそこまで想われているなんて考えもしなかった。
 あのお嬢様にここまで他人に甘えようという要求があったなんて知らなかった。
 そういう願望があるというのなら、咲夜さんには頼めないだろう。
 付き従わせようものなら弱い部分を見せて弱みを握られたくないはずなのだから。
 役柄的に私が便利だから私で要求を満たしたいと言われているのかもしれないが、お嬢様はわざわざ私の名前を呼んで頼んでくださっているのだ。
 彼女は私でないと駄目だと仰ってくださったのだ。これ程までにない喜びだ。
 寝そべるお嬢様の上に被さり、お嬢様の澄んだ双眸を見つめた。
「ねえ美鈴……私を抱きしめて。寂しそうに泣く子供をあやすように、口付けをして欲しいの」
「お嬢様の、望むがままに」
 小さな体に触れて背中へ手を回した。ゆっくりと顔を近づける。香水の匂いに酔いながら、綺麗なお顔をみつめた。
「あら、美鈴ったらいい顔つきね。お化粧すれば間違いなく美人になるわよ」
「化粧だなんてそんな、似合いませんよ……」
「私の目が節穴だっていうの? あなたには洋風のドレスだって似合うはずよ。着物もぴたりなはずだわ」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「ふふ、いつかお洒落してみなさい。さあ続きをして」
 お互い目を瞑り、真っ赤な唇をくっつけあった。胸の高ぶりが激しく躍る。夢が叶った喜びから涙が溢れ出る。
 お嬢様がもっと恋しくなり、力強く抱きしめた。お嬢様からも私を求められ、私の腰に手を回された。
 ねちっこく、しぶとく、だらだらと、長ったらしく、しつこいキスをし続ける。
 時々目を開けて見つめあい、うっとり。そしてまた瞼を閉じて相手を想う。
 お嬢様の手が私の髪に触れた。触り心地がお気に召したのか、何度も撫でてくださった。
 お返しにと私も失礼して絹糸のようにさらさらとした髪の毛一本一本を愛でるように指でつまんだりした。
「ん……ちゅ……美鈴、ちょっと失礼するわよ」
「え? ええ?」
 お嬢様が私の体を持ち上げ、反対にベッドへ寝かされた。そしてお嬢様が上に被さり、立場が逆転する。
「病み上がりにはあなたの様に健康的な者の、生きて温かみのある血が欲しいの。だから、美鈴の血を頂戴」
「えー! そ、そんな……」
「安心して、死にはしないわ。そんなにも飲めないから、吸血鬼にだってなりはしない」
「そ、そう仰るなら……」
「ありがとう、その尊敬の眼差しをいつまでも向けて頂戴」
 横を向いて首筋の血管をお嬢様へ見せた。そのままが一番やりやすいとのことで真っ直ぐ見つめなおす。
「大好きよ、美鈴のこと愛してる」
「ええ、私もですよ。お嬢様」
「じゃあ、名前で呼んで。今だけでもいいから、さあ」
「……愛していますよ、レミリア様」
「ありがとう。嬉しいわ」
 大きく口を開けたお嬢様。鋭い犬歯を私の首に突き立てられ、牙が皮と肉を貫通して血管へ侵入していく。
 キス以上の抱擁をして頂いていると思うと嬉し涙が溢れてきた。牙の刺さる痛みに体が震え、それが快感になった。
 被虐的な刺激に悦な声が漏れる。その声を聞いたお嬢様が加虐者的な表情で微笑んだ。
 首筋が熱く痛む。血を吸われているのだろう。私の汚らしい血液がお嬢様の純粋な血液と混じり合うと思うと興奮した。
 傷口が少し楽になる。お嬢様の食事が済んだのだろう。
「ふう……ご馳走様、美鈴」
「お、お粗末様でした……」
 お嬢様の口からは血が滴り落ちている。指ですくい取っている姿がとても可愛らしかった。
「あらごめんなさい、ベッドのシーツを血で汚してしまったわ」
「明日洗濯してもらえば大丈夫でしょう。何があったかは、首を見せれば納得してもらえるでしょうし」
 お嬢様に求められて再度接吻。お互いの舌を束ね、指と脚を絡め合わせての愛撫。
 今お嬢様、いやレミリア様と一つになろうとしているのだ。体の火照りは最高潮。
 布団の上でお互いの名前を囁きあい、抱きしめ合った。
「美鈴、眠たかったら寝てもいいのよ」
「そうはいきませんわ。折角一つになれたのだから……今夜はベッドの上で、語り明かしましょう」
「妖怪同士による、真夜中の談話会?」
「ええ。昔話や愚痴、人間の美味しい所や愛について」
「そうね、それは良さそうね。ここで私を除けばフランとあなたしかいないんだから。妖怪同士にしかわからないことでも、お喋りしようじゃないの」
 咲夜さんやパチュリーさんではわからないこと、レミリア様と共有できない話題の話をした。
 好きな人間の悲鳴の声色。好きな人間の血色。好きな人間の部位。逆に、嫌いな部位。
 人間の愚かなところ。醜く、妖怪よりも残酷だと思うところ。博麗の巫女に対する恨みや憎しみ。
 レミリア様のご両親がどんな方だったのかという話。私のご両親はこんな人でしたという話。
 レミリア様が幻想郷へ来る前、どんな者達と仲良くしていたか聞かされた。私も子供の頃に仲良くしていた友達の話をした。
 話し疲れたら抱きしめあって、二人夢の中。

 朝が来る。遠くから鶏の声が聞こえた。
 側にレミリア様が居られ、綺麗な寝顔を見せるので頭を撫でた。
 このまま私の部屋で寝かせておこうと思い、布団を被せておいた。
 眠たいが我慢出来る程度。人間よりもずっと精力の付く物を食べているのだから気合で何とかなるのだから。

 この日もよく晴れた。
 しかし客や襲ってくる妖怪は出ず、いつも通りのんびりした時間が過ぎていく。暇なので武道の修行が出来るほど。
「励んでるわね」
「あら、咲夜さん。またお出かけですか?」
「ええ、そうよ。また別の本が欲しいだって。人使いが荒いわ」
「ははは……まあ、がんばってくださいとしか……」
「そういえば昨夜、お嬢様の姿が見当たらなかったんだけど……心当たりはある?」
「ええ。私の部屋にいらっしゃいましたよ」
「め、美鈴の部屋に?」
「ええ。お楽しだったわ」
「お、お楽しみ……?」
 咲夜さんは私の言ったことを察したのか、顔を真っ赤にした。さすがにお嬢様と肌を重ねたことぐらい、気付かれているのだろうか。
 いや、それだとわざわざ私に訊かないか。知っていたら今こうして恥ずかしがったりしないだろうし。
 咲夜さんの視線が私の目から逸れ、僅かに下へ下がった。私の首の傷が気になる様子であった。
「お、お嬢様に変なことしたら許さないんだからね! 行ってくるわよ!」
「ええ、行ってらっしゃい」
 気分が清々しい。咲夜さんでさえ知らないことを私は知ったのだから。
 今日も平和である。お嬢様、いやレミリア様も可愛い寝息を立てておられる頃。
 パチュリーさんは相変わらず図書館に引きこもって魔法の研究。妹様も昼間は地下室で寝転がっている。
 咲夜さんは大忙しで、私はのんびり門番。今日はどんな妄想をして暇を潰そうか。

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