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ねぎとろ丼

ねぎとろ丼

B★RSは厨二病的妄想でした

 ※基本的に設定等は「Hobby JAPAN 9月号」に載っているものやアニメ作品を参考にしています。
   故にアニメ版を観ていない人にはネタバレになります。
   アニメでは明確に示されていませんが、この作品ではユウ=ストレングスとして扱わせて頂きます。


   『ブラック★ロックシューターは厨二病的妄想でした』

 私は黒衣マトという名でこの世に生を受けた。でも本当の私はマトじゃない。
 ブラック★ロックシューターなんだ。マトなんてダサい名前じゃない。
 でもこの世界に住む皆はそんなことを知らない。知っているはずがない。
 そもそも私はこの世界の住民ではないのだ。この姿は仮の姿、と言っても良い。
 私は学校の制服等という堅苦しい服を着る人間じゃない。もっとお洒落な服を着ているのだ。
 私が本気になったとき、左目から青い炎を噴出して格好良い私を見せている。
 だがこの世界で生きていくためにあえて隠しているのだ。

 私は武器を複数持っている。そのうちの一つに『ロックキャノン』というものがある。
 岩石を秒間二十発の速度で撃ち出すことが可能な重火器である。
 でもいつどうやって手に入れたかは詳しく覚えていない。
 とにかく使いたくなったから使えるようになったのだ。
 『ロックキャノン』とは別に『ブラックブレード』という武器もある。
 こっちは刀みたいなもの。敵が近くに居るとき何かに使う。
 ちなみに『ロックキャノン』を変質させて太い剣にして使う場合もある。
 それには別に名前がついているわけではないが、そのうち名前を付けても良いと思う。

 今さっき敵、と言った。そう、本当の私が住んでいる世界には他にも住民がいるのだ。
 ブラック★ゴールドソー、デッドマスター、ストレングスらがそれに当たる。
 彼女達とは会えば無言の挨拶を交わして戦闘を繰り返している。
 その戦いに終わりはない。終わることは無いのだろう。

   ★ ★ ★

 朝がやって来た。と言っても、私の住んでいる世界の朝ではない。
 あちら側の世界の朝がやって来たのだ。私本来の世界から観ての話だから、あちら側という言い方が正しい。
 目覚まし時計が鳴っている。あちら側の世界に生きている私はベッドから出て朝食を取りに行く。
 母親におはようの挨拶をして少し冷めているトーストにマーガリンを塗って朝ごはん。
 母、と言ってもそういう設定なのだ。私の本当の母親は行方不明になっている。
 食事を済ませたら自室に戻って学校へ行く支度。
 この世界では未成年の人間は学校というところへ行って集団生活を学ばなければいけない様になっている。
 面倒臭いと思いながらもセーラー服を着て家を出る。
 鞄の中身を再確認する。私の秘密ノートも大事だからだ。
 この秘密のノートというのは私が本来いるべき世界とこの世界とを結んでいると呼んでも差支えが無い重要なものだ。
 このノートにはこちら側の世界の事柄をメモしているのだ。
 このノートがあればいつでもどこでも、私の世界に戻れるのだ。
 忘れず鞄に入れて家を出た。これは常に持ち歩いていないといけない。

 家を出て数分。この世界で知り合った友達に挨拶して一緒に学校へ向かう。
 彼女の名前は小鳥遊ヨミ。
 なんと彼女、私の居る世界の住民なのだ。彼女も仮の姿でこの世界に住んでいる。
 彼女の本当の名前はヨミではなく、デッドマスターという。
 デッドマスター最大の特徴は彼女が持つ大きな鎌『デッドサイズ』にある。
 彼女の身長並みの大きさのその武器はリーチが長く、厄介である。
 面倒なのは鎌だけではない。『スカルヘッド』という使役しているオプション攻撃も厄介なのだ。
 でもあちら側の世界では普段は争ったりしない。この世界の住民に成りすますため、仲良くしているのだ。
 とはいえ争わないときの彼女は中々素敵なもので、普通に付き合っている。

 駅に到着。ここにはもう一人の、こちら側の住民と待ち合わせをしている。
 その名前はストレングス。あちら側の世界風の名前で呼ぶとユウ。
 とても大きな、義手に近い『オーガアーム』を武器にしている。
 その厳つい、鉄の塊みたいな巨拳から繰り出されるパンチは凄まじい破壊力を秘めている。
 当然彼女も私達と同じく学校へ行き、この世界の住民になりきっている。

 電車に乗り込めば各々の『ノート』を見せびらかしたりする。
 私は『ブラック★ゴールドソー』という新手の敵のプロフィールを見せびらかした。その人物像ももちろん描いてある。
 ヨミはある戦闘の記録、というタイトルでユウとヨミと戦闘しているシナリオを書いてきたと言った。
 ユウはこちら側の世界をイメージする風景画を描いてきていた。
 私達はそれらを回し読みして自分達の世界に入り浸った。

 学校へ到着。皆それぞれのクラスへ入っていく。
 クラスメートへの挨拶は程ほどに、携帯電話のメモ帳にこちら側の世界のことをメモしたりする。
 ノートを広げないのはクラスメート達に見られないためだ。
 本当の世界が何なのかもわかっていない連中に、私のノートを見せるわけにはいかない。
 ノートは私自身と信頼できる僅かな人にしか見せることが出来ない。
 お前らの様な下等な社会の屑共に見せてたまるものか。
 どうせお前らには私の本当の姿すら知らないというのに。
 ノートを見せる必要はない。というより、万が一見られるようなことがあったら困る。だから私は教室でノートは開かない。
 ノートに書きたいことが思いついたら、何をしているのか気付かれにくそうな携帯電話のメモ帳機能を使うのだ。
 メモ帳に書いたことはその日、家に帰って自室で篭もっているときにでもまとめたりする。
 特にやりたいことが無い時は別のクラスにいるヨミやユウとメールをして暇を潰す。
 どうしようもなく暇になったときは机にうつむいたりする。寝る振りをしてお茶を濁すのだ。

 待ちに待った放課後。ホームルームが終わったらそそくさと教室を出て行く。
 別のクラスに居るヨミ、ユウらと合流して体育館へ向かう。
 私とユウはバスケットボール部所属。ヨミはバレーボール部所属。目的地は同じ。
 その間もノートに書いたりした話を小声で喋る。周りには出来るだけ聞かれたくないからだ。
 どうせ聞かれたとしても理解できるはずがないだろうが、出来れば聞かれたくない。
 恥ずかしいから。

 部活動もそれなりに、練習が終わればお楽しみの時間。着替えや後片付けを済ませたら三人揃って帰りの電車へ。
 帰りの電車を降りた後、駅近くにあるファーストフード店に入って三人で色々と話し込む。
 話の内容はというと、もちろん私達の本当の姿等についてだ。
 新しい敵を考えた、新しい武器を思いついた、私の方が強い、いやいや私の方が強い等。
 もちろん回りや店員さんに聞かれない様、声量を小さくして話す。
「ユウ……じゃなくてストレングスって尻尾があるね。可愛くて好き」
「そう? へへへー! デッドマスターはなんか艶っぽいイメージだなあ」
「つ、艶っぽい?」
「何て言うか、エロい」
「あ、私もそう思う」
「んもう、そういう言い方は何か嫌! そういうつもりじゃないのに皆酷いよ」
 こうして三人で集まり、学校から離れた所では本当の名前で呼び合う様にしている。
 わざわざダサい名前で呼び合う必要なんてないからだ。
「このブラック★ロックシューター、衣装格好良いね。コートとブーツに短パンっていう組み合わせがお洒落!」
「そ、そうかな~? ありがという!」
 ユウがノートに描いた風景画を眺め、自分が本当の姿で飛び回っているのを妄想しながらジュースを飲む。
 こうやって皆でこの世でない場所に浸っているという気分を味わうのは本当に気持ちが良い。
 家で自室に引き篭もって自分だけの世界に入るのも良いが、こうやって共有した話題を持つというのも素晴らしいものだ。
「次はどういうの描いてみようかな~」
「私もユウみたいに絵描いてみようかな……でも私、絵下手だしなあ」
「やってみれば楽しいよ! ヨ……デッドマスターもやってみなよ!」
 携帯電話を開いて時間を確認した。結構遅い時間だ。
 皆もそろそろ帰るつもりらしかったので、店を出ることにした。

 帰り道、殆ど人の居ない暗い道中。皆でこちら側の住民になりきって喋り続けた。
 どこか恥ずかしさを感じていながら、共通の秘密を持っていることが快感だった。

 家に帰れば風呂と、私の母親という設定の人物に作ってもらった夕食を頂く。
 それらが終われば自分の部屋に引き篭もり、ノートへこちら側の世界に関することを書く。
 学校で携帯のメモ帳に書いたことをまとめたりもする。
 ブラック★ロックシューターに関する設定で良さそうなものがあったら記録していく。
 ブラック★ゴールドソーとの戦いで良さそうなシナリオが思いついたら、小説っぽく仕立てたりしてみる。
 そうやって今日も終わりに近づき、日付が変わる頃になっていく。
 眠くなれば布団に入って目を閉じ、デッドマスターやストレングスと死闘を繰り広げる想像をする。
 皆身動きが取れなくなるほどボロボロになるまで戦って、そして最後は皆仲良くなるという話にする。
 少数のグループを形成して退廃とした世界を旅していくという景色を脳内で映像化していく。
 そのうち意識が落ちて夢の中へと意識が移る。
 こうやって眠っている間はこちら側の世界に戻っているのだ。

   ★ ★ ★

 叩き起こされる。折角良い気分で私の世界に居たというのに。
 母らしい人に「学校へ行く時間よ」と急かされた。
 私はヨミといつも待ち合わせしていることを思い出し、慌てて家を出た。
 携帯を開くとヨミから「どうしたの?」というメールが来ていた。急いで電話をかけるとまだ待ってくれている様だった。
 走り気味でヨミと合流し、駅の方までも急いで向かってユウとも合流して電車に乗り込んだ。
「寝坊したの?」
「はぁ、はぁ……そ、そんなところ……」
 呼吸を整えたら今日もノートを見せてみよう。そう思って鞄を開くと、ノートは入っていなかった。
「しまった!」
「どうしたの?」
「ノート家に忘れてきちゃった……」
「あー」
「まあそういう日もあるって」
 慌てて来たから、鞄に入れてくるのを忘れてしまったのだろう。
 ないからと言って、ほとんど頭の中に入っているから皆と遊ぶには困らないだろう。

 部活が終わった後、いつもの様にファーストフード店へ行く。
 今日は持ち合わせが少ないから携帯のクーポンで買える百円のソフトクリームだけ。
「何かさー、私ってちょっと損してない?」
「損?」
 ユウはそう言ってブラック★ロックシューター、デッドマスター、ストレングスのスケッチを見せてきた。
「ブラック★ロックシューターは飛び道具あるし、デッドマスターは骸骨飛ばせるじゃん? 私だけ遠くから攻撃出来ないじゃん」
「あー……確かに」
「その『オーガアーム』を飛ばせるとかにすれば? 何かのロボットアニメでそういうの見た」
「あー、それ良いね! ナイスアイデアだよデッドマスター!」
 ユウはそう言って早速ロケットパンチ的なスケッチを始めた。
 ノートを忘れたためにこういうメモも取れない。携帯のメモ帳機能に頼るしかない。
 私の携帯のメモ帳は一つのファイルで半角千文字までしか書けない、と思いながら彼女達のアイデアを箇条書きして行った。

 今日はヨミが事情で遅くまで居られないらしいので三十分程で店を出た。
 また明日、と挨拶して解散。家に帰ると真っ先に自分の部屋へ行ってノートがあるか確認した。
 机の上に置いたままだったらしい。何となく寝る前に見たときと置いている位置が違う気がした。
 まさか家の者に読まれたのだろうか? いや、そんなことはないだろう。気のせいだ。
 ノートの一ページ目にはきちんと「見てはいけない」と注意書きをしているし大丈夫だ。

 お風呂を済ませて自室でまたノートを見ていると、そのうち晩御飯よと呼ばれた。
 弟が先にご飯を食べ始めていた。今日の献立は鶏肉。
 お茶を用意していただきますをした所で母らしき人物が箸を持ちながら私を見た。
「ねえマト」
「ん?」
「漫画か小説でも何か書いてるの?」
「え? な、何の話……」
「机にあったノート……」
「み、見たの!?」
「あー……見ちゃいけなかったかしら」
「ちゃんと見ないでって書いてたのに!」
「ご、ごめんね……」
「……」
「ま、マト?」
「……」
 なんということだ。まさか家の者に見られると思っていなかった。
 鞄に入れるのを忘れたからとはいえ、人の物を勝手に見るなんて信じられない!
 弟の表情は「何言ってんのお前」みたいな感じで興味は無さそうだ。
 母に見られただけならまだダメージは少ないだろう。弟に見られるのは勘弁したい。
 私は恥ずかしい余りに何も喋ることが出来なくなった。
 急いで食事を流し込んでいくと、すぐに部屋へと引き篭もった。
 今度からはもっと気をつける様にしよう。机の上に出しっぱなしではなく、引き出しに入れておく様にしよう。
 こんなことはもう二度と起こらないようにすべきだ。しかし母はどこまで見たのだろうか。
 内容に関しては触れられなかった気がするから、流し読み程度で見ただけなのかもしれない。
 それなら中身もあまり理解されていないだろう。そう思うと安心できた。
 机に置いていた携帯電話が震える。開いてみるとユウがまた絵を描いた、という内容のメール。
 添付された写真にはデッドマスターとストレングスが顔を近づけた、甘い雰囲気の絵が写っていた。
 女の子二人が頬を赤く染めて見つめ合っている絵。
 味わったことのない興奮を覚えつつ、私は写真を保存した。また明日見せてもらおう。

 布団に入って今日も妄想しようと思ったところで、先ほどのユウの絵を思い出した。
 まさかあんな絵を描いたりしちゃうとは思いもしなかった。
 もしあの絵のどちらかがブラック★ロックシューターだったら……と思うと胸がドキドキした。
 ユウに頼めば描いてくれるだろうか? いや、そんなことはさすがに出来ない。
 でも……と想像してみると布団の中が暑く感じる程興奮してきた。
 デッドマスターの顔を近くで見る。それはつまりヨミの顔を近くで見るということ。
 ストレングスの小さな唇を凝視する。それはつまりユウの唇を凝視するということ。
 いけない、いけない。私は何てことを考えているんだ。
 こんなことを考えて彼女らに劣情を催すなんて、私はただの変態ではないか。
 大体私はまだ中学生なんだ。こんな話は早すぎるはずだ。
 私は目を瞑り続けて明日が来るのを待った。

   ★ ★ ★

 机の引き出しに仕舞っておいたノートを鞄に入れて今日も学校へ行く。
 今日は寝坊もしていない。一日の始まりとしては最高だ。
 いつもの様にヨミと合流し、駅を目指す。すると彼女はユウが描いた絵の話をし始めた。
「昨日の、見た?」
「あ、ヨミの所にも行ってたんだ」
「まさかあんな絵描いちゃうなんて思わなかった……恥ずかしいよ」
 ヨミはそう言ったがまんざらでもなさそうな表情。もしかして彼女もそういうのに興味があるのだろうか?
 いけない、いけない。私達はまだ中学生じゃないか。
 皆にそういうのを意識させないためにも、今後こういうことは考えないようにしよう。
 ヨミも絵のことに関する話題を口にしなくなった。彼女も気にはしているが、禁忌だと思っているのだろう。
 程なくしてユウとも合流。「昨日の絵どう~?」と訊かれても赤い顔をして「うん……」としか答えられなくなかった。
 絵に描かれた本人であるヨミは私よりも気まずさを感じているに違いない。
 ユウの顔を見てみると「やっちゃったかも……」と言っているのが聞こえてきた。
 絵自体が全く悪くないだけに、もうこういう絵は辞めよう何て言えないまま学校へ着いた。

 お昼休み。三人で図書館へ行ってまたまたノートに没頭していた。
 あれからユウは授業中にこそこそと絵を描いたらしく、今度はブラック★ロックシューターがデッドマスターをお姫様抱っこしている絵だった。
 昨日の絵を見たときよりもずっとすごい、雷にでも打たれた様な衝撃を受けた。
 ユウは悪ふざけをしている様な表情を見せつつ「どう……かな?」と訊いてきた。
 素晴らしい、と賞賛を送りたい気持ちをぐっと堪えて呟く様に「良いんじゃない……?」と返した。
 向かいにいるヨミは居た堪れない気持ちらしく、うつむいて何も言おうとしなかった。
「今日は部活休みなんだよねー。今日もまた皆でこうして集まってどこか行く?」
「そ、そうだね。いつも通りそれで良いんじゃないかな。ね、ヨミは?」
「え……あ、うん。それで良いよ……」
 ユウは何てことをしてくれたんだろう。嬉しいと言えば嬉しいのに、素直に喜べない。
 ブラック★ロックシューターになった私がデッドマスターとイチャつく姿……。

 市松模様や廃墟に包まれた空間でデッドマスターをお姫様抱っこする私。
 彼女の体重を両手で感じ取りながら都合の良さそうな場所を探す。
 辺りには流れる風の音しかしない。埃っぽい匂いが嗅覚を軽く刺激する。
 デッドマスターは頬を赤らめて目を伏せている。
 私は彼女を地面に寝かせ、彼女の細い肢体を眺める。
 大きな武器を振り回したりするが、筋肉はあまりついていない。そんな折れそうな手足を愛おしそうに観察。
 恥ずかしがってか、逃げようとするデッドマスターを掴んで離さない私。
 私の目を見ようとしない彼女を押し倒し、彼女に覆いかぶさる。
 軽い抵抗を見せるデッドマスターだが本気で逃げようとはしない。
 そのうち抵抗するのも辞めて、私にされるがままになる。
 体を沈めていき、手袋を脱ぎ捨てて素手で彼女の頬に触れる。
 相変わらず顔を赤くしたまま、私に視線を合わせようとしない。私は彼女の名前をそっと呟いた。
 すると彼女は私の気持ちにしぶしぶ反応するように、もしくは焦らすかの様にようやく私を見る。
 彼女の不思議な魅力を感じされる瞳が潤んでいるのがわかった。
 彼女は嫌よ嫌よも好きのうち、を無意識にやってしまっていたのだろう。
 もう一度彼女の名前を呟く。すると彼女も私の名前を呟いた。
 彼女の顔が目と鼻の先。さらに近づいて触れるか触れないかの境界まで。
 そっと目を瞑るデッドマスター。ブラック★ロックシューターである私も目を瞑る。
 ほんのちょっとだけでも自分の体を支えている腕の力を緩めれば彼女の唇に届く。
 本当に接吻してしまって良いものかと、躊躇っていると彼女が手を伸ばしてきた。
 デッドマスターの手が私の後頭部に手を置き、私を引き寄せたのだ。
 そのまま勢いで私とデッドマスターは──。

「マト?」
「……えへへへ」
「マト? マトってば」
「……あ」
「どうかした?」
「べ、別に」
「もうすぐ昼休み終わるよ。それじゃあまた授業終わった後で」
「あ、ああ。うん」
 妄想に没頭していて周りが見えていなかったらしい。
 皆はもうすでにノートを片付け終えた状態だった。私も慌てて筆記用具を筆箱に詰め込む。
「すいません、マネージャー。部活のことでちょっと」
「え?」
 メガネをかけた女生徒がユウに話しかけていた。彼女は確かつい最近入ってきた一年の部員。
 ユウに用があるらしく、私には挨拶だけ。
「それ、何ですか先輩」
 一年部員は私の前に広げられているノートを見た。
 今開いているページはブラック★ロックシューターの設定をメモしたページだった。
 ユウに描いてもらった絵をセロファンテープで貼り付けたりしている。
 つまり一年部員に絵を見られている状況だった。
「あー、いやー! これはねー!」
 慌ててノートを閉じる。
 ユウは「部活のことって何かな~!」と勢いで誤魔化そうと一年部員を連れて図書館の入り口の方へ行った。
「見られたかな……?」
 ヨミが心配してくた。たぶん見られたと思う。
 字だけ書いているページならともかく、絵のあるページだから、丸分かりだ。
 ヨミの計らいで何とか誤魔化してくれるのを期待しよう。
 暫くすると図書館内にいる生徒達がどんどん出て行った。もうすぐ昼休みが終わるんだろう。
 そのうちユウが帰ってきた。何とか誤魔化せたらしい。
 部活の人間にも私らの秘密はバレてはいけない。それだけに、私はとても恥ずかしい思いをした。

 図書館を出て別れ、五限目も過ぎて一日のうち最後の授業になる六限目。
 私は先ほどの妄想が爆発したのを思い出して、授業中にも関わらず例のノートを取り出してせっせとペンを動かしていた。
 デッドマスターとキスをする、というシーンだけ文章に起こしてみようと思ったのだ。
 余り得意ではない社会の授業。そしてこの授業は先生の話が多い。だから自然と手が暇になりやすいのだ。
 その暇な手を使って授業をすっぽかして小説を書いている。
 教室ではノートを開かないと決意したが、授業が終わったと当時にノートを閉じれば問題ないだろう。
 だがその考えは甘かった。
 私はついつい没頭してしまっただけに、授業終わりの挨拶を無視してしまったのだ。
「黒衣さん、授業終わりますよ」
「……あ、はい!」
 左右の机に座っているクラスメイトが私を見ていた。
 そして後ろに座っている人も私を見ている。急いでノートを閉じ、挨拶に応じた。
 先生は教室を出て行く。とりあえず一安心。
「ねぇ黒衣さん、何やってたの?」
 後ろに座っていた子からそう尋ねられた。もしかして席を立ったときにノートが見えたのか?
「何か絵とかあったけど……」
 最悪だ。バッチリ見えていたらしい。
「漫画でも描いてるの?」
「あーいや……まあ」
「ブラック何とかシューターとかって何? キャラ?」
「え、あ、いや」
 マズい。恥ずかしい。自分がこれまで考えてきたものを口にされることがこんなにも恥ずかしいものだとは。
「さっきの絵結構良さそうだったから、私に見せてよ」
 前に座っている人も気になったのか、こちらを振り向いて「何の話?」と絡んできた。
 辞めて。私の秘密を探ろうとしないで。
 私の本当の姿はヨミとユウ以外に知られたくないのだから。
 お前らの様な下等な社会の屑共に見られてたまるものか。
 そう強がってみせるがとうとう私は恥ずかしさのせいか、泣き出してしまった。
 お願いだから私のことなんて気にかけないで。何事も無かったことにしてよ。
「く、黒衣さん……あの……」
 今すぐ家に帰りたい。自分の部屋に引き篭もりたい。誰も居ない所に引き篭もりたい。
 お願いだからそれ以上ブラック★ロックシューターの名前を言わないで。
 私は居た堪れなくなり、本能の赴くままに教室を飛び出した。



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この後ヨミとユウがマトを慰めるために三人でのちゅっちゅを始めます。

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