2006/08/10(木)07:55
笹舟
子供の頃、仙台という街に住んでいた。
家の直ぐ近くに広瀬川が流れていて、その川原で友人達とよく遊んだ。
ある日、友人の一人が笹舟の作り方を教えてくれた。
私が作った舟は不恰好で、こんな舟では直ぐに沈んでしまうと思った。
皆で同時にそれぞれの舟を川に流してみた。
不恰好な私の舟は、恐る恐る流れに近づいていくようだけれど、動きはおそい。
「直ぐに沈むかな」と思ったとき、舟は一筋の流れに引っかかるように動き、そしてスルスルと先へ進んでいった。
川原を、舟を追いかけて走った。
これ以上おいかけられないところまで行きついた後は、笹舟を静かに見送った。
そんな昔のことを最近思い出した。
たとえ川面でひっくり返り、形は崩れても、笹の葉が行き着く先は海だ。
笹の葉がゆるゆるとしなやかに流れにのって、海まで行ってくれればよいのだ。
7月14日、我が家は売りに出た。
先々のことを考えると、今の家を売るしかなかった。
売り物になった家は、もう私たちの物では無い。
それを、猫達も敏感に感じとっている。
ケイティが信じられないような粗相をするようになった。
また、家を売りに出すことを決めた頃から、夕方になるとダークカラーの猫が何処からともなく表れ、ウチの庭にマーキングをするようになった。
トトの本能がそれを許さない。
トトが家屋の内側で、マーキングをするようになった。
売り物である家屋の掃除と、猫達の相次ぐ粗相とその後始末への憤りやあせりのために、夜はなかなか眠れない。
7月末にフロリダへ行き、秋から住む場所を決めてきたのだが、帰宅すると前庭の芝が不自然に枯れていた。
化学薬品をまかれたような不自然な枯れかただった。
前庭の芝というのは、住宅の顔のようなものだ。
化粧が乱れては、売り物の価値も下がってしまう。
大急ぎで修復にとりかかった。
しかし、芝は一日二日で生え変わるものではない。
時間の流れがとてつもなく遅く感じる。
そして、芝の修復を終えた夜、パソコンが壊れた。
6月中旬に旦那がブレーカーを落としたとき、バックアップ用に使っていた外付けハードディスクが壊れてしまっていた。
早く新しい物を買わなくてはと思っていた矢先に、パソコンが壊れてしまった。
メーカーの診断は「ハードディスクの入れ替え」だった。
写真を含めた全てのファイルがなくなってしまった。
本当にいろいろなことが毎日おこる。
けれど、行く先は決まっている。
激流ではなく、静かな流れに乗って行きたい。
子供の頃つくった笹舟のように、不恰好で不安定な私たちだけれど、何とか手を離さずに目的地まで流れて行きたい…。
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