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エレファントピア

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若い娘 (ルイス・ブニュエル)

若い娘“The Young One”(1960)
ルイス・ブニュエル監督(アメリカ・メキシコ)

折りしもアメリカ“初代”黒人大統領が、アフリカはガーナを訪問し、奴隷貿易の過去について言及していました。
アメリカは黒人を大統領にまで選出するようになったわけで、これはアジアの一国から見ているだけでは感じがたい、世界の、人類史のエポックとなるようなものすご~~~~~く大きな変化、です。

「若い娘」は、ルイス・ブニュエルの作品としてはあまり有名ではありません。監督はスペイン人で、後にメキシコに移住した人。フランス、スペイン、アメリカ、メキシコなどで、多くの作品を残しました。そういえば、大学時代に「アンダルシアの犬」を見たことがあった。。(今、Wikiを見て、発見。)そ、そうか、あの人か。。あの、目をどろっと、切るヤツね。。


白人女性をレイプした、という無実の罪で逃亡してきた黒人のトラヴァが、小さな島に流れ着き、その島で養蜂を営み暮らす少女と、その隣人の男と出会って…という物語です。当時は、一度疑いを向けられた黒人には、正当な裁判など望むべくもなく、法廷に出される前に、なぶり殺しにされるのを恐れて、逃げてきたのだということが語られます。

youngone


以下、よりネタバレです。

この映画には、3人の主要キャラクターが登場します。
一人は無実の罪から、住み慣れた街を逃げ出さなければならなくなった、トラヴァ。
小さな島に、幼い時から祖父と暮らし、学校にも行ったこともなく、話し相手といえば祖父と隣人の粗野な男だけだったという少女、エヴィ。物語の最初で、彼女のおじいさんは亡くなっています。
そしてもう一人がエヴィとおじいさんの隣に暮らす、粗野な狩人(なのかな?)ミラー。

なんとこの男ミラーは、おじいさんが亡くなった途端に、美しい女性に成長しつつあるエヴィを見初め、なんだかんだと、なにもしらない彼女をレイプしてしまいます。(最近、こんなのばっか…)
一方、偶然少女と知り合ったトラヴァですが、彼も彼女の美しさ(というか、お色気?)にどきまぎしつつも、理性を保って接します。

そんな感じで、彼らのエピソードが、対比的に語られていきます。(英語が全部理解できたら、もっと良かったのになー)


クライマックス前の1シーンにこんなものがありました。

ある日、少女に洗礼を受けさせるため、島に神父と島へのボートを出している男がやってきます。彼らにトラヴァの居所を教え、売るミラー。そして、ミラーと男はトラヴァを捕らえて、柱にくくりつけます。
夜半、ふと外に出てきた男は、緩みかけていたトラヴァを繋ぐロープをしっかりと結び付けます。そして、「喉が渇いたか?水が欲しくないか?」と語りかけます。なぜ、こんな風に、縛り付けるのか、ロープをしっかり結び付けなければいけないほど、そんなに自分は危険なのか?と(いうようなこと)を、聞くトラヴァに、男はこう応えます。
「例えば、ワニや猛獣を捕まえたら、どうする?もちろん縛っておくだろう?お前たちが“人間(man)になろうとするから”いけないんだ。今の場所から這い上がろうとするんじゃない。人間になろうとするから、縛らなくてはいけないんだ。 …水はいるかい?」(多分…)

これを観て、やっぱりオバマってすごい現象だったんだな~~と思いました。
“人間になろうとするな”から、大統領、ですからねー。もちろん本当のアフロアメリカンではない、という異論もあるでしょうが、それにしても、出発点に思いをはせると、彼が選ばれたことは、やっぱり 達成 だと思う。


タイトルのThe Young Oneは、邦題が「若い娘」になっていることからも、エヴィのこと。孤立した小さな島で、友人も持たず、全く世間というものと接触しないで育ってきた自然児の少女。彼女はトラヴァにも、当たり前ですが、まったく偏見がなく、むしろ新しい友達ができたことが、嬉しそう。ミラーに言われて同じテーブルに着かないトラヴァを不思議に思ったり、彼の奏でるクラリネットに合わせて踊ったりしています。
誰にも教えられず、自然のままであれば、そこに黒人と白人の違いはない。というメッセージのように思えます。

ちなみにこの映画が撮影されたのは1960年ですが、トラヴァの役は白人男性が、靴墨塗ってやっています(笑)。その当時は黒人の俳優さん(で、こういう役のできる人)が、いなかったのだそう。

もう一つ、キリスト者らしい問いかけが、映画には埋め込まれているように思いました。最後、トラヴァが無罪であることを確信した神父の計らいで、彼は小島からボートで逃げることになります。逆に言えば、神父の力を持っても、彼の無罪を明るみにして、街に戻すことは不可能なのであって、こうした差別の前に、「神」(宗教?)は無力です。
一方、少女をレイプしたミラーに対しては、神父は彼を告発する姿勢を示しますが、ミラーの「じゃあ、結婚したらいいのか?」(無罪放免だろう?)という問いに、言葉を濁します。そして、告発するかしないかは、エヴィの気持ち次第だけれど、その代わりにトラヴァを逃がすように。。みたいな取引がなされている。(多分…)なんてこったい。。

黒人男性の冤罪と、白人男性の隠された罪。どちらも容疑はレイプ。
そしてそこには公正な裁きというものは一切なく、なんとなくなあなあで、物語は終わる。


いい映画です。(笑)
いや、本当に。こういう肩に力が入っていないで、自然な描き方なんだけれども、たくさんのことを語り、におわせ、考えさせてくれる作品というのは、多くないです。



(13/7/2009)


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